単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

色褪せることのない素敵な風景  天野こずえ「ARIA」


 別館に書いていた記事の仕上げ。コミック「ARIA」の感想です。当時、殺し屋一やヒミズなどの陰鬱な漫画にハマっていた荒んだ時期に、評判の高さを聞いていたこの作品を自然に手に取ったのが出会いでした。どこかで癒しを求めていたのかもしれない。

 

 「未来系ヒーリングコミック」「癒し系」と称されることが多いARIA。しかし、何度も何度も感動させられて泣かされた私としては、心の奥深くまでに干渉してくれるこの作品を癒し系とは呼ぶには抵抗があります。なんせ最終話を見わったときに抱いた、もうこれで本当に終わってしまうのかと悲しい気持ちによって、心に深い傷を負いました。

 そうやって変わってゆく日常さえも前向きに捉えて描いてありました。けれど、以前の私はそれを受けとめることができずに、ひらすら悲しくなったのが懐かしく思い返されます。


 以下、恥ずかしいセリフ解禁!


 ARIAは、主人公の灯里が一人前(プリマ)になるまでの過程を、様々な登場人物の視点も織り交ぜて描かれた優しさ溢れる物語です。プリマになる、という目標が明確にあったので、いつか終わりがある物語であることは自明だったのですが、四季の流れと共に描かれた日常は穏やかでのんびりしていたので、私は永遠に楽しめそうな錯覚を抱いて物語に浸っていましたね。


 主人公である灯里は、いつでもどこでも素敵ななにかを探しだす達人であり、時間さえあれば素敵を見つけずにはいられない性格です。由来、素敵なものごとを表現するためには素敵なセリフで語るしかないですから、彼女はついつい素敵なセリフを口にしてしまうことがあり、そんなときは友人から「恥ずかしいセリフ禁止!」とよくたしなめられています。このやり取りにARIAの魅力が詰まっていると思いますね。この漫画はそんな素敵な主人公の少女と素敵な友人と素敵な世界が描かれています。




 他の特徴としては、ある人の思いやりが他の人を救って、救われた人が次はさらに他の人を思いやる。そういった素敵な人間模様が、水に広がる波紋のようにゆらゆらと広がっていく様子が描かれている物語。なのですが、もちろん綺麗ごとやご都合なストーリというわけではなくて、上手くいかない出来事や悲しい別れなどもあります。でも、その描き方はとっても優しい温度なのですがね。

 しかし、そんな時もまた灯里を中心にできた思いやりの輪が優しく彼女たちを支えていきます。たとえば、主人公がスランプに陥っていたとき、彼女の憧れの先輩は「優しくするのが優しさだけではない」など叱ることをしないで褒めることで良い方向に誘導していきます。これには人間関係素敵すぎだろ!と何回ツッコミを入れたことでしょうか。

 


 そして特筆したいのが、この作品の素敵なところは人間模様だけではなく、描かれる景色もこれまた素敵なんですよね。色彩豊かな四季が巡るネオヴェネツィアの景色は、主人公たちによってたくさん素敵なところを見つけられてしまいます。その素敵っぷりを、ストーリーに合わせて優しく描写していて、たまに見開きとして画面一杯に描かれた風景はそれはもう感動ものでした。



 こんな素晴らしい作品の中で、最も心に残ったシーンは、先輩のアリシアさんが後輩の灯里に語ったセリフ。

「大変よ、灯里ちゃん。素敵なことは無限大なんだから。」

 いつ、どこで、だれが、なにを、素敵と感じるか。それらの組み合わせることで、素敵は世界には数え切れないくらい一杯ある。というような素敵な内容のセリフです。この物語を一言で表している素敵な言葉だと思います。


 
 ところで、この「 素敵」とはもともと「素的」の当て字のようです。辞書によると、この「素的」とは、字義のままに当人が自然である状態に合っている、ということらしいです。だから、ARIAの作中では素敵なできごとのインフレーションが起きていますが、人間が自然に生きていたら世の中は素敵なことばかりというのは別におかしなことでもないんですよね。そういった日常の素晴らしさ、自然の楽しみ方、なども教えて貰いました。

 
 もしこれが素敵ではなくて、幸せを見つけることであったなら、それはきっと難しいことだと思います。でも、素敵はきっとどこにでもある。それは、自分の中にも、見慣れた景色の中にも、退屈な日常の中にさえも、本人さえ気付くことが出来ればどこにでも落ちているのです。そう思わせてくれるのがこのARIAという作品の効能。




 私にとってARIAとは、そんな素敵なことを気付かさせてくれた素敵な作品です。それに加えて、ストーリーもとっても素敵で、そこで活躍するキャラクターも素敵な方たちばかりです。どこまでも素敵な物語でした。




 素敵を使いすぎて、ゲショルト崩壊一歩前。好きなキャラクターはアテナさんです。それと、天野こずえ先生の新作の「あまんちゅ!」も面白くて癒されます。大好きな作家のひとりです。