単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

コールドフィンガーガール/栗山千明 with 浅井健一

「正しい生き方 正しい死に方って 一体誰が知ってるの? 一体何が?」


夏の日照りが道路を焦がす季節に僕は人生の「生き方」に悩み悩んでいた。
世間では相撲の八百長、政治家の汚職などの暗いニュースが絶えず流れている。
僕だけではない。国もまた「生き方」に悩んでいるようだった。

「生き方」、それは自分で考えるべき課題なのだろうが、自分で考えてもどうしても答えは出てきそうになかった。

八方塞がりになった僕は外に答えを求めようと考えた。

誰がこの答えを知っているのだろう?
知っているなら僕に教えて欲しい。


ネットでは「知っている」と口にする人が沢山いて、その方達の「答え」は一見正しいように思えた。
でも、どれも違うような気がする。
違和感がどうしても拭い去れない。


そんなこんなで吐き気がするほどに悩んでいた時、ラジオから「コールドフィンガーガール」のある歌詞が耳に飛び込んできたのだ。


「正しい生き方 正しい死に方って
一体誰が知ってるの? 一体何が教えてくれるの?」



その歌詞は悩みに対する「何からかの答え」を提示する歌詞ではなく、「それは分からない」と僕が抱いていた気持ちを代弁したような歌詞だった。
そして、この「分からない」という歌詞は悩みの解決のキッカケになった。

僕は「答え」があるように豪語していた人たちに騙されていたようだ。
正しい生き方の「答え」なんてそもそも分かる訳がないのだ。
それは、その問いが始めから正解が用意されている問いではなく、勝手に決めつけた「答え」を正当化していくことで「正しさ」が生じる問いだから。

頭を使って考えてみると、それは当たり前の話なのに、この情報化社会ではどこかにあるかもしれない。そんな幻想に僕は悩まされていたのだろう。


コールドフィンガーガールは栗山千明のオファーによって叶った浅井健一とタッグを組んで誕生した曲である。
クランチギターの揺らめくサウンドに栗山千秋の艶やかなボーカルが絡みつく緊張感のある曲調が特徴的だ。
浅井健一独特のギターサウンドを軸にしたグルーブ感のあるバンドアンサンブルは曲のアニメ「レベルE」にも共通する独特な世界観を描いている。
その世界観はクールでシニカル、絶対零度の感覚。


二番では、さらに浅井健一のコーラスが加わりヒリヒリする衝動が増していく。
間奏ではギターソロに交えてかすれ気味の歯笛も吹かれて、その外れた歯笛の調子からは世界に対する皮肉を感じとってしまう。

「正しい生き方を探してんの?」

コールドフィンガーガールは指が冷えている少女。
絶望の地下鉄に潜り込むコールドフィンガーガール。


さあ彼女は死んでいるのか生きているのか。
バーチャールがリアルに侵略していくことで生命が希薄になってしまったこの時代で、僕たちはこうして「生き方」を見失ってはレプリカの「生き方」に惑わされてしまう。
情報が「正しい生き方」を教えてくれるわけなんてないのにも関わらずに。


このコールドフィンガーガールが果たして生きているのか死んでいるのか、僕にはそれがよく分からない。
でも分かることは一つだけある。
彼女は「生き方」に騙されている僕たちを、端から眺めては歯笛を吹いてからかっているのだろう。

「そんなもの初めからどこにもないよ」と。






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ロキノンジャパンの後ろに載ってあるようなレビューを意識して書いてみました。
コメント欄でいただいた指摘を織り込んで、文章全体も加筆・修正しました。

今まで語りませんでしたが、ロキノンの投稿欄に載るのが昔からの目標の一つです。
本家に比べると、熱量と語彙と分量が圧倒的に足りないですね。
今度からはそこを重点的に鍛えていきたいです。