単行のカナリア

感じて想する

『生活の印象』を読んだ

 

 

子供とYouTubeでアニメソングを漁ってきて気づいたのだが、アニメ『ロミオの青い空』のオープニングテーマ曲とバックホーンの「世界樹の下で」は、サビのメロディがほぼ同じだ。

『生活の印象』

 聞いてみたら、たしかにほぼ似ている。バックホーンの「空、星、海の夜」がジブリの某作品の曲と似ていることは有名だが、これは知らなかった。

 日記、夢、音楽やドキュメンタリーの感想文、詩、思索、引用、いいかんじの短文の集まりからできているSF作家の樋口恭介の散文集。「新しいTwitter」と称してGoogleドキュメントに書き連ねていた呟きをまとめたものらしい。最もページを割かれているのがTwitterについての諦めとか口惜しさとか決別とか、そういう諸々の思いだった。木澤佐登志さんのツイート周りでたまに目にしていて名前だけは知っていた。知らなかったが、著者は何度かtwitterで炎上を体験しているようで、特に興味深かったのがそこらへんについての語り。いや、興味深いは違うかもしれない。惹きつけられたのは間違いない。

 断片的な文章が、てんでばらばらに配置されていて、その断片を何らかの志向性をもってまとめることはこの本の趣旨にそぐわないと思う。その上で、興味深かったのでTwitterへの言及についてまとめてみる。

 曰く、

Twitterにいる人たちみな、Twitterをやめたいと言いながらTwitterをやっていて、とても苦しそう

Twitterを目にするたびに何かの派閥と何かの派閥がマウントを取り合っていて、なんかもうそれが自明のことのようになっているのだが、普通にみんなもっと仲良く過ごせるといいのになと思う。

SNSで受けた傷を癒すためにSNSに投稿するのは、漂流者が喉の渇きに耐えかねて海水を飲むようなものだ。

・人間とネット、とりわけSNSは相性が悪い。もはやその命題は自明だ。結論が今後変わることはない。次はない。改善などない。SNSの中に希望の未来はない。

・人が死んだり、誰かのキャリアが断たれたり、恩義のある人々を裏切ってまで書かれるべき百四十字など、絶対にないと思う。

・ここにある身辺雑記めいた文章でも、Twitterに流すと批判や嘲笑や罵倒のような反応がある。やっぱりもうあそこには戻れないし、戻るべきでもない。戻らないことで避けられる事件がある。

Twitterは、誰かが怒るとアクティブユーザーが増え、アテンションが集まり、KPIを満たし、広告費の増収につながるという構造があり、ゆえに運営としては誰かを怒らすことを加速化させることが最適解となる。

Twitterはもう、自分の中では完全に終わって、未練もなくなった。場所の作り方がわかったから。

 大げさじゃないのだろう。部分としてはそのような場になっていて、その傾向はより加速しているのだろう。もうTwitterをやってない人間だが、なんというか、そういう感じになっているだろうなとはうすうす感じている。MK2さんは鍵垢になり、面白い本の情報源だったアカウントが永久凍結されたし、音楽とファッションを参考にしていたアカウントが自死についてのツイートを通報されてうっとおしいからと鍵垢にしていたし。俺の好きなそうなツイートが少しずつ減っていってる。

 とはいえ、『生活の印象』は、音楽やドキュメンタリーの話などありもあり、まさしく散文。GEZANやFUGAZI、そして最初に引用したバックホーンとか、本ではじめて知ったmoreruとか。邦楽ロックバンドについての言及で、古川日出男の『ボディ・アンド・ソウル』を思いだした。

 話題は様々だが、どの文章も、その通奏低音になっている内省のリズム感がいい。補足を補足するような冗長さや、逆に大胆な断言とか、内省ならではのバランスの偏りとか。書くこと、炎上、SNSについての話題が多いからといって、別にそれが核というわけでもなさそうで、ただ思うがままに書いていたらそうなっていた、と思考を写し取ったような文章がいい。書くことの営為そのものの安らぎ。独特のリズム、話題の散らかり方。普段着の文章。その感じがとてもよかった。

 でも、やっぱTwitterの話が面白いんだよな、この本。Twittterに関しては、やってない俺が唯一言えそうなのが、自傷・自殺の予防現場で求められている援助希求能力を育む場としてはあまり向いていなさそうくらいだ。あそこは「自傷行為や自殺の意志をほのめか」すことに負のインセンティブしかない。だったら俺はいいや、でもみんなは面白そうな本について呟いて欲しいという気持ちと、筆者のように身辺雑記でさえ通りすがりに唾を吐きかけられるような場になったらもうどうしようもないという気持ちもある。

 あと、震災、コロナと文中にあれば、その文章が大体いつごろに書かれたものなのかの目安になるが、それに戦争が加わったのが二千二十二年なのだと思った次第。


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 空前のマイブームでTHE BACK HORNばっかり聞いている。それもあって読んだ本にバックホーンの名前がでてきて嬉しかった。