単行のカナリア

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劇場版「PSYCHO-PASS サイコパス」 感想/対比の演出―色と獣と正義

 
 劇場版「PSYCHO-PASS サイコパス」を観てきました。以下、いきなりネタバレありの感想です。

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  劇場版「PSYCHO-PASS サイコパス」は、インタビューで「脚本の段階からかなりアクションにはこだわりました」と語っているように、アニメ版では不足気味だったアクションシーンに比重が置かれているのが魅力でした。脚本はシンプルで、映像はリッチに。緊張より興奮を、と。シビュラシステムの檻から解き放たれかのように、近接格闘から銃撃戦まで派手なアクションシーンが満載でした。劇場を舞台にやるならこれってくらいに潔く振りきっていたとおもいます。 
 
 アクションシーンに加えて、ストーリーがシンプルな分だけに映像が雄弁に物語っていたと思います。風景。色彩設計、兵器デザインまで含めて対比させる演出が多かったのが印象的でした。これについては後ほど。  
   
 話を戻して、興奮したアクションシーンといえば常守朱と狡噛が邂逅するシーンです。2期の時点で、彼女は相当な戦闘力を有することは分かっていましたが、まさか狡噛を凌ぐほどとは。広告などでよく目にする、ドミネーターを向ける場面は時間をかけて贅沢に描かれて、ここらへんはタイトルロゴがドーンって感じの盛りあがりだった思います。アクションシーンに重点が置かれる今作の象徴ともいえそうなこのシーンは相当興奮しましたね。

このシーン、最高だった。常守朱かわいい
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(C)サイコパス製作委員会

 メインキャラクターの活躍は勿論あり、常守朱は相変わらずその有能さを発揮し、狡噛はカリスマ性を身につけていて反政府軍の中核にすらなっていて、彼らの卓越した格闘スキルを堪能することができました。つーか、二人ともフィジカルが強すぎます。
 追加。先ほどツイッターで知ったことですが、今回のソリッドな戦闘シーンは「シラット」という武術が関するらしいです。私が好きな映画のアクションシーンを調べたら大体がこのシラットを取りいれていました。今作のアクションシーン全編に渡って目で追うのが困難ほど無駄がなく洗練されていた印象はシラットが発祥だったからなのでしょう。映画ではたまに見かけますが、アニメでシラットを見たのは初めてかもしれません。派手に演出したいのに動きにムダがないので描写が大変そうという印象ですが、そのおかげで今作はアクションシーンが緊張感ある引き締まったものになったのでしょう。制作協力に名前があったらしい。まったくの無知なのでこの話はここまで。 
 
 他のキャラクターたちにも少ないながら見所があって、宜野座が髪をくくってビジュアル面でいっそう色気に磨きかかっていたり、雛河が躊躇なくドミネーターをぶっ放すほどたくましくなっていったりと。また、個人的にニヤっとしたのが霜月の生意気さがさらに拍車がかかっていたことです。「空気を読めってことですよ」と言ったときのあの顔。2期ではその生意気さは小物感が否めませんでしたが、劇場版ではついに大物の風格すら感じましたね。
 
 それと、今作では宜野座が活躍する場面が多くて嬉しかったです。「PSYCHO-PASS 」の男性陣のなかで多分一番気に入っているキャラクターだったりします。宜野座は一人だけ爆破に巻き込まれて「何でお前らは無傷なんだ?」ところとはまるで別物に。密入国してきたテロリストと対面したときに手りゅう弾を投げられるも余裕で回避、足場が安定しないヘリから完璧なタイミングで遠方射撃を成功させる、今作の強敵であったデスモンド・ルタガンダを組み伏せてしまうなど、登場シーンのほとんどで見事に役割を果たしていました。彼は登場出番は少ないものの見応えある活躍が多かったです。
 

 なんというか、脚本に関してはそう感想はないのですが、映像に関しては前述のアクションシーンに加えて、近未来都市トーキョーから地獄の黙示録のような東南アジアまで燦爛たる描写だったので、眼福的な喜びがありましたね。私、高層ビルと廃墟が大好き人間でして、それらが対比されるように度々登場していたのはたまりませんでした。

 で、今作はシビュラシステムが存在しない外側の世界の無秩序さを描くことで、逆照射してシビュラシステムの管理下にある日本の平和さが際立つことになりました。視座を変えることが見えてくるものがある、っていう話。アニメ版ではシビュラシステムのバグというかイレギュラーな事態ばかりが取り沙汰されていましたが、劇場版で外側に視座を置くことでシビュラシステム下の社会がそれなりに理想的(恋愛の面倒まで見てくれる)と説得力をもったことで、あらためてそれに懐疑の目を向けて正義を貫こうとする常守朱の意思の強さが強調されることになったとおもいます。  

対比の演出について―青と赤、家畜と獣、常守朱と狡噛 

 で、対比の話。今作では、明確といっていいほどに対比の構図が演出されていたとおもいます。

 もっとも際立っていたのが、青と赤の対比です。
 常守朱がシーアンに赴くときに飛行機から俯瞰して見下ろした、ネオンが青く輝くトーキョーシティーと、錆びて朽ちた建物がひきめしう赤く染まったシーアン。また、序盤の首都であるクリアなトーキョーシティーと、その周辺部にある犯罪の温床になっていたスラム街。さらには、常守朱がシャンバラフロートの部屋での青空と夕焼けなど。とにかく枚挙に暇がないほど、スクリーン上で青と赤が重点的に映しだされていました。
 
 青と赤といえば、2期で繰り返し登場したフレーズの「what color?」が象徴するように、シビュラシステムにおいてクリアかアウトかの判定結果を表すものです。劇場版はアニメ本編以上に、大胆なまでに青と赤をちりばめたリッチな色彩設計になっていて、これがスクリーン上でよく映えていました。細部になるんですが、常守朱音がシーアンに訪れたときの、シャンバラフロート内のシビュラ特区行きの青色のバスと、それを眺める首輪を付けた潜在犯の足元に敷かれる赤いカーペットなど、細部にまで色彩による統一感を持たせていたようにおもいます。  


 その対比に重ねるように、獣に関してもまた台詞によって明確に対比させていました。
 台詞では、シビュラシステムの管理下にいる日本人を家畜と言ったり、獲物を追い続ける狡噛を猟犬と表現したり、さらには狡噛はデスモンド・ルタガンダ率いる傭兵団をハイエナと呼んだりしていました。そして、映像では、シーアンに輸出した日本産ドローンが犬を模していたこと、ニコラス・ウォン率いる部隊の四脚戦車が獣のような姿だったことなど、近代兵器のロボット群がどれも獣のような外観に設計されていたのが印象的です。日本ではドローンはいうまでもなく手りゅう弾ですら可愛いくデザインされているのに、シーランにあるドローンと戦車は獣臭くて面白かった。シビュラシステムの内と外がデザインのレベルで表現されているとおもいました。シャンバラフロートの潜在犯が飼い犬のように首輪を付けられていたシーンもありましたね。 

 獣の対比に関して、シヴィラシステムの管理下にある平和に飼いなわされた人間が家畜だとすれば、シビュラシステムの管理外にいる紛争が絶えない人間は獣と呼ぶに相応しいのでしょう。
 常守朱の正義の目指すものは、まさしくこの極端な二項対立から脱却することであり、それは人が家畜でもなく獣でもなく人間が主体として生きていくというものなのかもしれません。っていう二項対立はいささか強引すぎるかもしれませんが、まあ対比くらいはあったのでしょう。

 
 さらに対比でいうならば、狡噛が目の前の悪を追求しようとデスモンドを追う一方で、常守朱は目の前のハン議長が手繰るシステムそのものを告訴しようすると、それぞれの正義のありかたもまた対比されていました。それぞれが、局所的、大局的な正義の貫き方になった、ってのは結果論でしょうけどね。 
 
 「PSYCHO-PASS」は1期、2期そして今作の劇場版を通じて、正義を追求する過程そのものに重点を置いた物語であると感じました。最後に映しだされた文字の「正義(システム)は進化する」というものも、そのあとの常守朱の「いつか真価を問われるときが来る」という発言も、あくまで正義を追求する過程のストーリーであり、その過程は今後国民そのものが選択していくためのスタート地点というわけです。

 という感じで、今作は私にとっては常守朱と狡噛がそれぞれの正義を問う物語で、それは脚本だけでなく映像によっても饒舌に物語られていたと感じました。

総評

 正直なところ、感想はアクションシーンがすばらしかった、で終わっちゃいますね。欲をいえば、もっと捻ったストーリーでサスペンス濃度が色濃い刑事ドラマにも期待していたんですけど、公開前からアクションやるって話を聞いていたし映画を舞台にするならやっぱりアクションだよな、満足したのでした。

 まだ語るとすれば、密入国したテロリストが狡噛の本を持っていたのは、誰かの陰謀とかではなくてただたんに本好きなやつが持っていったって展開はクスっときました。あのシーンは、常守朱が複雑な表情で本を見るところが引きになってカッコいいOP(凛として時雨のOPはやっぱり最高)に突入したのに、そのキッカケがなんとなく盗まれたってギャップにユーモアを感じましたね。
  
 映像美とアクションシーンの見応えに富んだ劇場版「PSYCHO-PASS サイコパス」、たいへんよかったです。
 
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 冒頭に貼ったのが劇場から出るときに撮った写真で、これが劇場に入るときに撮った写真です。青と赤の対比!って思ったのでどちらも張っておきます。