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ももち麗子『めまい』が無料で全編読める/感想

コミックDAYSでももち麗子『めまい』が無料で全編読める。ドラッグ依存と家庭問題と女性性がテーマの作品。

ドラッグの甘い誘惑にあなたは耐えられますか? ダイエットしたい。成績あげたい。気ばらししたい。そんなときの特効薬があるといわれたとき、キョウの選んだ道は!?

問題提起シリーズ めまい - ももち麗子 / 僕たちの未来 | コミックDAYS

ドラッグ依存マンガ、または家庭問題マンガ、もしくは2000年代の薬物社会問題を切り取ったマンガとしておすすめ。ドラッグ描写に迫力があるので自信をもっておすすめできる。LやSといったドラッグ表記こそ古臭さはあるにはあるが、ドラッグ依存の執念深さ、家庭問題(期待と無能)、ドラッグ依存と女性性などが生々しく描写されている、今も色褪せない社会性を帯びた名作だとおもっている。最近買って読んだ。

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問題提起シリーズ めまい - ももち麗子 / めまい | コミックDAYS

 

「問題提起シリーズ」というキャッチコピーが付けられている。とはいえ内容には説教臭さは皆無だし、少女マンガの形式を押さえている。でも物語は凄惨で、まず教育現場では使用されることはなさそうなストーリー。

ちょっとばかし痛い目にあってもうこりごりというような生温さはないのだ。ネタバレ回避のために詳しくは書かないが、『めまい』ではドラッグの誘惑の執拗さが描れていて、ありがちな落としどころからまだつづいていく怖さや楽しさがある。

そしてまた、今作は女子学生という立場を明確に打ち出すことで、女性が置かれた社会的立場も踏まえられている。これに関して少しだけ掘り下げると、作中であるキャラクターの「得だか損だかわかんないけど女は金に困らないし」という台詞がでてくる。現代に置き換えれば、ホストやメン地下、地方出稼ぎや菓子箱貯金に発展している社会問題に連なる問題で、「女」(限定された主語)はドラッグ代や売掛金を「得だか損だか」払うことができてしまうことの問題が提起されている。手段を選ばなければであり、そのような手段を選ばされてしまうという問題も含めている。

あとドラッグ描写が完全にキマっていていい。やったことないのでわかないけど。

ここからネタバレあり感想。

『めまい』には最高のシーンがあった。それは、娘を有名大学に進学を強要していた父が、娘が「こわれた」のを目にしてようやく諦めたシーンで、おれは過去がフラッシュバックして妙な共感をしてしまったせいで涙なしでは読めなかった。

ほんと、もう、どうしようもなくなるシーンだった。その鉛筆を親に突き刺すことができればよかったのに、それができないから自分の手に突き刺してしまうんだ、あなたのせいではないのに、とどうしようもなくなった。

ここでもまた問題が提起されている。(作者の意図ではなさそうだが)ドラッグ依存の背景に親の期待に応えられないしんどさがあり、少なくとも『めまい』では「ドラッグをやらないほうがいい」と言い切れないと感じた。というのも、もし主人公がドラッグをやって一時期的にでもこわれてなかったならば、父の態度は頑なで変化はなかっただったろう。すると、親子間で地獄の我慢比べになっていた可能性だってあるのだ。そのとき運が悪いと『母という呪縛 娘という牢獄』の事件ルポのように殺人事件に発展してもなんらおかしくないのだ。ドラッグ依存と殺人を天秤にかければ、さすがに殺人が分が悪いだろう。そんなの考えすぎで一蹴できるような幸せな家庭を知らないし、そう感じた。

ドラッグは最適解ではないのはそう。絶対にそう。ただ最適解ではないとはいえ、明らかな間違いともいえないのが、『めまい』では父にはドラッグが「効いた」のだ。ドラッグでこわれたことで、その有り様を父が目にすることで、父は理解することができたのだ。損だか得だかなんだか。

再度になるが、ドラッグ依存が一時の過ちで片付かず、死と入院に至るまでドラッグの誘惑がノックしつづけてくる展開が『めまい』の凄さであり、おもしろさ。田代まさしがファンイベントで握手するときにこっそり手に薬を握らせれたというエピソードに近いものがある。

 

他にも問題提起シリーズには作品があり、自殺、ストーカー、性暴力、いじめ、売春などの社会問題を大々的にテーマにしている。

他のもよくて、少女マンガの枠組みだからこそのメッセージ性があり、特に売春回の『いたみ』の「知らないおっさんと寝るよりブランド品を持ってないほうが恥かしくなった」っていう台詞が、こう、まぎれもない問題提起がされていると感じた。あと「金を貰えないセックスはしたくない」という台詞もあり、これはサイコミの看板マンガ『明日、私は誰かのカノジョ』でも似たようなのがあって、問題は提起されつづけている。

おれは『めまい』を小学生の頃に姉の本棚からパクって読んで怖くて最近になって思いだして買って読み返して無料公開されていることを知ったのだった。