単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

バズマザーズの快進撃は続いていく、「爪」「フールオンザビル」を聞いた


 私が期待の眼差しで凝視しているバズマザーズ、新作をリリースするごとに益々すばらしいバンドになっていっています。今回は、昨年にリリースされたバズマザーズの配信シングルの「爪」と「フールオンザビル」の感想です。前作のすばらしかった「THE BUZZMOTHERS」同様に、今作も彼らの快進撃が証明されている快作でした。 

 1曲200円なので、2曲買っても400円。鬼殺し4つ分です。
 
爪 - Single
フールオンザビル - Single
 

「爪」

 「爪」は、バズマザーズにしてはシンプルで内省的な音像だけれど、その代わりに歌と詩に焦点が当たっている6分弱の壮大な曲。長尺の分だけ、ぎっしりとバズマザーズの魅力である山田亮一の歌と詩の魅力が詰まっています。つーか、ほんといい歌詞を書いてくれます。ロックバンドの曲を語る際に、ことさら歌詞を強調して賞賛することは取扱い注意だとおもっていますが、バズマザーズに関してはとにかく歌詞がすばらしいと断言できますし、彼らの武器でもあるので強調したいものです。

 「爪」はシンプルなギターサウンドをともなって、自問自答のすえに再起することを決意し、その覚悟を表明するというもの。曲の構成自体にも共通するもので、序盤のシリアルな曲調から一転して、終盤ではロッキーのテーマ的なノリな宣言になるという徐々に盛りあがっていく展開が血が滾ります。詰問、熟考を繰りかえしたあとで再起を宣言するという流れ、これが、じわじわと熱がせり上がっていくような感覚を覚えます。曲調は穏やかだしパッとした派手さは控えめだれけど、その分だけに言葉の力強さと確かな意思の固さを感じます。
 
 歌詞はもはや魅力的な表現しかなくて、その一つ一つを取りあげていくと膨大な量になってしまうので控えますけど、とくにタイトルにもなっている「革命に届きそうだった爪」という表現が気にいっています。この曲では「鬼が集う寄席」、「怒号で揺れるアウェイ 時が凍る様なソウルを」と苦境に立たされている状況が描かれており、そうしたなかで新たに誓った固い決意に、確かに伸びつづける硬い爪が象徴されているのでしょう。また、爪が伸びきっているという状況そのものが基底現実での苦労を間接的に表現しています。多分ですけど。「革命に届きそうだった爪」というのも、手が届く足が着くだったらよくある表現なのですが、よく見れば手よりも足よりも爪のほうが数センチメートルだけ先にあって、その爪を勘定に入れて「革命に届きそうだった」と表現しているのが面白い。その数センチメートルに思いを託すほどの切実さが「爪」の曲に通底しているとおもいますね。

 っていうぐらいの解釈だったらあと二時間くらいはずっとやってしまいそうなほどの表現が「爪」には詰められています。じっくりと向き合って聴きこんでいきたい曲だとおもっていて、こうした感想を書いている時点でもまだ曲のすばらしさを十分に味わえていないという確信があるくらい。それくらい懐が深い曲。

 「再起」というテーマは、ハヌマーンの活動休止を経て、その幻影と葛藤しているバズマザーズにとっては命題ともいえるテーマだとおもっていて、これまでも類似の曲はありましたがここまで高らかに宣言する曲は初めてでしょう。まったくすばらしかった「THE BUZZMOTHERS」をリリースしたあとで、これから先の意思に溢れている曲をこのタイミングでリリースしたというのは、これからさらにバズマザーズが快進撃をつづけていってくれることを予感させます。 

「フールオンザビル」


  バズマザーズならではの諧謔を介したパンクロック調のショートチューン。「Fool on the planet」ではなくて「フールオンザビル」。街を出ようと意を決するけれど結局どうでもよくなって、挙句ビルから飛び降りようとするけれど勘違いの醜態を晒してしまって、なんだかんだで少し前向きになっておしまい。みたいな小話を勢いとノリで一呼吸で聞かせてくれる曲です。
 
 一転二転していく心情のように、曲調もあわただしくブルースハーモニカが吹き荒れて、迫力あるドラムがけん引する勢い重視のエモいサウンドに。半端な絶望に共感するのものよし、半端であるがゆえの滑稽さを笑うのもよし。クスリと笑えてちょっとしみじみとする曲です。
 
 バズマザーズはユーモアとシリアスの取り扱いが非常に巧くて、この曲も二分という短い曲ながらもかなり絶妙なバランスで成り立っているとおもいました。特に気にいっているのが、自分もまた絶望の所有者にあるのにもかかわらず、同類に出会っていざとなったときに思い付く限りの紋切り型の麗句しかでてこない、というシーン。まあそうなるよねっていう感じの人間味に溢れていて気にいっています。ほんとうにゆるい絶望だけれど、ゆるくても絶望であることは変わりないってところも含めて。そのあとに「期待に応えてあげなくちゃ」という心情に移り変わる軽薄さも「人間!」って感じで私の価値観にピッタリです。

 この二曲でいえば、私は「フールオンザビル」のほうが好きでよく聞いています。ユーモアとシリアスという相容れにくい材料でバズマザーズはその手腕を発揮して、前作のPVになった「スキャンティ・スティーラー」の調理具合も見事だったんですけど、「フールオンザビル」はタイトルから歌詞、勢い重視のバンドサウンドまでひっくるめて最上のバランスに仕上がっているとおもいました。しかも、これが2分弱の曲だっていうのがさらにすごいし、ほんとノリがいいので聞いていて楽しいのです。

以上


 バズマザーズ、正直なところ「THE BUZZMOTHERS」がひとつの到達点ではないかと思ってしまったほどにあれはすばらしい作品で満足していたんですが、今回リリースされた「爪」、「フールオンザビル」を聞いているとさらにこれより先の景色を見せてくれるかもしれない、と考えをあらためました。本人たちは「THE BUZZMOTHERS」が最高傑作と呼ばれることに不満を抱いていると聞いて、なるほど、たしかにまだこの言葉はこれから先に取っておいたほうがいいな、とも思ってたので最高傑作っていうのこれからは控えます。

 本人たちは「名前と顔だけでも覚えて帰って」なんて絶対に言わないであろうので、その代わりにってわけでもないんですが、このブログではバズマザーズをオススメしていきたいですね。というか、もう勝手にオススメしたくなって現実にこうしてオススメしちゃっています。