単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

LUNKHEAD『[vivo]』 全曲感想


 ひさしぶりの全曲レビュー。この記事はどうにも納得がいかずに下書きのままにしていましたが、いったん下書きにしてしまうとなし崩し的に他の記事も公開をためらってしまって、またブログが更新できなくなりました。なのであらためて公開します。満足がいく記事が書けるようになるにはまだまだですね。つい同じ過ちを繰り返してしまいます。

 このアルバムはエネルギーを貰いときにうってつけの力強さがあって、また私にとってのオルタナティブロックの理想形ともいえる名盤。身を削ってしか生み出せないであろう作品かと。もはや全身全霊というのは当たり前となる覚悟があって、そこからその覚悟をどこまで届けるかという挑戦をしたアルバム。



 ということで、LUNKHEADの[vivo]の全曲レビューを。


[vivo]
[vivo]


1. 狂った朝

 ノンストップに攻め続けるアルバムは神秘的な響きのイントロから。清々しいのに力強い、と不思議な感触のある曲で、エネルギーが爆発寸前といった印象もあって。サウンドではアコースティックギターの涼しげな音色に反して、やけに躍動感のあるリズム隊の差が面白いです。透明感と躍動感の混ざりっぷりはお見事。一曲目から全力です。


2. 何も怖くなどなかった

 小爆発。振り切れたテンションというか、ようやく覚悟を決めたというか。意地でも先に進んでやろうという意思が伝わってくる曲ですね。その熱さが尋常じゃなく、もうなんか爆発力しています。瞬間的なエネルギーの高さを切り取ったような。力強さそのものって感じです。恐怖心に打ち克つってこれくらいじゃないといけないのか。



3. 百日紅


 音階を上がっていくリフ。これもたキラーチューンの連続で、一切の容赦なし。サビになると途端に走り出すように盛り上がるのが面白いです。悲しみに殺されないために歌う、といった切実な詞はここまで極まると強烈なもので。青を赤で染めるように、悲しみを憎しみで染める。というメッセージはなんとも言い難いです。兎に角、ここまでずっと熱い。


4. 密室

 個人的にはアルバムのアンセムだと思っている名曲。軽快なカッティングと屈強なリズム隊のサウンドは、もはやオルタナティブロックの金字塔かと。まずはサウンド面の素晴らしさが際立っていますね。間奏も面白くて。すんなり聞けて、ずっしり響く感じで。一人きりの部屋。一人きりの心。それらを密室と例えて、そこからの脱却を決意する。これもまた前を向くための曲で、ギリギリの感情が鳴っています。「誰か気付いてよ」って叫びに心を揺れ動されます。
 

5. シンドローム
 
 電子音が炸裂して、より鋭利になったサウンドと、聞きごたえのあるアレンジ。もうここまで全身全霊だと圧巻の一言ですね。詞をみずにともどんな感情を込めた音楽であるかがひしひしと伝わってくる。表現力が凄いです。これは詞も含めてのはなしで。言葉遊びの側面がありつつ、強烈な自己否定を繰り返して、その先に進むための言葉をつぶやく。ギリギリで歯を食いしばって血を流しでも諦めない、というアルバムの意思表明のような一曲です。かっけー!

 

  
6. 誰も知らない

 ここにきて初めてのバラード曲に。しかしバラードといっても濃厚なものでして、耳休めのようなつなぎ曲ではないです。確かな存在感がある一曲で。過去を抱きしめるような優しさがありつつも、覚悟を感じさせるフレーズもあって。なんというか頼もしいです。


7. 泥日

 そしてまた鮮烈な雄たけびから始める攻撃的な曲。変則アルペジオが炸裂する。「綺麗なままでは なにも守ることができない」という歌詞にあるように、もがきつづける意思を感じる泥臭さがあります。あがく、って言葉が何より似合いますね。というこのスタンスはアルバム全体に共通するもので、弱音を吐いて、憎悪を抱いていて、泥まみれになって、這ってでも進むという覚悟を感じさせます。いやー本当に濃い。どこまでも濃いです。


8. 螺旋

 隙がないというか、攻めているというか。ギターとベースの主張が激しい掛け合いから、一気にサビまで持っていく。これでもかってくらいにパワーが半端ないのにアレンジは絶妙で。決して独りよがりになることはなく、あくまで聞かせてくれる曲なんですよね。でも、まあ熱量がすさまじいので付いていくので精一杯。螺旋状に渦巻くとんでもないエネルギー群です。ああもうたまらない。


9. 風の作り方を知っているか

 決定打となる一曲。世界を変えることを覚悟したような濃厚なアルバムなんですが、さらにそのキッカケは自分一人で掴み取れというわけで。あらゆることを自分で背負って生きてやる、この曲はそこまでの覚悟を決しているんですよね。この曲は朗読パートがありつつも、相変わらずにブレることなく攻めていて。ここまで徹底しているのは素晴らしい。最後の攻める曲に相応しい熱量です。叫びが響く。
 

10. ゲノム

 ひび割れるほどに地を這う重低音のベースから始まる、渾身のバラード。いやこれはバラードと呼んでいいものか。アタック音を強調したリズム隊はまったく穏やかでないですし、サウンドの重厚さには隙がまったくないです。ペースを落とすことなく走り続けてきたアルバムの最終地点としては最高の出来ですね。

 痛み、悲しみ、憎しみに彩られた世界。必死にもがいて、決死の覚悟をして。アルバムそれ自体が凄まじいもので。そこで紡がれるのが出会い、愛ってわけで。アルバムのラストにあることでまるで説得力が変わりますよね。もう有無をいわさずに心に迫ってくるメッセージです。泥の中で愛を信じるってのがここまで美しいものとは知りませんでした。全てをさらけ出したうえで、愛を信じるというのはグッときます。 

 そして、ゲノムというタイトルはおそらくフロントマンのもとに誕生した子供に向けられているものです。「あなたは愛されるために生まれてきた」というこの言葉。生きることの辛さ、苦しみを越えた果てに、ぽつんとつぶやかれる言葉。この鮮烈なアルバムがここに着地して収束する展開はドラマチックでたまりません。 





 やっぱりこうしてレビューしてみて、このアルバムの凄さを再確認しました。私の語彙が足りなくて文章が下手でいまいち伝えられないのが悔しいです。最近はよく力量のなさを痛感しますね。

 ランクヘッドはセールス的には振るわないことが雑誌でもネタにされるようなバンドで、今作はそう意味では今までよりさらに一般受けしないようなアルバムです。でもこれは本当に素晴らしい。胸を張って名盤と、押し付けがましいくらいに素晴らしいと、叫びたくなる作品です。

 
 「走れ それだけだ」


 怯えて、縮こまって、立ち止まったときに、共に戦ってくれるそんなアルバム。