単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

Syrup16gの曲レビューその10「汚れたいだけ」



壊さないで


大好きな曲です。
辛いときには音楽を聴く気にはならないのですが、
この曲は別でして。
どん底の気持ちのときでもな聞ける。
というか、むしろすがりたくすらなるような曲で。
すっかりもう欠かせない存在で。
依存してしまうくらいに浸っています。
でも、これは自分だけじゃないと思ってもいて。
きっと多くの人にとって大切な曲だろうと思います。
そのせいか今こうやってレビューを書くことに気構えてます。
「汚れたいだけ」がアルバムのラスト曲であることを踏まえて、
なにかしらの一つの起点になる、
syrup16gにとっても重要な曲だと思います。


というわけで、汚れたいだけ。


テレビをつけたら
何も感じなくなってしまったよ
そういつのまにか



卑近なことへのつまづき、自分の醜さ、
矛盾、欺瞞的な態度、見え透いた嘘、
日常で自らの「汚れている」部分に気づいてしまった。
過去のその瞬間に焦点を当てているような詞で。
シンプルで、おぼろげなサウンドで、
感情を込めずに歌っているように思えます。

それに対して最初は嫌だなあ、って軽い気持ちだったとしても、
どうにも自分の汚点につい気づいてしまう。
それはきっとおそらく悪いことじゃない。
思考停止をせずに真実を見つめているから。
でも、そう割り切れない心もきっとあって、
自分がこうも汚い存在であると絶望してしまう。


歌詞では気付いた後の感情までは歌われていないのですが、
むしろ「何も感じてなくなってしまった」とあるのですが、
それはきっと嘘だと思います。
そもそも慣れて耐えられるならきっと歌になんかしていない。と。



しょうがないね




そして、いつしか「汚れていること」を諦める。
でも、慣れることは恐らくなくて。
でも、何の解決にもなってない。
だから、さらに自分の醜さ、汚れをみつけてしまう。
それはきっと辛いことでしかない。

これは痛いぐらい実感のある気持ちです。
他人がどうこうとか、人間がどうとか、
それ以前にこの自分はこうも汚らしいのか、と。
気付いてしまったときには、絶対的な絶望があったと思う。
器用な人はそれを無視したり受け入れることができるかもしれないけど、
そこで立ち止まって自分嫌悪の渦に巻き込まれる人もいる。
その苦悩を、感受性があるとか、誠実に生きているからだとか、
そんな都合のいい言葉では決してフォローできないほど、辛い。

と、、またもそういう辛さらまでは歌われていないのですが、
詞と詞のあいだの行間からは、
抱え込んだ悲しさが聞こえてくるような気がして。
けっして字面だけが全てになる歌ではなくて、
楽曲のシンプルさも、感情が脱色されたような詞も
あえてそうしたって意図を感じてしまいます。
そうして冷静にならないとあまりに重いことだから、と。


脳が思考の停止を始めたら 
そこから何か落とした
探してみたってもう
見つけられるのは
自分の手


いずれは苦悩に耐え切れなくなってしまい、
思考停止に陥って立ち向かうことをやめて、
そこから探してみようか、始めてみようとか。
でも、それでは見つからないんですよね。
もう欺瞞的な自分しか目に入らないのです。
無暗に探している自分の手だけしかないのです。
それは当然のことで、
「汚れている」の部分などの総体としての自分があって、
そこを蔑しろにしては本来あるものすら見えなくなる。
だから、汚れても醜くても立ち向かわないといけない。 

後半でおなじフレーズをシャウトするように歌っているのは、
もう我慢できなくなった心情とか、理解していても納得できないとか、
一気に人間の生々しさが浮きでてくるように伝わる。
そこでああそうだよな、それは辛いしどうしようもないよな、
と深いシンパシーを感じましたね。
最初に聞いたときはここでグッと掴まされたのを覚えています。
「汚れたいだけ」に、どれほどの複雑な心情が込められているか、
そういうところがなにより優しくて頼りになるなと思いました。


人生なめくさってた




そうやって摩耗してしまった精神からぽっとでてくるのは
汚れたいだけ、という諦めの姿をみせる言葉。
ひらすら逡巡したあとの深い絶望の言葉。
しかし、諦めるというのは汚れることに対してであり、
そして、汚れるというのは逃げないということでもあって、

つまりは、前向きとも捉えることができる宣言だと
私はそう解釈しました。


だからそれは、

壊さないで

という言葉に繋がる。
汚れるのを諦めて生きていこう、と。
絶望することによって希望が見えてくる、
そういった気持ちもあるのかな、と思います。


楽曲はそぎ落としたようなシンプルさがありながらも、
本当に深い。歌詞の一語一語が示唆に富んでいます。
それら全部をひも解くとこはたぶん不可能ですが、
それでも響いてくる切なさがったり、悲しさだったり、
本人すらも整理しきれない「感情」というものを感じます。
どうしよもなさ。その、どうにもできない感情を含めて、
「汚れたいだけ」は共感をもって救いとなっていると、
そんな曲なんじゃないかなと、思っています。

大好きな曲です。
レビュー難しいですね。