単行のカナリア

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Psysalia Psysalis Psyche “#7 Tour” 渋谷QUATTRO 12.5.11 解散ライブ


  Psysalia Psysalis Psycheのニューアルバム『#7 』のリリースツアー、ツアーファイナルとなるライブが5月11日に渋谷QUATTROで開催された。この日のライブは、ツアーファイナルという意味を遥かにこえて、バンドにとっても観客にとっても決定的な意味をもつ事件となった。それはというのは、ダブルアンコールでメンバーの口から「解散する」という突然のアナウンスが流れたのだ。あまりに唐突すぎて場内が立ちつくして静まり返るほどの衝撃だったのだが、尋常でない熱狂のもとで迎えられたラストの「Subway Killer 」を体験したあとでは、おもわず解散を納得してしまうほどに素晴らしく感動を呼んだライブであった。
 
 


 
  オープニングアクトとして登場したのはPsysalia Psysalis Psycheの盟友である「HATE NO HATE」。白幕と照明によって飾られたステージをバックに、ダブの心地よさ、サイケの怪しさをゆったりとしたリズムで奏でていく。体を揺らすダンサンブ ルなナンバーを奏でており、曲目を重なるごとに観客の揺れが増幅されていき、ラストの曲までには十分にフロアが温められた。あくまで主役につなげるための アクトといった意気込みで、気構えることなく活力に溢れたステージであった。


 そして、Psysalia Psysalis Psycheが登場、王冠を被った衣装、上半身裸のペイント、風変わりな衣装、美形のメンバーといったように、視覚的にも存分にインパクトを持っているバ ンドということを再確認させる。今思うとメンバーがこのライブに懸ける思いの強さが表情に現れていたのだろう。大きな拍手をもって迎えられたが、フロアの 雰囲気はどこか張り詰めていて、ヒリヒリとして空気のなかでオープニングの「Marvelous song」が投下された。切ない嘆きがこめられたこの曲は、怪しげな照明が映しだされたステージを、一瞬にしてダークな雰囲気に染めあげる。楽曲終盤の破 壊的な調べのアウトロが鳴り響いてから、バイオレンスなポエト・リーディングが紡がれる「21st Century Massacre」に突入。怒涛に紡がれるワードと分厚いギターサウンドの熱量はとんでもないもので、その熱に伝染されたようにフロアが狂乱騒ぎとなって いった。「take me out」ではバキバキのガレージロックにギターノイズをまき散らしながら、彼らの獰猛な攻撃性をいかんとなく発揮して煽りたてていく。フロアの熱狂は覚め やらぬまにPPPのアンセムとも呼べる「Butch & The Sundance Kid 」に突入して、バンドの覚悟に呼応するように堰をきって観客が踊りだしたり暴れだりと混沌したフロアになった。ここではギターの掛け合いとヴォーカルの掛 け合いがスリリングに絡み合って、圧巻のロックンロールの破壊力を魅せつけた。


 そしてここからは「#7」のアルバム曲のラッ シュとなる。「Lemon Pop」では詩に合わせてメンバーが箒に乗るマネをするなどとテンションは上々で、緩急のあるダイナミックなサウンドに導かれるままに疾走していき、対し ての「Death To My Friends」はどす黒いグルーブ感で会場をさらなる熱狂へ引き込んでいく。リズミカルな「Deco-Chang 」ではフロアがダンスフロア化とし、息の合ったテクニックで魅了しつつも休ませる暇はなく暴力的に掻きたてるアウトロが響く。そして、エレクトロとロック ンロールの要素を兼ね備える表情豊かな「2.5D」は、ライブによって昇華されて一段階まして心地よいグルーブ感に仕上がっており、照明の効果がプラスさ れて恍惚感すら感じさせるナンバーであった。


 ヴォーカルが服を脱いでさらにライブの熱狂は増していく。MCで「紫穏の喉は歌う ためではなくて潰すためにあるから」とあったように、「My Dinosaur」では全身全霊のヴォーカルワークに観客も全力で応えていきながら、変則的なリズムを乗りこなす強靭なアンサンブルを叩きつける。シング ルにもなったアンセムの「Midunburi」に至っては、いよいよもって爆発的な盛り上がりをみせることになり、バンド然としてバッキバキの演奏には PPPの魅力をこれでもかというほど凝縮された仕上がりであった。そしてアンコールまでのラストになる「Titan arum」では、破壊的なフィードバックノイズと、美しく退廃的なメロディーを鳴らすことで、フロアをガラッと耽美な雰囲気に変容させていった。
 

  アンコールではメンバーがタバコを吸いながら登場、奇妙なリズムパターンと批評性が痛快な「Etrenal Youth 」で再度フロアを揺らす。その次に、美しいメロディー、普遍的な詩といった求心力のある「the United States of Psysalia」につながり、シンガロングの魅力をふんだんに響かせてヴォーカルの底力を知らしめた。どこにも遠慮はなく、ひたすらに独自の音楽を貪欲 に表現しつづけた彼らの集大成とも呼べるライブを体験して、ライブ会場はまさにPPPの帝国といった確固たる世界が完成されていたと感じた。

 
 これからが衝撃の展開となる。
 ヴォーカルの内田紫穏のみがステージに上がり、「お前たちは最高に運がいい」と言い放ち、すこし間を置いてから、意を決したように「今日でサイサリは解散 する」と語りはじめた。あまりの急な解散のアナウンスであり、完成度の高いアクトに呼応して最高の盛り上がりがあっただけに、会場は騒然となり静まり返っ た。それからギターの松本亨が登場してちょっとしたギャグを交えつつ「お前ら本当にありがとう」と感謝の言葉を口にした。

 
 メ ンバー全員がステージに揃うと、「懐かしい曲をやる」、「大嫌いの曲だよ」というMCのあとで初期の曲へ。棘のある詞が遠慮なく飛びかう曲で、逞しいアン サンブルに呼応したのか、呆然とした会場であったがぽつりぽつりとその熱狂を取りもどしつつあった。そして初期のナンバーの「Masturbate」で は、暴力的でありながら瑞々しくもある感覚を歌い上げて盛り上がっていたのだが、この曲は途中で中断されることになる。


 「そん なノリじゃねえだろ」と、どうやらフロアの盛り上がりに不満があったらしく中断されたようであった。会場のまだ解散を受けいれられない雰囲気を察してか、 ここで松本亨によるMCが挟まれる。当時からともに活動してきた衣装を担当する人物について語りだして、「最高の舞台で、最高の盟友と、最高のステージ で」と終わりを感じさせる言葉の途中で、内田紫穏がいきなりさえぎって「最低の結末だよ!」と叫んだ。そのときになってPsysalia Psysalis PsycheはどこまでもPsysalia Psysalis Psycheであった、と痛感した。このやり取りによって不思議と解散という事実が観客の中で受け止められたようか感覚があった。。

  
  そして、「本当にこれで最後の最後」という言葉とともに、ラストの「Subway Killer 」の不穏なイントロが鳴り響いた。「今日がまた終わっていく、今日もどうも狂っていた」、「吐きそうだこの話 吐きそうだよ」と、バンドの突然の解散に相 応しく、退廃的で閉塞感をストレートに表現したダークな曲で、このときばかりは生々しい痛さをもって奏でられた。ステージからのダイブ、マイクを奪い合う パフォーマンス、そして尋常でない気合を滾らせたメンバーに呼応して、ついにフロアは最大の熱狂の渦がわきおこりハイライトを迎えた。扇情的なヴォーカル 掛け合い、強靭なアンサンブル、獰猛な攻撃性、反抗精神、苛立ち、PPPの魅力が凝縮された「Subway Killer 」は、ラストのラストで居場所を得たように暴れ尽くしながら切なく美しく響いていた。


 「ありがとう」、突如にして解散ライブと なってしまったこの日のライブは、松本亨のその一言で幕を閉じることになった。客電が点いたあとの会場には、いまだに拭いきれない戸惑いと、最高のアクト を体験できたという充実感が奇妙に同居していたと感じた。確かに「最低の結末」というように不親切な終わり方であったのだが、個人としてはどこまでも Psysalia Psysalis Psycheらしくあったライブを体験できて、不思議と納得できてしまった。それほどに本当に最高で最低の終わりかたであったのだと。