だいぶ前。
『ぼっち・ざ・ろっく!』の八話を見た。ライブの演奏の個々の技術は稚拙ではないが全体として噛み合っていない表現がとてもよかった。また、ギターヒーローが覚醒したあと真下を向きながらギターを弾いている様もかっこよかった。
そのシーンで、瀬戸口廉也がシナリオを手がけてFANZAで萌えゲーアワード2019 シナリオ賞・主題歌賞となった『MUSICUS』という名作ロックンロールンADVの前座のバンドが下手ではじめてライブハウスにやってきた主人公が困惑するシーンを思いだした。
メンバーは僕とそう年が変わらなそうな若い男の人たちで、汗だくになって演奏している。
客席の人たちも、それに合わせてリズムをとって身体を動かしている。
聴いたことのない曲だけれども、このジャンルの曲はよく知らないのでオリジナルなのかなにかのカバーなのかはわからない。
自分たちで曲を作って、演奏をして、こうしてお客さんが集まって、とてもいい雰囲気の場所だと思う。
僕もその雰囲気に浸って、他の人たちのように身体を揺すったりしたいのだけど……ああ、また外れた。
気がつきたくないのに、ギターの音が外れたり、ドラムのテンポがズレたり、歌声が先走ったりすることに気がついてしまう。そしてそのたびに、僕の心は現実に引き戻される。
僕はなんてひどいのだろう。あんなに一生懸命に演奏しているのに、細かいアラを感じてしまうんだ。
ここはそういうところを気にする場所ではないと、僕だってそれくらいは理解出来る。でも、飼い猫を外に出すと鼠やら雀やらを捕まえてきて血みどろの死体をテーブルの下に並べるように、勝手におかしなところを捕まえては僕の前に差し出してくる。
『MUSICUS』
瀬戸口廉也が手がけた『キラ☆キラ』と『MUSICUS』のどちらににも、学園祭で校歌をパンクバージョンを演奏するというベタな展開がある。『けいおん!』でもあった。『ぼっち・ざ・ろっく!』ではなかったがそもそもバンドメンバーのうち半分が同じ学校ではなかった。
「ぼっちちゃんは目立った服装を着て、他校の生徒とバンドをやり、ライブハウスでバイトをしているってヤンキーじゃん」的なツイートは納得した。
「アニメ全話でぼっちちゃんは成長していないのが凄い」的なアノニマスダイアリーは納得できなかった。脳は環境に散在していて(池谷裕二の本)、性格は他者との通時的・共時的な関係性のなかでそのつど解釈されるもので(渡邊芳之の本)、築かれた関係性は当人の資本に数えられるので、バンドを組めたぼっちちゃんは成長したとおれはおもった。
インターネットのニコニコ動画地方では稚拙なバンド演奏を笑いものにする悪しき風習があり、その代表的なものにアマチュアバンドがASIAN KUNG-FU GENERATIONの『リライト』をライブでカバーした動画がある。
『ぼっち・ざ・ろっく!』の「あのバンド」という曲の歌詞の「背中を押すなよ もうそこに列車が来る」は、俺がたまに書く「崖っぷちに立っているときに必要なのは背中を押されることがない」と感性が似ていて、まあよくある表現だよなーとおもった。
あと『MUSICUS』にぼっちちゃんみたいな髪色のキャラクターがいてぼっちちゃんの真逆みたいな容姿とファッションだった。