単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

【歌詞考察】「アンインストール」/石川智晶【リアル】

【アンインストール/石川智晶
私はレビューをする際にあまり歌詞について語る事はないですが、たまには歌詞を考察してみたいと思います。
この歌詞は本当に芸術です。
今回はアニメの「ぼくらの」をあまり意識しません。

タイトルの《アンインストール》とは、パソコン上でインストールしたソフトを消去する作業の事を言って、それは、《世界》を《パソコン》に、インストールされた《ソフト》を生きている《人間》に見立てたのだと思われます。

この前提が、歌詞の根幹となる世界観を貫いています。
この見立てで重要なのは、パソコン(世界)は誰かに操られているもので、
また、ソフト(人間)はその誰かの手のひらの存在だという事です。


【あの時 最高のリアルが向こうから会いに来たのは
僕らの存在はこんなにも単純だと笑いに来たんだ】

「最高のリアル」とは例えるならば、交通事故などの理不尽な現実でしょう。
なぜそのリアルが「最高」か、また「笑いに来た」というのは、それは《誰か》に対する皮肉だと思います。

「理不尽な現実が会いにきた」というのは、世界はやはり《誰か》の手のひらであり、その《誰か》の気まぐれな意志を表す表現でしょう。


【耳を塞いでも両手をすり抜ける真実に惑うよ
細い身体のどこに力を入れて立てばいい?】

人間の感覚器官で耳というのは常に外に開かれていて、例え手で耳を防いでも絶対に音が漏れます。
耳を防ぐという行為は、何かに対する拒否反応で、ここで言われる《真実》は、先ほどの《最高のリアル》です。
つまり、理不尽な現実は避けられない。とまた別の表現をしています。
そしてそれに対峙した感情は、怖いでも辛いでも《惑う》です。
この表現一つも深くて素晴らしい。
あまりに驚くような事が出来たら、それがどんな事であって、人間はただ唖然とするだけということでしょう。


さらに《細い身体》はあまりにも無力で、《リアル》の前では「何をすればいい」よりもっと原点になる「どこに力を入れて立てばいい?」と立つすら事ならないのです。


【アンインストール アンインストール
この星の無数の塵のひとつだと
今の僕には理解できない】

《無数の塵》は《人間》を表していますが、塵の一つという表現は、星と対比されて本当にちっぽけな様子が浮かびます。
「今の僕には理解できない」とありますが、これは《リアル》に遭遇した直後の状況を描いているのでしょう。

コメントで指摘して貰ったのですが、この歌詞は《塵であるという事実》を納得出来ない、つまり人間は塵なんかではない。という僕の気持ちであるとも解釈出来ます。




【アンインストール アンインストール
恐れを知らない戦士のように
振る舞うしかない アンインストール】

そしてその状況下で僕に出来る事は「恐れを知らない戦士のように振る舞う」だけです。
《戦士》は戦うことを約束された人間であり、戦う以上は恐れを知らない訳がありません。
なので《恐れを知らない戦死》は、死を覚悟した「勇敢な戦士」というよりかは、
死をあえて意識しない、もしくはただ無知な「戦士」だと解釈しました。



【僕らの無意識は勝手に研ぎ澄まされていくようだ
ベッドの下の輪郭のない気配に
この瞳が開く時は心など無くて】

《無意識が勝手に研ぎ澄まされる》というのは、一度《リアル》を体験した僕が、もはや人事でないと分かってしまった「死」に対する意識だと思います。
残りの二行も、そういった意識が高まって眠れなくなってしまい、心がその意識で埋まり空っぽになったのでしょう。


【何もかも壊してしまう激しさだけ
静かに消えて行く季節も選べないというのなら】
その「死に対する意識」というのは、歌詞通りにあらゆる感情を先行する恐怖という、人を崩壊に向かわせる感情です。

さらに《消えて》いくタイミングさえも選べないほど、リアルは圧倒的な存在なのです。


【アンインストール アンインストール
僕の代わりがいないなら
普通に流れてたあの日常を
アンインストール アンインストール
この手で終らせたくなる
なにも悪いことじゃない アンインストール


このサビは、おそらく二つ解釈が出来ます。
「自殺」かまたは、「世界を壊す」の二つです。
この答えはアニメから得ました。
それはアニメの中で主人公の僕は「世界を壊す」力を手にしていて、さらにその選択肢に迷いもします。
よって、僕の存在が唯一(僕が死ねばもう僕はいないなら)ならば、《リアル》に遭遇していない人たちにとっては未だに穏やかな世界を壊してしようと、解釈しました。

明らかに悪い事であるのに、それを悪い事ではないと断言するのは、僕の《リアル》に対する怒りややるせなさが見えてきます。


【アンインストール アンインストール
この星の無数の塵のひとつだと
今の僕には理解できない
アンインストール アンインストール
恐れを知らない戦士のように
振る舞うしかない アンインストール】

またサビをリフレインしておしまいです。
結局は壊してしまおうかと考えたが、それは辞めて、あくまで《リアル》と向き合うのでしょう。
一つ前のサビは、僕の気の迷いというか葛藤する気持ちを描いたのです。


総評
この歌詞は、理不尽な現実に遭遇した人間の感情(一部アニメに添った感情もありましたが)を鋭く描いている歌詞です。
しかもその理不尽な現実のは偶然ではなくて、神と呼ばれるような《誰か》の意志のもとで起きるのです。
人間はそれを苦しみながら受け入れるしかない。

実体験ではあまりないですが、アニメや小説で多く描かれる普遍的なテーマであり、それをこんな風に表現するのは素晴らしいの一言です。


かなり長文になりました。