単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

ハンターハンターのキメラアント編で描かれた『不条理』という面白さ



 いよいよ今日から10月となった。すっかりと涼しくなった秋の夜にはホラー小説が合う。
 僕が丁度読み終わったのは「他人事」という平山夢明作の短編集。人間の不可解な狂気を描いた、スラプスティックな作風であり、無関に裏打ちされたどうしようもない不条理さが面白い作品だ。


 それと、ハンタハンターが何の関係があるかというと、その作品の解説に冨樫義博が寄稿していたのだ。あまり知られていないことだが、少年ジャンプで連載している冨樫義博は、筒井康隆平山夢明といった作家を好んでいる。その作家たちが描くのは少年ジャンプではとうてい掲載不可能な内容だ。



 そのあとがきを読みながら、そういえば感興の終結をみせたキメラアント編は人間を取り囲む不条理さも描いていたのではないだろうか、とふと思いたった。(ここから単行本派の方にとってのネタばれあり)


 その理由となるのは、あれだけの暴虐を振るったメルエムが幸福で閉じようとしている様や、師匠を殺されたゴンの自己犠牲が叶えたのはただの復讐であったことである。これは不条理と呼ぶにふさわしい展開だ。それに、ネテロ会長の自爆だって、結局は王を幸せに導いではなかったか。人間サイドでみたらあまりにも不条理である。


 あとがきにあったコメント。
 一人の作家として言うならば、救いのある作品を九割描いておいた後で絶体絶命のエンターテイメントを描きたい。

 
 キメラアント編は、まさしく絶体絶命のエンターテイメントであった。最凶であり最悪のシステマティックで誕生したキメラアント、そして比肩するものがいない王という絶対的な存在。人間たちは、数多くの人質を取られた上で、彼らに対抗しなければならなかった。

 しかも、キメラアントは人間と同じく成長する。人間と異なるのは名称とその姿だけであった。

  
 メルエムとの決戦でネテロ会長が殺戮兵器を使用したくだりでは、どちらが正しいか、いやどちらが人間らしいかの点ですら、差異などはなくなっていたのだ。むしろ、人間の悪意というのものが描かれた。


 物語は結果としては、救いのある結末になったようだ。しかし、その実情は、突如として発生したバイオハザードが通過して、人間たちは犠牲をだしたうえで平穏を取り戻したというもので、不条理この上ない。


 唯一無二の人材であるネテロ会長を失くし、パームはもう一生あの異形の姿であろうし、主人公であるゴンは回復の見込みがない欠損をした。こうやって挙げていくときりがないほどの犠牲を生んだ。でも、やはり得たものは少ない。



 こうやって少年ジャンプというフォルムに包まれていながらも、視点によってはキメラアント編は「不条理」をとことん描いている作品だと読むことができると思った。


 僕は少年ジャンプ最新号『返答』のハンターハンターを読んで感動した。異なる種の生物が知的営為をつうじて思いを通わせる、ある意味ではボーイミーツガーツとも呼べる二人を描いた結末、素晴らしい作品だと叫びたくなる衝動が沸きあがった。



 でも、スラプスティックだったり不条理さを描いた作品としても、ハンターハンターは秀逸な作品であると思う。少年ジャンプで掲載されていたということを考えると、より面白いと感じる。こういったちょっとアレな読み方をしたとしても、やっぱりハンターハンターは面白い。ようは冨樫義博は最高なんですよね。



 あと、面白いと思ったあとがきを。


人間には、自分の中にある暴力的であったり残酷であったりする負の部分には近づきたくないという思いと同時に、どうしても覗いてみたいという欲求がある。僕の漫画も、自分自身の黒い部分にふれずにはいられないという、ギリギリのところで描いている。
 
 ギリギリなんです。