単行のカナリア

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Kindle Unlimitedのおすすめ本とか漫画とか 2022年4月

 Kindle Fire HD 10を買ったらKindle Unlimitedが2か月間ほど無料で利用できるようになった。2年ほど前にも2か月間99円キャンペーンをしているときに加入したのでこれで2度目になる。ネットに転がっているunlimitedのおすすめ作品記事をいくつか読んでみたが、俺が気にいった本があまり出てこなかったのでおすすめを紹介したい。

 

検索するときに便利なサイト  

  まず、俺が本を探すときに利用したのはここ。ジャンルのタイトル一覧からレビューの評価順にすると探しやすい。

www.amazon.co.jp

 unlimited対象作品のみを検索できる便利なサイト。作者、作品名、出版社名でも検索できる。たとえば「麻雀」「反出生主義」「光文社新書」「合本版」とか。

yoshihisamurakami.github.io

 あとは、twitterで「unlimited 読んだ」とか「unlimited 全巻」とかで検索していた。ここまでくると、作品を読むためではなく対象になってる200万タイトルのなかにどんな作品があるのか探すこと自体が楽しかった。

 

 以下、Kindle Unlimitedの2022年4月下旬のおすすめ。Unlimitedは一か月でラインナップがけっこう変わるので、5月にはunlimitedの対象から外れているかもしれないので注意。

 

かんかん橋を渡って/草野誼

srdk.rakuten.jp

  「かんかん橋は、『HUNTER×HUNTER』なんですよ。“血と継承”の物語なんです」と紹介されていて気になっていたマンガ。

 嫁と姑の仁義なき争い。と書けば、なんだか地味になりそうなのだが、嫁姑番付(嫁が姑にいびられるほど上位にランクインする番付)という斬新な制度があり、そこで「あなたは誰なの!?」「そうよ、私こそ嫁姑番付8位の高橋よ」みたいな会話がポンポンでてきて引きがつよい。こう書くと今度はギャグっぽいのだが、姑は陰謀と策略を張りめぐらして容赦なく嫁の心を抓みにきているし、終盤にいたっては人間の尊厳を賭けたご当地革命に発展するしで。けっして地味でもなくギャグでもない。

 すばらしい漫画にはだいたいすばらしい敵がいるのが相場ときている。主人公の姑の嫌がらせは天賦の才で手ごわく、それにくじけずに立ちあがりつづける主人公もまた手ごわい。「そんな姑がいるなら離婚すればいいじゃん」「夫に打ち明けて引っ越しでもすればいいじゃん」とついおもってしまうツッコミに対して、そうさせないために噂を利用した土地の慣習があると分かる。嫁姑番付も出オチネタではなく重要なギミックとして機能していくし、漫画が巧くて感心しっぱなしで一気に読んだ。

 緻密な構成のストーリー、嫁いびりの手段の豊富さ、そして展開の意外性とスケールのでかさは、なるほどこれはHUNTER×HUNTER嫁姑編といえそう。もしゲンスルーが「かんかん橋をわたって」を読めば「これは肉体ではなく心を抓む闘い」と言ってもなんらおかしくはない。

 

その他の漫画

 漫画は他のサイトのおすすめ記事と似たような内容になるのでまとめて紹介していく。完結詰みかつ全巻対象作品のみ。 

 麻雀のルールが分かるならば、カミムラ晋作の「マジャン ~畏村奇聞~」は和風サスペンスホラーとイカサマ麻雀という妙な組み合わせで一読の価値あり。他にも名作麻雀漫画の「根こそぎフランケン」、「リスキーエッジ」は休みの日に一気に読みするの最適。

 

 

 人を選ぶとよくいわれている新井英樹の作品はだいたいunlimitedに入っている。入門にいいのは「シュガー」と続編の「RIN」で、行儀の悪い天才がボクシング界で成りあがっていく王道ストーリー。「ザ・ワールド・イズ・マイン」もあるが、これ、どのようにおすすめすればいいのだろうか。この作品はちょうどいま無料配信中の「ゴールデンカムイ」と同じく、犯罪者がいっぱい出てくる、ヒグマがいっぱい出てくる、死人の数が多いという共通点がある。決定的に違うのは、「ザ・ワールド・イズ・マイン」は人間と自然の暴力性が突き抜けているところ。インストールしている倫理観のバージョンによってはフィクションといえど非常に不愉快な思いをする可能性もある。物語中盤くらいから劇場型テロリストの主人公たちと超自然的巨大怪物のヒグマドンがキルリーダー争いをしだすし、しまいには大量虐殺スプラッタロードムービーみたいになっていって、なんというか怪作。

 

 

 とよ田みのるの「友達100人できるかな」、ハイスコアボーイこと「FLIP-FLAP」は万人におすすめ。99円キャンペーンをしているなら「FLIP-FLAP」のために加入してもいいくらい。水上悟志の「サイコスタッフ」、清野とおるの「東京都北区赤羽」もよかった。他にも、漫画家が伊豆の山奥に引っ越した桜玉吉のエッセイ「日々我人間」をはじめ、「日本沈没」「POP LIFE」も。12巻まで対象の「セントールの悩み」は主人公がウマ娘ナイスネイチャみたいでかわいかった。爬虫類好きなので南極蛇人のスーちゃんもかわいかった。

 

 

 

ラディカルズ 世界を塗り替える <過激な人たち> 

 過激な人たちのコミュニティを取材したルポタージュ本。政治的・思想的な過激さがおもなテーマで、たとえば幻覚剤セミナー、トランスヒューマニスト党、フリーセックス教団、環境保護団体とか。世界を塗り替えたがっている登場人物の主張や信念もいいが、それよりかは理想と現実をすり合わせするために奔走する、彼ら彼女らの活動内容やエピソードがいいのだ。卑近に表現すると、インスタ映えする一日体験環境保護活動や、性について真剣20代しゃべり場化するフリーセックス教団ツアーといった、人間模様が丁寧に取材されている。

 俺がいまもっとも好きな文筆家の木澤佐登志さんが参加している闇の自己啓発会で紹介されていたので知った。

note.com

 

秋の牢獄/恒川光太郎

 unlimitedに数多くある小説のなかでもっともおすすめしたいのが「秋の牢獄」。ホラーファンタジーの短編集で、おなじ日に囚われた人達の話や、土地を規則的にワープする家に囚われた男の話、触れることで幻覚を共有する能力を持った女の話。

 文章がいい。とくにストーリーや設定の斬新さはないのだが、最小限の文章でつぎつぎとイメージを想起させる文章がとてもいい。改行も余白も多く読みやすい。なのになぜその文章量でこうも壮大で幻想的な世界を構築することができるのか、と。じっさいに読んだ文字数と文字から受け取った感情量・イメージ量が釣りあわない。不思議な感覚がのこった。

 

 短編のなかでもとくに好きなのが、幻想と終末が描かれている「幻は夜に成長する」で、ErogameScapeで中央値80点以上のノベルゲームにありそうなストーリーだった。少年ジャンプ+藤本タツキに200Pくらいで漫画化してほしいし、ゲームにするならケロQが脚本・システムを担当して、「さよならを教えて」の劇伴作家にBGMを担当してほしいかんじ。本を閉じてから「あの世界、あれからどうなったんだろう」と度々囚われることになった。なんというか、キレのいい短編の物足りなさはその余白が想像力の遊び場になると気づく。

 関係ないが、短編の小説や漫画を評価するときの「映画みたいだった」と似たような意味で、俺は「長篇ノベルゲームみたいだった」と感じることがある。この本がまさにそう。

 

 

失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織

 おすすめ記事でよくみかける有名な本。心理的安全性とかフィードバックとかを度外視しても、この本は医療業界と航空業界の失敗にまつわる具体的エピソードがいい。パラシュートが開かなかったという苦情は一つもないとか、生還した戦闘機の被弾箇所を調べてそこを強化しても意味がない話とか、ある不時着事故の背景にピタゴラスイッチみたいなミスの連鎖があった話とか、そういうの。

 

シックスサマナの「ダークウェブの歩き方」32号~36号/kzwmn 

 unlimitedの定額制読み放題かつ電子書籍のメリットは気軽に読めるとこだろう。その点で、俺は木澤佐登志さんの文章の熱狂的ファンということもあり、シックスサマナの彼のダークウェブに関する連載部分だけをおすすめしたい。すばらしい解説とともにダークウェブツアーができる。

 拾い読みでいえば「働くことの人類学」という本は小川さやかさんが登場する回、その暮らしのタンザニア商人の話は抜群におもしろい。他の著書にはなかった最近のコロナ禍ならではの話がある。

 

人の殺され方―さまざまな死とその結果

 タイトル通りの本で、絞死、溺死、毒殺、感電死などが原因で人が殺されるときに、どのような過程で死に至り、死体はその後どう変化していくかを紹介している本。親切にも実例画像つきなので注意されたし。

 だいたい死因は、血液から酸素を取りこむことができなくなり、脳が5分くらい酸欠になることで死ぬという。たしかに大量出血も毒物も溺死も、けっきょくは血液が酸素を取りこめない状態に至る。読んでるうちに、死って酸素に頼ってばっかでそんなたいしたこねえなと誤解する。ほか首吊りの定型/非定型の死因の違いや、毒物の種類で死後の血色が変わる、銃弾の種類による損傷被害の違いなどもでてくる。殺されかたという特殊なシチュエーションに限定しているおかげで推理小説を読むときに理解度が増しそう。

 

 

死体格差 解剖台の上の「声なき声」より/西尾元 

 死といえば西尾元の「死体格差」もよかった。こちらは法医学解剖医のエッセイで、解剖医の日常については、死体を通して目にする貧困の格差を淡々と書いている。

 具体的な話が多く、老々介護で起きてしまう悲劇の事例や、解剖実施率の地域格差があり兵家県と広島県では30倍差があるなど為になった。お涙頂戴ではない。どちらかといえば好奇心に訴えかけるのでおすすめできる。死を大げさに扱うことなく、死体と向きあいつづけてきた人間ならではの温度感で、冷静かつ淡々とした視点が読みやすい。一方で、似たような本で「特殊清掃 死体と向き合った男の20年の記録」がunlimitedにあるが、こちらはセンセーショナルな書きかたが目立って好みではなかった。

 

死の家の記録/ドストエフスキー

 unlimitedには光文社古典新訳文庫の作品がけっこうある。そのなかではドストエフスキーの「死の家の記録」は一押し。内容はドストエフスキーの囚人生活時代のルポタージュ、「人間観察と文章を書くのが得意です」のLv99バージョンといえばいいのか、いわゆる人間の解像度が高い。ゆえの美しさ。

 

 古典の有名作品では「老人と海」、「読書について」、「地下室の手記」、「人間の大地」、「阿Q正伝 」、あと俺が好きな「イワン・イリイチの死」もあった。イワン・イリッチが死ぬまでを丁寧に追っていくだけの話で、好きな俺としてもいったいなにがおもしろかったんだろう。さらにはジョージ・オーウェルの「動物農場」と「1984」もある。「1984」は有名すぎるけどいいものはいい。

 

 

素晴らしき日々~不連続存在~」と「サクラノ詩」で引用された本のいくつか

 今年の11月25日にサクラノ刻が発売されるので。エロゲの名作「素晴らしき日々~不連続存在~」と「サクラノ詩」の作中で引用されていた「月と六ペンス」、「シラノ・ド・ベルジュラック」、「論理哲学論考」がunlimitedで読める。しかし、これらの本は電子書籍で読むのではなく、古本屋でぼろぼろのを買って授業をサボって屋上で本をぺらぺらまくって読むのに向いてそうではある。

 

円城塔の短編「リスを実装する」「世界でもっとも深い迷宮」「チュートリアル

 円城塔の言語短編SFが3つほど読める。「世界でもっとも深い迷宮」は生命体となり拡張しつづけてくゲームブックのお話。セーブポイントが出現した世界を描く「チュートリアル」、プログラミングの中で文字として生きているリス観察日記の「リスを実装する」はプロットがアイデアを存分に活かしてある短編。

 

バンド・オブ・ザ・ナイト/中島らも

 家にフーテンが集まって向精神薬でずっとラリってる小説。バンドではなくジャンキーの話。登場人物の誰もがベゲタミン6錠ぐらいぼりぼりと噛みくだいてラリりつづけていている。あげくの果てにトリップ実況中継のようなワードでまるまる数ページ埋めつくされる描写もあ。。中島らものエッセイからするにほぼ実体験だろう。読みおえたときに「俺の知らない遊びを知ってそうでああなんか急に虚しくな」った。

 

 

一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート/上原善広

 室伏広治の師匠こと溝口和洋のノンフィクション本。酒、たばこ、女にまつわる無頼派エピソードもいいのだが、それよりも作中でもっともページを割かれるウエイトトレーニングの内容がすさまじかった。常軌を逸してる。そもそもが溝口和洋のやり投げやウエイトトレーニングなどの訓練法・技術論をこと細かく解説することで、ひいてはその実践者の人物像を理解させていく、という試みの本らしい。

 

 

おすすめまではしない本とか漫画とか 

 四大奇書と呼ばれるもののうち「匣の中の失楽」と「虚無への供物」もunlimitedにあったので読んだ。可もなく不可もない素人推理合戦がその大半を占める奇書だった。ラノベ貴子潤一郎の「12月のベロニカ」はストーリーに仕掛けがある良質なファンタジーだった。「とらドラ!」も全巻対象になっているが、10年前以上の読んだっきりで完全に記憶がない。

 

 まだ書くならば「砂の戦争」、「ルポ・収容所列島」、「統合失調症がやってきた」、「自傷行為の理解と援助」とかは知的好奇心が満たされた。哲学に関する本はいろいろあって「現代哲学の最前線」と「現代思想のパフォーマンス」はよかった。

 

 

プロジェクトぴあの/山本弘

 だいぶ前に読んだからか内容をあまり覚えていないが、「プロジェクトぴあの」はとてもすばらしかったSF小説だった記憶がある。技術の革新にともなって社会がめぐるましく変化していく様をエンターテイメント界を中心に描いた日本SF特有のストーリーの最高傑作の一つだなとおもった記憶がある。

 

以上

 Kindle Unlimitedは月額制の無料で読み放題サービスなので、気になった作品をワンタップで試し読みができる。この記事を書くために2年前に加入したときにメモった読んだ本リストを眺めていたのだが、その内容のほとんどをもう覚えてはいないことに気づいた。なかには読んだのか読んでないのかよく分からない本まであった。いまさらだが、ここで紹介してきた本のほとんどはすでに買っていた本だったりする。 

 「人間、何かを読んでいる間はそうそう死なないですからね。本を読みつつ、片手間に死んでいく、という事態はそうそう起こらないと思います。良くも悪くも、本は拘束具として役立ちます」と闇の自己啓発で語られていた。 

 記事のタイトルに「おすすめ」という言葉を入れているからには、良くも悪くも、俺が書いた記事が誰かが本を手に取るきっかけのひとつか、もしくは読まなくていいという判断の材料になれるといいね。