単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

「歌詞」を武器に掲げるハヌマーンというバンド


 今年の春に活動休止した3ピースロックバンド、ハヌマーンナンバーガール直系のオルタナティロックサウンドが特徴的で、アイロニーやウィットに富んだ一際アクのある詞世界を描いている。


 なんといっても、彼らの魅力は本人たちも自負する歌詞でしょう。

 



 歌詞を書いているのは、小説家志望であったというボーカル。インタビューで「俺らみたいなバンドはたくさんいる。でも、俺みたいな歌詞を書く奴はいない」と公言しているのですが、それは決して傲慢ではなくて説得力がある言葉だと思います。

 
 このように「歌詞こそが武器である」と公言する邦楽ロックバンドは珍しいのではないでしょうか。


 ハヌマーンが描くのは、客観的なアイロニーなどの批判性を感じさせつつ、主観的な自分の屈折した感情を絡めた歌詞。詞のフレーズ一つとっても面白いものが多くて、特に「比喩」には作詞者の抜群のセンスを感じます。

 そのスタンスは、斜に構えるという言葉が似合いますね。自分も含めて嘲り笑う、その皮肉の切れ味が半端ではないのです。私が惹かれてしまったのは、その鋭利さ。


 インタビューであったコメントを紹介します。
 山田:僕たちって若者の鬱屈した気持ちを歌ってるんですよ。例えば、カフェでひとりでコーヒーを飲んでるとするじゃないですか。その隣に、ハイテンションな大学生4人組が来て品性の欠片もない会話を始めると、僕、死にたくなるんですよ。

山田:人間として向こうの方が優秀なんじゃないかと思ってしまうんです。結局それを「オマエらは猿だ、分かり合えない」って軽蔑することで、コンプレック スを裏返して均衡を保ってるんですよ。僕の歌詞はどの曲も暗いんです(笑)。分かる人には分かってもらえるかなと思うんですけど。


World’s System Kitchen  

  個人的に心の底から共感できる、この屈折した感情を歌ったのが「猿の学生」という楽曲です。「猿の惑星」のタイトルをパロディにして、自分と異なる価値観を持つ人間に対して、羨望と軽蔑の感情を描いている詞です。

 
「猿の学生」

呆けた顔して若者が行く 夜の学生街は賑わう
彼奴の吐瀉物 軍手の片方 捨て看板の女がぼやく
『処世の悲しみを知ってるかい?』 猿の学生さん


俺の知らない遊びを知ってそうで
嗚呼なんか急に虚しくなる
猿の学生が悪い事をしている
雰囲気の大蛇に呑まれて笑う
猿の学生さん


猿公、得てして得て勝手して よしゃあいいのに喧嘩が始まる
仲裁人含む計三人
男気を誇示してる感じが見え見えで見てるこっちが痛い
猿の学生さん

俺の解さない価値観を持ってそうで
嗚呼なんか急に死にたくなる
猿の歓迎会 サークルかなんかの
吉備団子ひとつでぐるぐる回る
猿の学生さん

恋する学生が赤い月を見ている
vividな彼女を捕まえてさ
猿の学生さん

 「雰囲気の大蛇に呑まれて笑う」と、このフレーズが特に好きですね。同世代の人間模様を絶妙な距離感で捉えているのが面白い。侮蔑と羨望でゆらゆらする揺れ動く感情を感じさせます。


 
 もう一つ紹介。「Fever Believer Feedback」はパチンコに没頭する人間の醜悪さを皮肉たっぷりに描いている詞です。これまた切れ味が鋭い。ちなみに、この楽曲で彼らに惚れました。
 
「Fever Believer Feedback」

学生風や背広の中年 下品に笑う女やら老人
どうにかなりそうな騒音が 娯楽の意味さえ掻き消すギャンブル場

苛立つ常連尻目にして、一見さんが得手してフィーバー
インターカムの邪推に幻滅 「この後、春でも買うんかいね」

揃うスリーセブン フィーバービリーバーフィードバック
サンドは彼らの紙幣をシュレッダーみたいに刻む

スロウダウン パチンコの妙 不安に憑依するケチな妖怪
CR人間模様 気付けばそれの虜になってる

「通行の妨げですどうか…」腐敗した魚群に笑って警告
腹いせに彼らが投げていった 火の付いたままの匙を拾って

あくまで自分はモラリストみたいな顔して
話は騒音で、聞こえもしないのに頷いて笑う

ボウフラやアメンボの如く、誰もが夜を這いずる存在
CR人間模様 ABOで片付く人格

365回転して、当たりもせず文無しになってく
かくいう俺の暮らしも大概、彼らのソレに酷似している

そうだ、パチンコに行こう あそこなら誰に会うでもないし
CR108 性・食・眠じゃ利かない欲求



 もちろん、サウンドだってカッコいい。


 でも、彼らはやっぱり歌詞が面白いです。しかも、女、酒、パチンコと卑近なテーマを扱っているので共感を覚えますね。今さらながら活動休止が悔やまれます。もっと彼らの皮肉を聞きたかった。


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