THE BACK HORN全曲レビュースタート。
これから何年間か続くであろう長い道のりの記念すべき最初の一曲は、THE BACK HORNの最強のキラーチューンであり、ライブでは爆発的に盛り上がる名曲「コバルトブルー」です。まあ一曲目はコレしかないでしょう。
この曲は初っ端のイントロのリフから暴れ出したくなるくらい格好いい。
まさにTHE BACK HORNの衝動性を体現したかのような印象的なリフ。
「コバルトブルー」は、リフを軸にした疾走感と重量感を兼ねそなえたバンドサウンドも格好いいのですが、やはり何といっても歌詞が素晴らしい。菅波栄純が、鹿児島県にある特攻隊の資料館に訪れて、そこで衝撃を受けて作られたというエピソードがあります。
「特攻隊」をテーマにした曲で、静かに流れる一夜の景色の一方で、特攻を前に胸が高鳴っている一人の青年という描写を見事に曲にしています。
前半の歌詞は、特攻前夜の夜の風景を切り取っていて、その中で「俺」は葛藤しながらもすでに覚悟しているのですが、死を目前にしていてやはり落ち着くことなんか出来ない、といった様子が浮かんできます。
サビで叫ばれるのは、「風の中で砕け散り一つになる」という儚い現実と「コバルトブルー」の鮮やかな風景。コバルトブルーって海の色かなと思っていましたが、それだけでなくて、夜が明ける頃の空の青さ、さらに人間としての青さも含まれている気がします。それこそ文字通りの青年ということでもあると。
そして後半では、「面倒くせえな」と当たり前の一人の人間の感情もあって。さらにその極限状態に置いては、「俺」は死ぬけど「泣くためだけには生まれてない」と残された生を力強く肯定しています。
この歌詞の流れ、言葉選び、一つ一つが心に突き刺さってきます。
特攻隊というテーマを差し置いて、ただ一人の等身大の人間に感情移入してしまう。
THE BACK HORNは生や死や人間をよくテーマにします。
そのテーマの根底にはあるのは型にはまった死生観そのものをテーマにするのではなくて、あくまで「ある人間にまつわる事象」を通じてのテーマなんですよね。普遍的なテーマを人間そのものにスポットライトを当てて語ることで、説得力が生まれている気がします。それに、感情移入もしやすいですから。
そして、この歌詞に描かれる青年が最後に導いた一つの答えが、終盤の「さぁ笑え」。だって青年に「今」出来ることはそれだけしかなく、それだけなら出来るのです。
他の曲でも、THE BACK HORNは「笑え」や「笑顔」という言葉を使いますが、この「笑う」ことは単なる行為を超えた、誰もが出来る「人間の生を肯定する作業」の象徴なのかなと感じました。「苦しいときこそ笑え」ってやつで、笑えないときに笑うことが精一杯の生きていることを表明するかと。
いつ聞いても心を揺さぶるエネルギーを持つ曲です。
特攻隊という題材だけでインパクトがありますが、あくまで歌詞の内容は「一人の人間」について歌った、素朴な歌だと思います。大げさな悲劇にせずに、等身大の人間賛歌として。だからこそ、私はその生き様に心を打たれてしまうのでしょう。
====
歌詞
この夜が明ける頃 俺達は風になる
勿忘の花びらを舞い上げて吹き抜ける
闇の沈黙(しじま)に十六夜の月
季節が黒く血を流してる
潮騒の音 抜け殼だけを残して
変わらないこの世界 くだらねえこの世界
そんな事誰だって 子供だって知ってるさ
だけど俺達泣く為だけに
産まれた訳じゃなかったはずさ
ただひたすらに生きた証を刻むよ 今
俺達は風の中で砕け散り一つになる
辿り着く場所も知らぬまま燃え尽きる
この夜が明けるまで酒を飲み笑い合う
俺達がいた事を死んだって忘れない
「めんどくせえなぁ 逃げちまおうか」今更誰も口にはせずに
あどけないまま眠る横顔 震える胸
愛しさも淡い夢もこの空に溶ければいい
誰も皆コバルトブルーの風の中
さあ笑え 笑え
ほら夜が明ける 今
俺達は風の中で砕け散り一つになる
大げさに悲しまずにもう一度始まってく
俺達は風の中