単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

ハンターハンター 30巻 感想


 ハンターハンター30巻感想。…そうか。余は、この瞬間のために、生まれて来たのだ…!!(いまにも消え入りそうな表情で)

HUNTER×HUNTER 30 (ジャンプコミックス)
HUNTER×HUNTER 30 (ジャンプコミックス)
 キメラアント編のラストあたりの感想は、すでにブログでさんざん書いていますが、単行本が発売されたのであらためて絶賛していきます。ちなみにこれまでに書いたのが下のリンク。そういえば、キメラアント編のラストに心を打たれてから、感想記事を書きはじめたのでした。

ハンターハンターのキメラアント編で描かれた『不条理』という面白さ
キメラアント編  冨樫義博がテーマにしてきた「人間」についての考察

感想


 やっぱりキメラアント編は素晴らしい。こうして単行本で一気読みしたときの読み応えは半端じゃない。終盤にさしかかっても,まだ張り詰めた緊張感がある。

 王宮に突入してからは、まるでドキュメンタリーのように緻密に描かれるわけですが、その密度がすごい。キャラクターそれぞれが信念と感情を持っていて、それらが複雑に入り乱れて、ストーリーは予想不可能な方へ転がっていく。大局的にみれば、キメラアントVS人間という構図。そこに,イカルゴやウェルフィンの謀反、そしてパームの半獣人化、さらにコムギという異端の存在など、キャラクターの立場ですら様々。そのおかげで、個々のキャラクターの掛け合いは複雑きわまっています。加えて、キャラクターが個性的なのは書くまでもないでしょう。


 そういった緻密さがありつつ、局面はダイナミックに動いて、変化しつづける。でも丁寧にストーリーが進行していったと思えば、いきなりの急展開が待っていたりと、やっぱもうすっごい。戦いを通じて念能力が進化したキルアやユピーがいる傍らで、それをナンセンスにするほどのメルエムのインフレがあったり、ここらへんの采配は感心させられます。

 このストーリーの分厚さこそが、私にとってのキメラアント編の魅力の一つです。冨樫義博という作家は、わりと論理を重視して作品を作るらしくて、キメラアント編はその手法が見事に機能したと思いました。なにがいいたいかっていうと、ストーリーが本当に面白くてすごいということです。

 

 さらにキメラアント編で描かれたテーマが、個人的にはグッときました。過去の記事から引用しますが、

 キメラアントという優良な種族を徹底して排除しようとする人間の悪意を描き、また、人間が開発した遊戯を通じてキメラアントと和解することができた人間の偉大さも描いた、とんでもない人間論だと思いました。
 
 ということ。別にこういったテーマをキャラクターが直接主張したわけではないので、上のような解釈ができたりと,いろいろ示唆に富んだ物語だったと思います。パームの「あたしたちは残酷よ。蟻と何一つ変わらない。いえ、それ以上に」という発言がありましたが、だからといって人間は「残酷」なだけではないですから。化け物となったレイナたちをすんなり受け入れた村人など、人間の「良心」を感じさせるシーンもまたありました。



 それでさらに、複雑で入り乱れているストーリーが、ラストに向けてスーッと収束していく様が素晴らしい。

 このラストは、なにもいい話ってわけではないんですよね。結局は、生じてしまった被害は甚大なものであったり、メルエムはコムギを身勝手に巻き込んでいたり、と。結果論でいっても、不条理なことが多々おきている。それに、人間とキメラアントが衝突したことで、人間が秘める悪意のおぞましさで表出して。そこでは、人間ではなくてメルエムが世界を統治した方がいいのでは、とすら思わせるシーンもありました。

 一方で、メルエムとコムギが軍儀によって分かち合う、二人の邂逅は美しいと感じることもできました。二人は軍儀という遊戯を通じて関わることで、種族と使命をこえて、ついには死を分け合うほどに寄り添いました。ここらへんは演出も見事かと。メルエムの視界が閉じていく中で、お互いに声を掛け合って、その声がかすかな灯火になる。そして、そっと死んでいくわけです。この一連のシーン、大好きです。


 結局は、悲劇でありつつ、美しい物語でもあった。勧善懲悪を否定するだけではなくて、清濁併せ飲んで完結したのが良かったです。週間連載時は「どうなるんだ!?」って興奮だけで読んでいた気がします。やはり私の口からは、絶賛の言葉しか出てきませんでした。


 まあこうした書いた評価はじつはどうでもよくて、私にとっては、どれだけ読み返したか、どれほど語りたくなるかこそが、「面白い」の指標としています。それでいえば、さんざん読み返して、さんざん語ったキメラアント編は、やっぱり面白かったのだと思います。


おわりに


 十二支んがちょこっとだけ登場。パリストンは初登場時からやばそうな気配が漂っています。終わってから分かることだと、パリストンの発言の意図が読み取れて,最初からとんでもないやつだと分かるので面白いです。本当にこいつは曲者です。十二支んついては、すべてが終わってから丸ごとひっくるめて面白かったという感じだったので、まあこれからでしょう。



 なんというか、ハンターハンターは読み応えがあるので、つい身勝手に解釈したり評価したくなるのですが、そんなことよりも初読時にページをめくるワクワクする気持ちこそが、一番確かなような気がします。