単行のカナリア

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名作シングルシリーズ第四回  THE BACK HORN「初めての呼吸で」


 名作シングルシリーズ第四回は、THE BACK HORN「初めての呼吸で」
 イラストは、山田将司作。ニューヨークレコーディングのシングルです。

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「初めての呼吸で」

1.初めての呼吸で
2.ハッピーエンドに憧れて
3.番茶に梅干し


 生と死をテーマにしてきたTHE BACK HORNの中で異色の生活感に溢れているシングル。

 いつものような抽象的な表現はほぼ皆無、掃除、炊事、洗濯の全てのキーワードが登場するくらいに身近で具体的な生活が歌われています。テーマは、まさに「暮らし」。
 

 人間が人間らしく生活するための日々の営為。その繰り返しにくたびれてしまったときや、手つかずの面倒事に埋もれてしまったときに、また孤独に飲み込まれそうなときにも、なんとかまっとうに暮らしを送っていこうと背中を押してくれるシングルです。
 
 背中を押してくれるキッカケも、誕生した奇跡を思い返したり、部屋を片付けたり、美味い物を食べたりと、ほんとそこらへんに転がっていそうな日常の風景なんですよ。派手さはなくて、窓を開けて空気を入れ替えるように、深呼吸して気持ちを新鮮にするようにと、とことん暮らしに根差しています。


 さらには生活感はサウンドにも徹底されています。
 無駄な装飾を省いた骨組みそのもののバンドサウンドで。ギターはコード、ベースはルート音とシンプルに展開する「初めての呼吸」で、音数を減らしてブルース色を濃く打ち出した「ハッピーエンドに憧れて」、そして弾き語りと寂しげなアコーディオンの「番茶に梅干し」。歌詞もサウンドもテーマの生活を見事なまでに演出しています。なにせ全曲、路上での弾き語りが似合いそう曲ばかりですからね。

 
 THE BACK HORNの作品でここまでコンセプトが強固なのは珍しいんじゃないでしょうか。
 「死んでやると飯を炊きながら日々を超える」、「割と陽の当たるこの部屋を黙々とただ片づけていく」、「番茶に梅干し潰して飲んだら上手いんだぜ本当に」なんて歌詞は初期の彼らからは想像できないほど生活感がありますからね。


 そして、生活の地味さを描きつつもドラマチックに歌い上げています。派手さはないけれど、というか正直いえば地味なんですが、それでも生と死をテーマにしているTHE BACK HORNならではのドラマチックさに溢れています。そういう激情があるのは相変わらずなんですが、今作は暮らしに根差しているからこその受けれ入れやすさを感じます。


 また抽象的な表現になっちゃいますが、「初めての呼吸で」は洗濯機のようなシングルですね。
 薄汚れてしまったりくたびれてしまった感情がこのシングルを聞いていると少し綺麗になった心持ちになります。まさしく心が洗われるって意味ですね。へとへとに疲れ果てしまったときに手に取りたくなるシングルですね。

  
 ここまでTHE BACK HORNが生活に寄り添った作品はこれまでもこれからもないかもしれません。
 さらにいえば、「初めての呼吸で」はシングルバージョンとアルバムバージョンでは重ねているギターの本数が違います。シングルバージョンの方が数十本多くギターを重ねているそうです。そのためか音圧、迫力が大分変ってきています。


 すでにカップリング集がリリースされていますが、「初めての呼吸で」は是非ともシングルで聞いて欲しいですね。ほんと素晴らしい作品ですよ。ちなみにニューヨークレコーディングされた作品です。

 一人暮らしを始める方へのプレゼントにオススメ。