単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

Syrup16gの曲レビューその19「回送」


 Syrup16gの曲レビューその19「回送」 ここ数週間、なぜかSyrup16gの曲のレビューを書くのがスランプになって、しばらく書けませんでしたがやっとやっとのことで書けました。一安心。


 レビューするのは「Mouse to Mouse」収録版。
 

殺気だ散る
クマのリュックと
ローマ帝国の配下で
君はまゆげをなくした


 
 不思議な感覚。浮遊感のある美しいメロディーと、散文された幻想的な歌詞。詞からは確固な風景が想起されるのですが、それがあまりに突飛なものだから現実感はなくて。夢ごこちというか、一種の暗号のようにすら思えてきて。

 ときにはハッとさせられる詞も聞こえてきますが、全編にわたって紡がれているのは輪郭のない物語。過去から未来へ、未来から現実へ、現実から空想へ。そこは足場がなくて、全てが早急な世界。


 これらのイメージは、眠たくてぼんやりしているときの頭の中で移り変わるイメージに似ているんですよね。そこにはまるで自分の意思がないようで、かってに回送されている電車のように進んでいく。イメージしているのは紛れもない自分なのに、イメージしようとする意思はなくて。主体でありながら客体でもある。そんな印象があります。

 とにかく回送はメロディーの美しさが格別で、浮遊感のあるギターサウンドもあって、散乱とした語感のいい言葉たちとの相性が良いです。目をつぶって聴いていると、この不思議な世界観にどっぷり沈んでいくような感覚があり、頭を空っぽにして聞いても十分に伝わってくるような。深夜にしっくりくるような雰囲気です。

  

頼りのない言葉で
お腹いっぱいさ
つまんない君を
守る為に


 ときにはメッセージを持った詞が飛びこんできたり、「すべてはここにあって 何もかもがなかった」と哲学的であったり、と。全てが幻想的ではないのが面白いですよね。訳が分からないってほどではなく、でも意図が読みとれるわけでもなくて。やっぱりどこかぼんやりとしていて、チグハグで美しい雰囲気に包まれます。それに浮遊感もあるから耳にする心地よさはなかなかのもの。

 Singleに収録されている回送は打ち込みアレンジでそれもまた良い感じ。回送は何よりメロディーが素晴らしくて、それはサウンドをいじったところで損なわれないので。透きとおるメロディーは耳からすり抜けていくような感覚すらあって。これは五十嵐隆のメロディーセンスが発揮されたと思います。



 
 わりと知られた話ですが、回送にはライブで歌われていたまったく違う内容の歌詞があります。それは具体的で分かりやすいメッセージを持った歌詞。しかし、収録されているのはこちらの抽象的な歌詞なんですよね。

 現実を犠牲にして、空想を展開する。逃避でもなくて、想像でもなくて、ぼんやりと空想がそこにある感覚ってのは面白いと思いました。そしてこれが心地よいのです。うーん、あらためて素晴らしい曲。