単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

慈愛と希望のマリア生誕  特撮「パナギアの恩恵」


 特撮の一年半ぶりのオリジナルニューアルバム!

 商品の詳細

 前作の「5年後の世界」はセルフカバーが殆どで新曲が少ししかなくて物足りなかったのですが、今作の「パナギアの恩恵」はすべてオリジナル曲ってことでもうそれだけでも嬉しい。
 
 
 アルバムはジャケットのぶっ飛び具合に反して、哀愁漂うナンバーやロックバラードなどがメインとなる、大人しくて手堅い作品という印象です。以前のようにパンキッシュだったりコミカルだったりする曲は少なくて、しっとりしていたり切なかったりするストレートな良曲が多いです。ハードコアではなくてハートフルといった感じなので、賛否両論ありそうな作品とも思ったり。ジャケットの若々しさに反して、おじさんたちの老練の一品。つまりは、ジャケット詐欺なのです。(いい意味で!)
      
 
 いかんせんぶっ飛んでいる曲や激しい曲がないせいか、一聴しただけではいまいちのめり込めませんでしたが、何度かリピートしていくうちに徐々にハマってきました。
 今作は、あいかわらず楽曲、世界観ともにバラエティ豊かで、SF、時代劇、サスペンス、寓話などの新作物語がいっぱい。ポップながらもキャッチャーというわけではなくて、「大人しい」といっても技巧派集団にとっての「大人しい」なので、すぐにビビッとくるタイプのアルバムではなかったです。俗にいうスルメアルバムってやつですかね。今回は特にガンガンのれるよりかは、じっくりと聴きこむタイプの曲が多いですから。
 

 とはいいつつ、「薔薇園 オブ ザ デッド」は初っ端から問答無用にカッコいい。エヴァンゲリヲンのように衒学的な作風を狙ったようで、その思惑通りにわたしはよく分からないけどグッときて興奮してしまいました。いきなりノックアウト。同じくすぐに気に入った「桜の雨」は王道のロッカバラードでそっと包み込むような詞がいい。合唱できそうなほどシンプルな楽曲に、シューゲイザー系統のギターサウンドと切ないピアノが重なり合ってしみじみとしますね。NARASAKIのギターの音像がたまりません。

 「じゃあな」は素直に良い曲ですよね。哀愁が漂う、別れの歌。それをエッジの効いたバンドサウンドで聞かせて、さらにピアノソロのパートの美しさは半端なくて、相当に心に沁みる。この感想で「哀愁」という言葉を何度も使用していますが、アルバムの中でこの曲が最も哀愁に溢れていると感じますね。

 
 
 で、もっとも衝撃だったのが「GO GO!マリア」。
 震災をテーマにした物語調の曲で、その表現に心を打たれました。無念と残骸を集めてマリアを作りあげて、音楽や風や太陽をそそぎ込んで命が生まれる。そして、過去に縛れずにGOという、なんというかとにかく凄い。そのイメージだけでも伝わってくるものがありますね。サビの弾けるポップさが希望を感じさせていいですね。アルバムで一番好きかも。「薔薇園 オブ ザ デッド」のような曲もあれば、「GO GO!マリア」のような曲もあるあたり、懐が広くていいアルバムに仕上がっていますね。

 定番の物語曲といえば、タイトルがやたらと長い「タイムトランスポーター2「最終回ジャンヌダルク護送司令・・放棄」 。ジャンヌダルクが(中略)水着ビキニで大はしゃぎするB級SF映画のようなストーリーなのに、やけに哀愁たっぷりなサウンドとラストのフェードアウトが幻想的なせいで切ない気持ちになってしまいます。「13歳の刺客 エピソード 1」も同じく枠の曲。洋画好きのわたしには関心がわかないストーリーですが、サビのメロディーが妙に癖になっておもしろい。アルバム最長の「鬼墓村の手毬歌(Short Edit Ver.)」は、後藤沙緒里さんのコーラスやらブラスやら子供たちの合唱やらいろいろと詰め込んだ、物語調の決定打のような曲。凄い曲。

 
 
 ラストを飾るのは、オーケン作曲の「ミルクと毛布」。慈愛に満ちている素朴な曲。個人的には特撮に母なる優しさを期待しているわけではないので、この曲もそうでアルバムとしても物足りないと感じたのですが、それでもいい曲はいい曲。

 「パナギアの恩恵」というタイトルに偽りはなし。「ミルクと毛布」をラストに持ってきたことが穏やかで優しいアルバムにしようとした意思の表れだろうし、これはこれでいいものだと感じました。欲をいえばもっとヘヴィーなサウンドがよかったんですけど、まあそれは仕方ない。「薔薇園 オブ ザ デッド」で我慢しときます。この曲は本当にひたすらカッコいい。
 


 最後に。ジャケットがV系みたいで面白いなーと思っていたら、歌詞カードの見開きではもっと面白いことになっていました。バラをモチーフにしたゴージャスな模様の見開きで、そこには中年のおじさんたちがバラが絡みつく額縁のなかで優雅に佇んでいるっていう不思議なデザイン。NARASAKIさんがベットに横たわって流し目をしています。ジャケットのインパクトは紛れもなく過去最大級でした。