単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

ハンターハンター 31巻 感想と考察 前篇


 HUNTER×HUNTER31巻「参戦」の感想と考察の記事。週間連載時に書いた感想を中心にまとめた内容です。前篇。
 


 アルカ 最強。
 まあなんといいますか、この31巻はガラッと変わりました。

 アルカの能力説明しかり、選挙のルール説明しかり、説明のために割かれるテキスト量が多くて、何をやっているかを理解するだけでも一苦労するストーリーになっています。

 何をやっているかを分かったところで、今度は何をやりたいかが見えてこない。アルカのかわいさは一目瞭然なのだけど、アルカの能力がこれまた把握しにくい。パリストンのうさんくささは一目瞭然なのだけど、パリストンの思惑がどうもハッキリとしない。 

 って感じで、これまでの見れば分かるエンターテイメントとは様子が変わっていて。今度の話は数字や文字をしっかりと読み込まないといけないヘビーな内容になったのですが、個人的にはこの新展開は読み応えがあってかなり好きなんですよね。


 まあ正直にいえば、ちょっと物足りない(ボリュームはありましたが)というのが単行本での感想だったのですが、連載当時の感想ではそこらへんを含めてかなり絶賛していますね。これはおそらく連載時に楽しみ尽くしたので、単行本では復習するだけになってしまったからですね。あとやっぱり32巻のほうが盛り上がるので、31巻はその前篇って印象が大きいです。一気読みしたらしんどくなる説明量のボリュームでも、連載時に小出しになっていて楽しめる材料になっていましたし。

 
 ということで、やっぱり面白いってことには変わりないですね。キルアとイルミの攻防戦、パリストンの独壇場とかは読み返しても興奮しますから。当時の記事を読み返していいとおもった感想と考察をまとめていきます。前半についての内容になります。

頭脳戦

  
 誰もが自らに優位なルールを設定したい。でも、それは許されないから、提案された・提案したルールのメリット・デメリットを検討しながら、ぎりぎりの妥協点を言葉巧みに探っていく頭脳戦。

 この頭脳戦というのが選挙編の面白さの一つでしょうね。(と同時に、十二支んが緻密に事を進めているときにレオリオの参戦によって状況が一気にひっくり返されてるのがまた面白かったり。)十二支んの思惑と、パリストンの陰謀と、レオリオの情熱が絡み合って選挙編はどんどん盛り上がっていきます。


 この頭脳戦でひときわ目立っているのがパリストン。ネテロ会長の台詞を持ち出したり、ハンターの道徳を語ったりと、あきらかに本心ではない発言をして奔放に場をかきまわす、要注意人物のキャラクターですね。

 私ランキングの思ってないことを言ってそうなキャラクター、張り付けた笑顔がうさんくさいキャラクターともに第一位。パリストンは32巻で本領発揮して活躍(邪魔)してますが、31巻でもすでに彼のすごさ(うざさ)はうかがえますね。大好きなキャラですね。あと、登場人物紹介に載っているのにビックリ。

ホラーなスリル

 アルカの能力は一体どういったものか。それをホラー路線すれすれで描かれていました。

 いきなりアルカの目が真っ黒になって凄く怖かったです。アルカの便利で不条理な「おねだり」はあきらかに不穏な空気が漂う設定。他人を犠牲にすれば最強の利器であり、使い方によっては世界を滅ぼすことさえできる能力。そんな禁断の能力を少年誌テイストに仕上げるってのが最高ですね。

 と思いきや、べつに少年誌テイストでもなかったり。なんてたって、無邪気なアルカが、臓器、脳、背骨を突如おねだりするときのおぞましさ、おねだいを断った人間のスプラッターな死に様は、少年たちが笑顔になるようなものではないですからね。これまた怖かった。あんな綺麗なキメラアント編を描いた後で、こんな禍々しい物語を描こうとする、冨樫義博先生のひたすら攻める姿勢が素敵です。


「念能力」の奥深さ

 メルエムの存在によって最強が決定してしまったと思ったわけですが、アルカのようにまったく軸の違う「強さ」が登場しました。そもそも、ウェルフィンの能力だって王の喉に達すると描かれていたのを踏まえると、ハンターハンターの強さはとことん揺らぎつづけるもののようです。

 こうなるのも、核となる概念である「念」の奥深さがあってのことで、あらためてゲーム大好きの冨樫が提案したこの概念の優秀さを感じましたね。おそらくアルカの不可思議な能力だって念の一種なのでしょう。(と思うのだけどそれはまだ明かされない)


 「強さ」でいえば、アルカ編、選挙編で重要になってくる強さが賢さ。いくら腕っぷしが強くても通用しないのがアルカの能力であり、いくら腕っぷしが強くてもあまり意味がないのがハンター会長選挙ってわけです。ここらへんがこれまではとは決定的に異なる点かなと。

キルアの二面性

  キルアがアルカを連れだすために提案した非情なおねだり、「兄貴だろうが何だろうが どんな手を使ってでもツブしてやる」という台詞は、優しくて妹が大好きなお兄ちゃんというイメージに埋もれて懐かしくなってきたキルアのクールっぷりを思い出せてくれました。

 心臓を血もなく抜き取れずに悔しがる、暗殺をほのめかして恫喝して試合を辞退させる、そういった一面もキルアにはあるわけです。まあそれでもアルカへの溺愛っぷりが目立つ巻でしたが。なるべくアルカに頼ろうとしないあたりも愛情なんでしょうね。キルアの兄としての自覚が頼もしかったです。


キルアの優位性はアルカへの愛情ゆえ

 アルカの能力のルールは、試行錯誤して帰納的に推測されたルールです。絶対ではないので、試行されていない未確認のルールも存在するはずで、どうやらそれらをキルアのみが把握しているようです。

 そこで、なぜキルアだけが把握しているかというならば、それはキルアがシスコンだったからアルカと仲が良かったから、隠されていたルールに気づく機会が多かったわけです。当たり前のことなんですが、キルアはアルカと仲がいいからこそアルカの能力に詳しいということです。アルカを家族扱いせずに道具程度にしか思っていないイルミがアルカのすべてを知らないのも当たり前。

 つまりはキルアの優位性は愛情ゆえの結果というわけです。これは下の「情報戦」に続く内容です。
 

情報戦 

 キルアはアルカのことをより知っていて、それこそがキルアの切り札になっています。

 このただ「知っている」だけで優位になるのが念能力が主体となるハンターハンターの世界なのです。ゲンスルー、メレオロン、ウェルフィン、ナックルの能力あたりがその代表。情報ってのはめちゃくちゃ大事なわけですよ。

 なにせキルアとイルミの鬼ごっこは、イルミがツボネのレンズに細工してキルアの位置情報を入手していた決定打によってイルミの勝利で終わりました。どれだけ頑張ってもたった一つの情報で逆転してしまう、というのはスリルがあって面白い。そうなってくると、キルアだけが知っているアルカの隠されざる能力は、はたして戦況をひっくり返すほどの切り札になるのか、こうご期待!
 

 こうして情報一つで戦局がガラッと変わるように、情報が最強の武器になるっていうのはハンターハンターの魅力のひとつでしょう。これによって騙し合いや駆け引きが面白くなってくる。今回のアルカ編、選挙編は頭脳戦のなかでもことさら情報戦が盛り上がっていますね。
 

レオリオ!! 

 頭脳戦、情報戦がグダグダしかけたところでついにレオリオの登場。

 レオリオが登場するとさっそく、執事との交渉においては言いたいことを言ってくれて、選挙でもやって欲しいことを見事にやってくれました。なんて分かりやすくてストレートなキャラクターだ。読者の期待、を最速で代弁してくれる様は気持ちいいです。
 
 それにしても相変わらずたった一人でこうも局面をかき乱して、レオリオさんは初期キャラクターの貫禄を見せてくれました。しかも、その短絡的で独善的に思える行動の裏には思いやりがあってこそ、というのは十年前から知っているので、レオリオのゴンへの思いを感じ取れて嬉しくなりますね。

 レオリオはジンにぶちぎれることによってハンター会長総選挙で3位にランクインする快挙を成し遂げていました。これはハンターという人間についての示唆的な出来事だと思います。一票が重要になってくるハンター会長選挙において、ただ面白そうなやつに投票するというのはハンターたちの気質なんでしょうね。そうやってこれまで支持されていたのがネテロ会長だったと。仕事を斡旋してくれる役に立つパリストンもありがたいけれども、同じくらいにバカでも面白いやつもいいというノリでしょうね。ハンターたちってネテロとかゴンみたいな愉快なキャラが多いんだろうなーと思わせられるストーリーでした。


以上

 この巻の前半の見どころは、なんといってもレオリオの参戦じゃないでしょうか。

 今回は物語の起点となる役割を果たしつつ、懐かしくなる暴れっぷりをみせたレオリオの独壇場でした。本当にキャラクターの魅せ方が上手いですよね。この込み入った状況にぽつんとレオリオを配置するだけでこんなに局面が変わるのですか。慎重に展開していたところにレオリオという直球のストレートでぶち抜く。鮮やかなコントランスを持ったストーリー展開でした。レオリオはやっぱりいいキャラしている。

 
  後篇につづく。