単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

僕はまだ何も知らない。/石川智晶

深淵から爽やかな風が吹き荒れる。

実はこのアルバムは全曲レビューをしようと思っていました。
そして、2、3曲ほど試しにレビューを書いてみて、すかさず挫折しました。

分かりやすい歌詞かなって思っていたら、その実、全然意味が読み取れなかったり、読み取れてもどこか違和感があって。
それはつまりこのアルバムに、表面的なイメージでは足らないほどの深さがあるようなんです。
しかも、えげつないくらいに深い。というかこのアルバムには底という底がなさそう。

中には「分かりにくいようで分かりやすい」という意見もあるので、個人差がかなりあるようです。

楽曲そのものは、風通しよく、聞きやすいポップソングになっています。メロディーも素晴らしく、様々な楽器の音色も心地よい。
深夜のBGMとしても聞けるし、休日の昼下がりに似合う雰囲気もあるようです。
要は、しっとりしている。

それでいて、歌詞は「一見」、センチメンタルと風景描写が主なので、詞の世界観にはすとんと浸りやすい。
たまに、無機質なサウンドの異色なメロディーが飛び込んできますが、
基本は爽やかなぽっぷそんぐとなっています。

でも、それは表面上の話で。

一度、ひっかかり・違和感を感じてこの歌詞と向き合ってしまえば、そこからは途方もないほど深淵に広がる世界の入り口に出てしまいます。

歌詞ではいわゆる「答えがない問い」を探求していて、生と死、人間、原罪、
後悔、希望、醜さ、美しさなどテーマは多岐に及び、どれも一筋縄ではいかない。
いくわけがないよ、考えるだけで辛くなってしまう現実を、彼女はその純粋な眼で写し取って言葉にしています。

それは、いきなり提示しても拒絶されてしまうテーマだからこそ、爽やかなぽっぷのオブラートに包んで、こういうで風に曲にしている。
そうしないと、このアルバムはとんでもなくシリアスなアルバムになってしまうのでしょう。
いや、人によっては十分に「シリアス」なアルバムだと思いますが。


といっても、曲自体も単純に素晴らしいものばかりです。
「house」は個人的に一番はまっている曲です。懐かしさを感じてしまうメロディーが極上。
全般にわたり、テーマに壮大さを感じさせつつも、風景描写を織り交ぜることでより「生活」に寄り添う身近なスケールに落とし込んでいるのでしっくりと聞きやすい。
曲は、あくまでぽっぷなんですよね。

しなやかな力強さと穏やかな癒しが、折り重なって、壮絶な世界観を構築しているとんでもないアルバムです。


こういった作品を「芸術」と呼ぶんでしょうね。
聞きやすくて、親しみやすくて、綺麗で、でも実は、とんでもないディープな世界観を内包していて、でも結局はやっぱり聞きやすい。そういうの。


とくに、アンインストールの完成度に至ってはもう「すごい」しか言えないですね。
ただ、その果てのない世界観に圧倒され、目をつむるのみ

 

 

追記

proserさんに頂いたコメントで

 

歌詞は答えがない問いを追求しているというよりは、ぼくらの関連を除いてひたすら彼女の歌詞はひたすら無難な内容に徹しているように思います。「諦めなけ れば夢は叶う」ではないけれど「そんなの嘘っぱちだ」でもなく「叶えられる人もいる、叶わない人もいる、でも後者が多いく」らいの現実的なスタンスの歌詞 ではないでしょうか。


とありました。アルバムでくくるならこっちの方が明らかに的確ですね。

僕には「アンインストール」の印象があまりにも強すぎたもしれません。