単行のカナリア

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『明日、私は誰かのカノジョになる』二章~致死量の自由~ 感想

 『明日、私は誰かのカノジョになる』の感想をもう書かないというのは嘘で、今回は二章の感想を時系列のままに箇条書きで書く。なにせ最近の俺とくれば、明日カノについてしか考えていない。関西のレンタル彼女サービスのサイトをいろいろ見て回っていたらレンタル彼氏もあると知り、さらにだいたいレンタル彼女は同性OKでレンタル男子は同性NGということを学んだ。

 ネタバレあり。

  • 二章では雪の友人のリナが主役になる。「体も心も売らない」と高潔を守ろうとする雪とは違い、リナは誘われるがままに3Pするし、パパ活では大人ありの関係の相手が複数人いる。 
  • リナは「だって雪は私のこと抱いてくれないじゃん、そういうことでした埋まらない寂しさってあるもん」と言った通りの性を生きている。でも、抱かれたところで一時的な安心感を得ることはできているっぽいけど、長くは持たない。
  • 雪とリナは、男性関係においては対極の振舞いだけど、どちらも孤独であることに変わりないという。体が繋がりすぎても、繋がらなさすぎても孤独なのだ。
  • ホテルの電話機、ヤコブ・イェンセンのやつだ! 俺も欲しかったけど、電話機使わないでガマンしたやつ。オシャレな建築事務所でたまに見かけた。
  • リナは、行為中は寂しくなく、また体だけ求められても嬉しいという気持ちがあって、そんな自分こそ惨めと思ってしまうのがしんどそう。雪という清廉な存在が身近にいるからこそ、比較してしまうだろうし……。
  • 二章では性欲モンスターの飯田さんがちょくちょく出てくる。LINEがおじさん構文じゃない。なにかこなれてる感がすごい。あと性欲が強い。
  • リナは男なんてみんな簡単ほんと馬鹿みたいからの私こそ本当に馬鹿みたい、と自己嫌悪の無限ループに陥っていてしんどそう。
  • なんか、行為によってインタストに解消することができる性欲と、安定した関係性を継続することによってしか解消されない根源的な孤独の、それぞれの性質の違いが厄介な問題を生み出すのだろうと感じた。恋と性欲を区別できない十代前半、孤独と性欲が混じってしまう十代後半とか。
  • 夜勤明けの空をおすそわけする正之さん。雪の返信の「すごくきれいな空だね。同じ空を見てるんだなと思うと」のつづきが気になる。嬉しくなる? 安心する? いずれにせよ正之さんはその文章を何度も読み返すのだろう。 
  • この後のリナと雪の食事シーンで、リナが嘘をついてしまう。嘘をつくのは、相手に嫌われたくない軽蔑されたくないという自己保身の嘘とはいえ、相手のことを大事に思っているからこそ言えないこともあるので何でも話せばいいってもんでもない。難しい。どのような嘘だとしても、親しい相手からすれば隠し事ってなるのもまた難しい。
  • リナが雪と飯田と三人で食事に行くことが決まったときの表情が本当に嬉しそう。リナは感情表現が豊かで見ていておもしろい。リナは喜怒哀楽を行ったり来たりして心が忙しそうだ。よくない言い方をすれば、本人の自己評価にあるように情緒不安定ともいえるけど、そういうこと言うな!
  • このまま飯田さんが彼氏になってくれれば…全部うまくいくのに…」の回想シーンで差しこまれる受け渡される金のコマが印象的だった。明日カノは「金を介した、一時的な繋がり」がよく出てくる。ありとあらゆるものが換金可能になってしまう社会で、恋だとか愛だとかの確からしさを感じることよりいっそう難しくなるのだろう。そういう現代社会を描いているマンガなのだ。
  • なんで私は他人の言葉や行為にしか自分の存在価値を見出せないんだろう」というリナの独白。なんでだろう。その原因を特定できたところで、おそらく問題解決とはならないだろう。ただ自分で自分の存在価値を認めることは誰にだって難しいと思う。俺は「自己肯定感を上げる方法」をけっこう読んできたがよく出てくるのが「他人に承認される」って書いてあった。って堂々巡りじゃん……。
  • えー、なんて書けばいいのだろう。雪とリナが化粧品の買い物中にサンプルを試したとき、リナが雪の口を拭ってあげるシーンなんですが、ここは明日カノの名画の一つではないでしょうか。リナめっちゃ楽しそうだし、雪もありがとうって言われて嬉しそうだし、「雪いつも一緒にいてくれてありがとう」「……それ私のセリフだよ」とかのやり取りの温かさにじんわりくる。もうここでハッピーエンドでいいのでは。でもそうはならずに、物語はつづく。 
  • 雪がついに性欲モンスター飯田と対面する。雪は自分は頭が悪いと一巻で思うシーンがあったが、少なくとも知識豊富そうだ。おっさんと横文字の功罪について盛りあがれるなんて教養なかったらまずできないでしょう。
  • で、リナはその会話に混ざれずに疎外感を感じてしまう。というか、自分が話してばっかりで雪の話をあまり聞いてなかったに気づいてしまう。そこで不信感の芽がでてしまう。沈黙がとても怖いマンガ。
  • 飯田と雪がリナのプレゼント選びについて会話するシーンで、雪がリナの喜んでいる顔を想像してふっと微笑むところめっちゃいい。その人の喜んでいる顔が見たいって、友情とか愛とか含めても最上級の関係だと思う。
  • 三章の主人公のあやなが登場。感じ悪っ! お前は顔がいいから特別扱いされていいなあ、とか嫌味以外の何物でもない。あと、あやなずっと犬歯が見えている。これ話に関係してたっけ? てか明日カノに出てくるキャラって初登場シーンの印象大体悪いな……。
  • 雪はタピったことないらしい。俺でも前に知人の連れ添いでいろいろな店をタピり回ってたから意外だった。ちなみに、タピオカは梅田の阪急三番街にある台湾甜商店が一番よかったです。一人じゃ行けないけど。
  • 雪は雪で自分のことをあまり話さないし、リナはリナで相手の話を聞こうとあまりしない。それはそれでバランスがいいと思うのだけど、そこに不信感の種があると急に話は変わっきて、相手のことを疑惑のまなざしで見てしまうようになる。いままでうまくいってたやり方がずっとうまくいくとは限らない。
  • 雄大が再登場。雄大、普通にいいやつだった。リナと口論になりつつも「女は好きな人以外としたら心がすり減っていくよ」と言われたら譲歩する。そこで「それも自分で選んだんだよね」とか追い込みできたんだろうが、そんな野暮なことはしない。そのあと、雄大に性抜きのデートプランを提案されたときのリナのいぶかしがる表情がいい。表情が雄弁に語っている。ほんとリナは言葉が顔に書いてあってそこにそこはかとない愛嬌がある。で、次のシーンではデート後に笑顔で楽しそうにしているっていう。リナが恋愛モノが好きなのいかにも感に、雄大が思わず笑ってしまうのも無理ない。おそらく男性読者の八割がリナと一緒に『ミスト』や『レクイエム・フォー・ドリーム』を観たいだろう。
  • リナって俗にいう「軽い」女として描かれている。でも、身軽さと悩みの軽さは別に比例するわけではない。能天気に生きてそうな人が深刻な問題を抱えていることがあるように、リナの自己嫌悪もけっして軽くないし、むしろ深刻。致死量の自由を謳歌し、致死量の自己嫌悪が残る。 
  • 行きずりの3Pから始まるビターラブストーリー。これぞ明日カノ。
  • リナはリナのために時間と愛情とお金を使った方がよっぽど有意義」と気づくが、きっとリナはこういう風に後悔しては反省会を行うことをもう何度も繰りかえしているのだろう。
  • 飯田はすごい。何がすごいって性欲がすごい。飯田は、顔もいいし、紳士的で気遣いもできるし、品性もあるし、そして、何より大事な金払いもしっかりしているから良心的な「パパ」なんだろうけど、谷間にホイホイ釣られちゃうのってどうなのよ。あと飯田は神妙そうな顔でスケジュール調整するの怖いからやめよう。
  • 飯田さんだったら素敵にお祝いしてくれそう…」の楽しみにしているリナの表情は切なくなる。リナは、飯田はあくまでパパ活相手でしかなく、お金を介した偽りの関係性なのは身をもって理解していながらも、いっしょに誕生日を祝ってもらおうと期待してしまう切なさ。
  • 正之さんがちらっと再登場! 雪に急に予定を変更されたところで文句の一つも言わない! 人間ができている!
  • 雄大とリナが夜の公演を散策するシーン、「何も考えていない馬鹿な女ーって思われるよ多分」「実際事実なんだけど」とリナは自己評価が手厳しい。馬鹿というよりかは、リナは飯田なら予定を絶対空けてくれると思い込んでいるあたり、楽観的なのだろう。人を信頼しているともいえる。それで男に裏切られてしまうから、そんな浅はかな自分を嫌に思ってしまう。
  • リナが雪がデリヘルで働いてる疑惑を抱いて、雄大とバーで話す。そのときの雄大は画像検索を使いこなしていて賢い。雄大は風俗情報に詳しいおかげで、リナの誤解を解いてあげるのも偉い。このブログでは雄大を推しています。
  • リナに隠し事をしたくないと雪はついに隠していた素顔を晒す。で、同情されてしまう。リナにごめんねと謝罪されて、辛かったよねと同情されてしまうのだ。そう言われたときの雪の唖然とした表情に心が痛くなる。一巻で、雪が「その視線が私を哀れにさせるの!!」と壮太に言い放った内容が、もっとも仲が良い友人でのリナがやってしまう。そのすれ違いのシーンにさらに畳みかけるように、次のコマでリナ視点では雪とさらに仲良くなって絆が深まっていると思っているのがやるせない。まあでもこれは二章の話で俺は単行本で最新刊まで読んでるのでまあまあ。
  • リナは坂田さんからのLINEを既読無視してスマホ置いて雄大のもとに駆けよる一方で、雪はリナの勧めで購入した口紅?を塗らずに置いて出かける。この両者の対比させて、第二章は幕を閉じる。
  • ……っていう第二章は決定的なすれ違いで終わってしまう。そこで終わりならもうどうしようもないが、まだ物語は続くし、それを知っているから過程として読んでしまうんだけど、やっぱ切ないシーンだ。コミュニケーションに正解はない。とはいえ、間違いはあるのだ……。
  • 第二章では金が差しこまれる一コマが数回ほど出てくる。金を介した関係性というのがことさら強調される。パパ活、レンタル彼女というサービスのように、金で収支を合わせやすい利害関係のなかで人間関係をやっていくことの功罪について、このマンガでは功も罪もどちらも描かれる。功は、一時的、都合がいい、後腐れがない。罪は、安定しない、寂しさが浮き彫りになる、トラブルが起こる。それを絶妙なバランスで冷徹なヒューマンドラマを書いていると思う。需要と供給が一致するならば大抵の事柄は取引可能とされる現代社会で、人間関係を取引してしまったときに生じるドラマが、『明日、私は誰かのカノジョ』の魅力の一つと思い直した。
  • 読み返すたびに、雄大すげーな飯田は性欲すげーなってなってる。飯田がぽっちゃり系はあまり好きではないとか選り好みせずに、雪に咎められるシーンで捨て台詞を吐いて去るようなダサいことしなかったら俺は好きになってしまった。
  • リナが雄大パパ活をやっていることを告白したあと、リナが「引く?」と二度も尋ねたときの雄大の「なんで?」という返しがかっこよかった。これ、共感や理解のさらに上をいった受容では。雄大にとってはパパ活なんてのは別に不思議なことでもないから、逆にそれに対して負い目を感じているリナを疑問に投げかける。雄大が何の違和感もなくリナの告白を受け入れたことが明確に分かる返しになってる。雄大すげー。
  • 雄大きっと人気投票で上位にいるだろうなと調べてみたが、別にそうでもなかった。初登場シーンのイメージで悪すぎたのかもしれない。だいたいみんな初登場シーンのイメージが悪いのなんで。
  • 雪がデリヘルをやっているかもしれない疑惑が出たときにリナは雪に失望する。自分と同じだったことがショックなのって、リナが自己嫌悪をしているからそんな自分と同じなのは失望してしまうという話で、それがリナの生きづらさを象徴しているようで物悲しい。
  • リナにとって、デリヘルとレンタル彼女の間には大きな溝があるらしい。雪に隠し事をされたことには変わりがないが、デリヘルとレンタル彼女だとその重みが唖然とするほど違うってのは興味深かった。そこで、リナが体を売っていることに負い目や引け目などを抱えていることが強調される。でもそうやってまでどうにかしたい寂しさがあることこそ目を向けるべきなのだろう。つまりは、生きづらいという話であり、俺は明日カノに引きこまれてしまう。