単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

そりゃ悪手じゃろ


 先日、HUNTER×HUNTER劇場版「緋色の幻影」を観てきました。
 ネタバレ注意。基本的にそりゃ悪手じゃろって内容の記事です。

 後日に書いた考察記事→劇場版 HUNTER×HUNTER 「緋色の幻影」 考察
 この映画には冨樫義博が関わっていないと聞いていたので、あまり期待せずにハードルを下げて鑑賞したところ、それでも面白くなかったです。ここ数年で観た映画のなかで最も退屈だっただけでなく、さらには念能力への不理解やキャラクター崩壊などの原作との齟齬も見受けられたので、やや不快に感じたほどでした。

 そういった瑕疵が目立つ作品でしたが、その中でも特に気になった点について書きます。


 このハンターハンターの映画は、念能力の設定を始めとして様々なツッコミどころがありますが、それらは一旦置いといて、おそらく今作の主題である「ゴンとキルアの友情物語」について批判していきます。原作を読んだことがあるという前提があるので、もしアニメ版しか見ていないならば問題ありません。


 映画と原作に共通する前提として、キルアはイルミによって洗脳されていました。そのことは映画でも何度も繰り返して強調されました。その洗脳のせいで、キルアはいつかゴンを見捨ててしまったりゴンの足手まといになってしまうかもしれないと葛藤します。
 

 映画では、イルミの洗脳による呪縛については保留したままで、(一時期的に)根性と友情でその洗脳を克服した(かのような曖昧な決着を付ける)ストーリーでした。もしこの映画が原作と異なるパラレルワールドであるならばそこまで問題はありません。キルアは一時的ではなく、イルミの洗脳を克服することができたといっていいでしょう。


 でも、そうじゃない。

 原作のハンターハンターの話では、イルミの洗脳というのは実はキルアの頭に針が埋め込まれたことによる強力な洗脳でした。これらは決して根性ではどうにもできないものなので、キルアは苦悩し葛藤をつづけてその挙句にゴンのために離れることさえ決意します。そのときもゴンにはその意思を黙っておいて最後までサポートに徹しようとしていました。

 
 そもそもこういった原作のストーリーの兼ね合いがあるので、イルミがキルアに仕込んだ針の存在を明かすことはできないのに、イルミが洗脳した設定を使用して友情物語のストーリーにするならば、解決を先延ばしにして一時しのぎの根性論でうやむやにするしかわけです。

 「友情物語」にしたいからといって、原作の設定を中途半端に引っ張りだして、ハンターハンターに相応しくない根性論でオチを付けるのはさすがにひどい。原作を読んでいる私からすれば、映画の中で執拗に繰り返されていたキルアの葛藤するシーンも、針の存在に触れられないかぎりは根性論で誤魔化すしかないと分かっていたので茶番にしか見えませんでした。制限が多い原作の設定をストーリーの起点にしたのは完全に悪手でしたね。
 

 しかし、本題はこれではありません。
 
 本題は、ゴンたちがイルミ人形と最初に対決したときに、ゴンがイルミ人形に目を奪われてしまった後にキルアがその場から逃げ出して自殺しかける一連のシーン。正直いってこりゃ悪手でしょう。

 キルアが途方もないショックを受けているのは分かりますが、だからといって敵の本拠地に弱ったゴンを置いて逃げ出したら、もはや友達思いとは言えなくなってしまいます。原作では、キルアはゴンから離れることを決意したあとも、ちゃんとやるべきことはやり終えてからという責任感のもとでサポートしていました。しかし、映画版のキルアはピンチになったゴンをほっておいてやけくそになって逃げます。キルアはそんなことしない。


 
 今作の友情物語が、キルアのキャラクター崩壊の犠牲のもとに成り立っていることを考えると、まったくもって心が動かされることはありませんでした。なんというか、すでに原作でちゃんとした形でやっているテーマなのに、わざわざそれを劣化させた安直なストーリをやってどうするんだよと言いたいわけですよ。原作の台詞を使用したりと原作を意識させただけに。 

 まあ子供が多かった客層からして、あまり原作読者を想定していないであろうことは承知ですけど、それでもこの脚本は悪手じゃないでしょうか。っていうか、ハッキリいって悪手ですよ。かなりの。オリジナルならばオリジナルで展開するべきでした。私には原作の良いところどりをしようして失敗したように感じます。


 それにこの記事では書いていませんでしたが、念能力の設定も酷かったですから。
 ウボォーギンのビッグバンインパクトが放出系になっていたり、オモカゲの念能力が説明不足のうえでチート化されていたり。それに基本的にほとんどの戦闘シーンが、冨樫義博が以前のインタービューで語っていた「ヒーロー戦隊もので主人公がポーズを決めているときに敵が攻撃してこないのは理不尽」の理不尽そのものでしたから。最終決戦での気合で力比べってのはハンターハンターでは絶対にやっちゃいけない展開でしょうに。パイロのミスキャスティングのことを忘れるくらいに安直な脚本でした。

 
 あと、幻影旅団がクルタ族を実際に惨殺したかどうかについて、「我々は何ものも拒まない だから我々から何も奪うな」のメッセージの意味については明かされませんでした。どちかとえいばそこが知りたかったのに……。まあこれは仕方ない話。
 それと、映画中に原作の台詞をところどころで引用していましたが、そのうえでの原作との乖離っぷりというのが何よりも残念でした。そもそもなぜクラピカと幻影旅団をメインにしなくて、二番煎じの友情物語をテーマとして選んだのかと。0巻を購入にするついでに映画を鑑賞する原作読者のことを(相当数いる)もっと気にかけてほしかったです。


 
 というように、原作を未読ならばまた違う感想になったとは思いますが、私は冨樫義博の描くHUNTER×HUNTERが好きなのでとても酷かったの一言。でも、一番最初のあらすじを紹介するときに登場したSDキャラクターと、飛行機の乗務員はちょっとかわいかったのは良かったです。私としてはキルアの夢のシーンが一番興奮しましたが、夢でした。