HUNTER×HUNTER31巻「参戦」の感想と考察の記事。週間連載時に書いた感想を中心にまとめた内容です。後篇。
ちょっとばかり31巻の感想を書いてみたんですが、あきらかに連載時のほうが掘り下げられていました。だったら、そのときの感想や考察をまとめたほうがいいなーと思って31巻はこういう記事にしました。
おそらくこの31巻はハンターハンター史上で最もテキスト量が多い巻になっている筈です。グリードアイランド編もけっこうなボリュームだったと記憶していますが、今巻はそれ以上にぎっしりと文字と数字に覆われています。
そこで重要なのが、この膨大なテキスト量は誰かの台詞であったり、誰かの説明であったり、誰かの思惑であったりと、あくまで誰かを通じて語られている内容ということです。特定のキャラが説明するってことはあまりなくて、色々なキャラが流動的に語ることによって全貌が見通せるようになっているですよね。そこらへんはちゃんと配慮されているので、いっぱい詰め込んでもやっぱり面白いのかなーと思いましたね。
では、後篇へ。
キルアとイルミの対立
キルアとイルミのすれ違いの理由は、「アルカを家族として扱うか」であって「家族を大事」にする点ではキルアもイルミも共通している。だからこそ、アルカを見限ったことにキルアは苛立つ。なぜアルカを家族として扱わないのか。どちらも家族思いだけれども、その思いの内実はまるで違う。キルアとイルミが衝突するのはどちらも思いやりが発端としているものの、兄弟喧嘩なんて言葉では生易しくいほどの殺伐さが漂っています。そして、キルアとイルミの開戦を告げる一発目の接触がスリリングでしたね。落ちたら即死の崖を走っているキルアたちを乗せた車に上から車をぶつけるなんて・・! 下手するとキルアごと死んでしまう恐れもあるのに。
イルミはキルアの実力を信頼しているからこそ手加減しないのか、その程度で死ぬようなやつはキルアとして認めないのか。容赦ないあたりはイルミが「キルアなら大丈夫」と信頼しているからこそ、というのがなんともえいません。イルミのキルアへの信頼はある意味では愛情とも言えるんですよね。それにしたって、歪みすぎてますけどね。
イルミの歪んだ愛
ヒソカに「キルアを殺してもいい?」とからかわれときの、イルミが浮かべたおぞましい表情がキルアへの愛を物語っていましたね。それほどに愛しているならキルアの立場にもなってあげればいいのにと思いつつも、どうもイルミの愛は「俺の弟である俺のキルア」に注がれているようでけっして無償の愛ではない。はたしてこれを愛と呼んでもいいかと途惑うほどに歪んでいるようです。この歪さが亀裂を生み物語を駆動させていて、わくわくさせられるハンターゲームに発展したのがまた面白い。キメラアント編ではあれほど美しい愛を描いたのに、今度はこんなに執着と依存にまみれた兄弟愛を描くってあたりが凄いというかさすがというか。イルミがキルアを追いつめたときの「オレはキルアの心の中で永遠に生き続ける」ってセリフはその真骨頂。
ヒソカVSゴトー
31巻のひとつの目玉であるバトルは、マジシャン同士の対決。相手の切り札を読み合う戦闘はスリルがあってトリッキーで、これがすんげー面白い。コインを弾丸として発射するゴトー、バンジーガムでさらっとガードするヒソカ、それを見越してコインの回転数をあげてヒソカのゴムを利用して絡め取るゴトー、さらに先読みしていてヒソカはあらかじめ設置していたバンジーガムで回避、そしてヒソカの強襲でフィニッシュ。……息を呑む攻防とはこのこと。ゴトーとヒソカの対決は、マジシャン対決の名に相応しい、小手先のテクニックで翻弄するバトルでした。
アルカがかわいい
それにしても、アルカがかわいい。キルアに「もしも世界中でアルカの事大好きなのが兄ちゃんだけだったら悲しいか?」と聞かれて、アルカの「笑いが止まらないほど嬉しい」って返答にはやられました。 アルカの生い立ちの悲劇を考えると、一抹の悲しさすら感じられる台詞。たった一人の兄に愛されることが至上の喜びと思えるのは幸せであるのか、そう思ってしまうほどに愛に恵まれていなかったのは不幸なのか。あのやり取りは微笑ましいってだけじゃないのがなんとも言えません。
と思ったけど、あんだけ笑顔で不幸なわけがないですね。特にキルアが側にいてくれる限りは。最初のころの残酷さがウソのようにいいお兄ちゃんですから。
と思ったけど、あんだけ笑顔で不幸なわけがないですね。特にキルアが側にいてくれる限りは。最初のころの残酷さがウソのようにいいお兄ちゃんですから。
アルカとハンター会長選挙が繋がる面白さ
アルカと選挙はどうやって繋がるのだろうかという疑問。まさかこうした形で繋がるとは予想の斜め上をいかれました。その接点は、兄貴を犯罪者として手配するキルアの恐ろしい策略と、ハンターの規律を守りたい&選挙のために点数を稼ぎたい脱会長組の目的が合致するという、予想外の線と線との交わり。うーん。おもわずストーリーの構成の巧みさに唸らされます。 主軸にあるのは「ゴンを救うこと」と「ハンター会長を選挙で決めること」。
そのために物語はキルアとイルミの兄弟喧嘩という二項対立を軸としていて、そこにヒソカや執事たちの共闘するキャラクターが連なり、さらに平行していたハンター選挙という項目が加わることで物語は重層的に展開される。でもあくまで展開はスピーディーでスリリングっていう、やっぱりエンターテイメントですね。ごちゃごちゃしてくるほどに面白くなってくるってのはハンターハンターの魅力でしょう。
そのために物語はキルアとイルミの兄弟喧嘩という二項対立を軸としていて、そこにヒソカや執事たちの共闘するキャラクターが連なり、さらに平行していたハンター選挙という項目が加わることで物語は重層的に展開される。でもあくまで展開はスピーディーでスリリングっていう、やっぱりエンターテイメントですね。ごちゃごちゃしてくるほどに面白くなってくるってのはハンターハンターの魅力でしょう。
ヒソカはクレイジー
ヒソカはあいわらず変態すぎ。行動こそはトリッキーですが、思考は「楽しみたい」それだけ。そのためだけに全員を敵に回そうとするほどに。行動原理だけならば、全てをフラットに楽しめていたゴンと仲良くなれそうで、実際にGI編では協力しあっていたけれど、その「楽しみ」の潜むのはとんでもない願望なので厄介なんものでした。キルアとイルミが対峙したあの状況で、あの深刻な場面で、遊び相手というおもちゃを作るために「アルカを殺してそのあとキルアを殺してそしてイルミまでも」という選択肢が思い付くのは異常です。しかもそれがベストとかやっぱりヒソカはクレイジー。危険なのは戦闘能力ではなくてその願望にあるのです。
以上
色々と書いてきたのでまとめると、私にとっての31巻は「レオリオ最高!」「アルカかわいい!」「頭脳戦、情報戦が熱い!」「アルカの能力のホラーテイストがいい感じ」「キルアはいいお兄ちゃん」「イルミはダメなお兄ちゃん」「ゾルティック家はヤバい」「ヒソカが帰ってきた!」ってとこですね。
なかでもやっぱりレオリオの参戦が一番嬉しかった。しかも、レオリオはただ参戦するだけでなくてストーリーの核に関わってくるほどに活躍してくれたので、もう言うことはありません。32巻の発売が待ち遠しいです。