単行のカナリア

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映画「ヒミズ」 感想  以降の現実に導かれた新たな結末に拍手を


 映画「ヒミズ」を観てきました。原作を含めてのネタバレ満載の感想でいきます。というかこの作品はネタバレを避けて感想を書くのは難しいので。今回はできるだけ感動した気持ちを全部吐き出していこうかなと。気持ちに整理を付けるために書き綴ります。
  

 俺は原作の漫画「ヒミズ」の大ファンです。人生を変えた一冊といってもいいくらいに影響を受けました。そのせいでヒミズが映画化されると聞いたときはかなり不安でした。というのも、ヒミズが映画化されるとなると、暴力描写・性描写などの悲惨さやシリアスさが抑えられた軽い作品になって、さらにあの結末が美談っぽいものに変更されるのではないか、と思ったからです。蓋を開けてみると、実際に最後の結末とストーリーの温度こそは変更されていました。しかし、それに関わらずに映画「ヒミズ」は素晴らしかったです。号泣。映画中に「園子温監督すげえ」って何十回も思いましたね。そしてこれは幸せな映画化だったと。



 まずは、ヒミズヒミズのままで映画化されたことが嬉しかった。原作ファンとして満足。ヒミズでは、主人公である住田の心情の変化が一つのキーポイントになるわけですが、そこはしっかりと重点が置かれていました。住田が懊悩するシーンを丁寧に映していたのは印象的。それに夜野が被災したホームレスになっていたことや茶沢さんが襲われなかったことなど、細かいストーリ設定こそは違えど、起点となるシーンの台詞はしっかりと網羅されていました。そこらへんはお見事。

 原作に関すると、いきなり冒頭では原作での衝撃の結末であった「夢を茶沢さんと語り合ったあとに住田が拳銃で自殺する」というシーンの存在を否定したのは潔かったです。そして震災以降というメッセージを隠すことなく投げ込んできたのも心を揺さぶられました。作品の舞台が震災以降であることがおまけではなくて、物語の方向性を変えるほどに重要な役割を持っていたとは。それを考えると、住田が自首するに至った結末も納得がいくものでした。これについてはまあ後からじっくりと語ります。



 長くなる前に、メインキャストである二階堂ふみさんと染谷将太さんの演技に圧倒されたことを書いておきます。というか脇役も含めて全てのキャストが普通ではない環境に置かれている人間を見事に演じきっていたと思いますね。ヒミズはわりと過剰で非現実的なストーリーですが、その過剰さをあくまで現実の範疇に押し込めたのは彼らの演技の上手さがあってこそだったのでしょう。




 全体の感想としては、映画のヒミズは原作の悲劇を踏まえた上での見事なメッセージの昇華を果たして、ヒミズという文脈から切り離した作品としても素晴らしかったです。もっとも感動したシーンは、震災によって瓦礫となって街並みのなかで被災者が嘆いているのを横目に、住田がそれを笑いながら自殺していくシーン。これは原作での住田が自殺するという選択肢を否定するような意図を持ったシーンで、震災というあり得ないことが起こってしまった現在において強烈なメッセージだと感じました。

 

 そもそもヒミズは、虐げられるものの悲劇を、呪われてしまったものの末路を描いた作品で、苦境の中でいくつも手が差し伸べられたけれども、結局は引き金を引いて人生を終わらせたものを描いた作品。なぜ原作では住田が自殺を選んだのか。それは周りから「病気」と言われたように、勝手に未来から目を閉じて、いや目が疲れていて未来を見ることが一時的に不可能になって、自滅したというのが正しいでしょう。それは住田が周りと比べてあまりにも自分が「普通」でないという違和感を受けとめきれることができなかったからってのが大きいです。もちろんそれが全てではないけどそれが大きな悩みになっていたはずです。

 映画の世界は、震災によって大切なものを失ったホームレスが登場して、登場していなくても「普通ではない環境」に置かれている人間がいくらでもいる現実でした。住田が置かれた環境の特異性が原作に比べると少なくなっていた。そこが原作に比べての決定的な差だと。その差によって、「病気」と言われた住田の症状は少しは緩和されて、ついには自殺をするまで思いつめなかったのかと。自殺する寸前に住田が目にしたのは震災の象徴となっていた沈んでいた小屋で、それが彼を押しとどめたのだと思います。かくして住田は延命したというわけです。もちろん「不幸」は比べられるわけではないけど、住田の苦悩の原因は周りとちがって自分が「異常」であることであったので、ヒミズにおいては震災が起きてしまったことは重要な意味があるのです。


 もちろんこれから住田が悩みだして自殺する可能性はあって。決してハッピーエンドというわけではなくて、ただ震災以降という現実で死を選ぶなんておかしいじゃないかと。お前の行為は被災者を笑いながら勝手に死んでいく卑怯なものだと。そうはさせない。原作で住田が選んだ結末に対して「なにそれ」という園子温監督のツッコミだと俺は受け取りましたね。しかもそれは助走を付けて殴り飛ばすくらいに情熱のあるツッコミで。ラストの走りながらの「頑張れ!」という言葉、下手すると他人を傷つけかねないその言葉を、あえて住田の口から発させるという結末はさすがです。

 是非はともかく強烈にメッセージとして心に突き刺さりました。あのラストのシーンのある種の暴力性は大好きです。死んだ方が楽なれるかもしれないのに「頑張れよ」と。やっと茶沢さんの迷惑な押し付けがましいお節介が報われて良かったです。というか、あれだけの過酷な現状で諦めようとしている人間にそれでも生きろよってすごいメッセージですよ。でも、住田に必要だったのはまさにその応援だったのですから。彼はその応援で踏みとどまることができる人間だったのですからね。なにせ彼はまだ若い。ヤクザに600万の意味を問われて夜野が語っていたように住田は「未来」がある若者ですからね。

  
 

 と、だいたい書き終えました。まあ最高ってことなんですが、まだ褒めたりないので続きます。ここから丁寧語を止めます。えらく書きにくいし、文字数が増えるので。


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 すでに書いているけど、ヒロインである茶沢役の二階堂ふみさんの演技に圧倒された。いやもう本当に凄かった。虜になってしまったのはいうまでもない。茶沢さんという難しいキャラクターをよくぞ演じきった。茶沢さんはいまいち読めない突拍子な行動をしつつも、実は健全でロマンチックな信念を抱えていて、ただの大人びたクラスメイトの住田に恋する乙女なんですよ。住田の目の前で着替えたり、数多くの意味不明な言動は、じつはビクビクしながらの行為で。それらの行為は住田の気を引くためだけなので最初だけの振る舞いだったたし。それにしてはアクティブすぎるしバイタリティすげえってことで魅力的なキャラクターなんですが、二階堂ふみさんの演技はさらに「かわいい」が付け加えられて、むしろ実写化された茶沢さんの方が良い!って思ったりしました。いやもうすっげえ上手い。技量とかよく分からないんだけどあれは上手い演技に違いない。まあとにかく凄かったです。終盤の泣きに演技につられて私も号泣。住田は茶沢さんが可愛かったら自殺を辞めたのではと思ってしまうくらい。それでもいい!

 そこに加えて、あらためて住田の描き方が素晴らしかった。心境の変化と転機となる場面。際限なく状況が悪くなっていって、どんどん住田が追い込まれていく わけで、その過程で住田がどこで「諦めてしまったか」「受け入れてしまったか」がしっかりと描かれていた。原作では描くことができない心情がまさに変化し ていく様、ドキュメンタリーのような切迫したシーンがあった。そこをじっくりと描かれて感情を汲み取れて際立っていて良かったかなと。まあそれは同時に染谷将太の演技がすごいってことでもあって。というかみんな演技が凄かったです。



 話は変わって、そういえば茶沢さんの家庭環境が原作からえらく変わっていた。普通であるからこそ、普通じゃない住田に憧れる少女だったのに、普通じゃない家庭だからこそ、普通じゃないのにたくましい住田に惚れるって変化があったような。聞いた話だと、園子温監督は崩壊した家庭をテーマとして描いているとか。映画では家庭というシステムが全く機能していなかったのも意味があったり。そこらへんはいまいち分かりません。そもそも茶沢が住田に惚れてしまった動機なんてあまりストーリーに関係ないからそうこだわる話じゃないけど。ああでもそのせいで茶沢がよりクレイジーな振る舞いをしていたのか。序盤から茶沢さんは授業中に叫びだすとかぶっ飛んでいましたからね。これには納得しました。映画の魅力として俳優の演技ってのは確か。


 
 感想は以上ですかね。わざわざ遠出してまで観にいって良かったです。原作が好きすぎるので映画には不安があったのですが、納得をこえて感動すら貰えた素晴らしいリメイクでした。内容が濃かったので疲れましたけど。うーん本当に満足でした。ヒミズさいこうです。