単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

阿部共実「空が灰色だから」 一巻 感想


 このマンガはお気に入りのブログで紹介されていて、そこでの「残念な方々のお話」という謳い文句に惹かれて購入しました。
 ちなみにそのブログはこちら(空が灰色だから 1巻/阿部共実)です。「毒とペーソスが沢山詰まってる一筋縄ではいかないショートコメディ」という表現がピッタシ。


空が灰色だから 1 (少年チャンピオン・コミックス)
空が灰色だから 1 (少年チャンピオン・コミックス)


 以下、感想。


 期待どおりのマンガでした。
 本当に残念なキャラクターが多くて、そんなキャラが挫折する瞬間や、痛々しい場面をピックアップして描いた、といった感じ。もちろんそれだけでないんですが、このマンガの魅力といえば、残念だったり痛々しかったりする過激さにあるかと。わたしが期待どおりに刺激的でした。


 絵柄はかわいらしくて、登場人物は軒並み美少女ばかり。なので、スーッとかなり読みやすいんですが、その読みやすさに反して、それはもう破壊力抜群の短編集。どういう物語かを知っていても驚かされたくらいなので。

 その驚きというのは、この絵柄でここまでやるのか、そこまで追い詰めるのか、というもの。笑えるけど痛々しいをこえて、ただただ痛々しいって話があるのが、印象的です。毒をフックにしたのではなくて、毒そのものを描いていているというか、まあ驚愕のストーリーがあったわけです。


 ネタバレ全開で書いていきますが、第二話のある女子学生が友人と会話しているときにパニックを起こして吐瀉物をぶちまけるってシーン。
 
 これには、相当にドキッとさせられました。好かれないから嫌いになる、いわゆる愛憎というやつを女子学生の日常でこのような一線を超えるかたちで表現するってのは、その表現自体ですごいかなと。

 しかも、このストーリーは驚きだけでなくて、そうなってしまうキャラクターの感情が分かってしまい、つい感情移入しちゃったのでダメージが大きかったです。それに、なによりオチの意外性もありましたからね。まさか女子学生が楽しそうに会話してるシーンが、パニックを起こしながら吐き散らすシーンになるとは。

 

 上の話や、世にも奇妙な物語でありそうなのストーカーの話にも通じる、このマンガの人を食ったような表現は、意外なオチやいきすぎの過剰さがウリだとは思うのですが、さらに妙に感情移入されるあたりが曲者なんですよね。

 わたしの嗜好、性格の影響かもしれませんが、キャラの感情の機微が生々しく伝わってきます。短編ながらもしっかりと心に傷跡を残していく話ばかりでした。

 
 個人的に好きなのは第一話目。
 極度の恥ずかしがり屋である女の子が、恥ずかしさを克服するために暴走しちゃって、まあ恥ずかしいことになるというお話で。これはクスリときた笑い話なんですが、結末の「考えすぎるあまりにやってしまった……」というのは、状況は違えど私の日常生活でもよくあることで、笑いながらもすこし心にチクッときました。

  
 こういった共感してしまうのは、この話だけでなくて、九話の女子を苦手な男子高校生が、男っぽい女子と仲良くなって、それが嬉しいあまりに相手にちょっと失礼なことをいって泣かせてしまう話とかも、この類。そもそも、「やりすぎてしまった」とか「ブレーキが利かなくなった」とかというのが、空が灰色だからのストーリー展開に多くて、作者の鉄板ネタなのかと思ってしまうほどに完成されていますね。やめてくれ、と思いつつ、読んでしまう。
 

 他にもほんわかしたストーリーもありますが、個人的には、痛々しくて笑えたり、笑えないほど痛々しかったりするストーリーがお気に入り。空の灰色だからのように、驚かされつつダメージを食らってしまうマンガは、大好きです。
 作者のひねくれっぷりは実にすばらしく、これからもっとねじれてくれるのを期待しています。