単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

混沌とする瑞々しさ THE BACK HORN「人間プログラム」

人間プログラム/THE BACK HORN   

人間プログラム
人間プログラム


THE BACK HORNのメジャー1stアルバム。ある時期、ある環境、ある年齢でしか鳴らせない奇跡の邦楽ロックがここにはあります。

これまでのアルバムは暴力的で、鮮烈的で、人間の混沌した感情を叩き付けた楽曲が多かったです。情景を繊細に描いた楽曲も中にはありましたが、それよりかは勢い目立ちました。
人間プログラムには、その勢いは持ち越されつつも、今作はさらに狂気を感じさせる楽曲が多くなっています。

人間プログラムとタイトルからなんだか怪しげなこのアルバムは、その構成が凄い。これに尽きます。
初っぱなからハードなロックナンバーの「幾千光年の孤独」で始まり1~9曲までいわゆる暗い曲や 混沌とした曲が並じます。歌詞カードに描かれた狂気じみたイラストが曲の雰囲気をよく表していて、アルバムの世界観をより濃くしているようです。
世界観で語ると、情景を浮かべずにはいられない美しく儚い「8月の秘密」やありのままの暴力を体現し ているような「アカイヤミ」など。凄い密度、凄い表現力です。このバンドの表現力に、ひたすら感心し感動する10曲です。
セレナーデ」のたち込もる妖艶さ(歌詞は実際にエロいことを歌っています)、「ひょうひょうと」のパワコードでひたすら押し切ることで表した素朴な力強さ、「」の寂しさからの解放感など、情景描写と心情描写が折り重なっています。

ロックに対する批判として、「どれも同じような楽曲に聞こえる」という声をよく聞きます。確かに聞きなれない人にとって、差異が見い出せないような楽曲は邦楽ロックには多いです。この意見は色々ツッコミどころがありますが、それはちょっと置いといて。
ですが、このアルバムは一聴して分かる。楽曲の配置が巧みなのを含めて、ボーカルの類まれな表現力によって、それぞれの楽曲に個性を感じます。演奏もシンプルながら工夫によって特色がはっきりとしています。それがアルバムのストーリ性を増しているようです。


そして10曲目。これまでの救いのなさに比べ、驚くほどの綺麗で澄んでいる曲がきます。「やらせろよアバズレ」「暴力に口づけを」なんて歌っていたとは思えない綺麗さ。
この並びで聞かされるが、「空、星、海の夜」。

目覚めると俺は

と、これまでの凄惨な楽曲を夢にしていまい、ここで目が覚めて歌い始めるのです。作為的なのか、偶然なのか、息をのんでしまうほど美しい。これまでの世界観を一瞬で塗り替えるアルペジオ。これがこのアルバムの真髄でしょう。
アルバムのストーリーを完成させるための一手。この楽曲があるとないとでは、アルバムの印象は大きく変わってきたのでしょうね。

そして最後の11曲目「夕焼けマーチ」。このアルバムの中では一番明るい曲なのですが、何故か怖い。先程までの余韻が静かに壊されていきます。狂気とはこの事かと心底ゾクッとしました。世界の終わりをコミカルに描いているような詞世界で、これまでの流れから、ああすべてが終わるのだろうなと実感します。
世界の終わり。それは、長い混沌から始まり、やがて達観し落ち着くが、最後に狂う。 まさしくこのアルバムそのものではないでしょうか。

かねてから私は言っていますが、人間プログラムは邦楽ロック史に残るであろうアルバムです。
作為的なのか、偶然なのか、こういったカタルシスを得られる構成を持つアルバムはめったに出会えません。
なんせ前半の9曲では世界が滅びかけていて、次の一曲でそれを夢にとどめて救済するのです。
初めて聞いたとき、どれだけ鳥肌がたったことか。この感動を一人でも多く味わってほしいです。


一年前に書いた人間プログラムのレビューこちらもどうぞ。