単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

爆誕/特撮 全曲レビュー


 特撮のニューアルバム「5年後の世界」の発売を記念して、2ndまでのアルバムを全曲レビューしようと思います。まずは記念すべき1stアルバムから。ちなみに、特撮のメンバーは(vo)、NARASAKI(gt)、三柴里(kry)、ARIMATSU(dr)です。

1.アベルカイン

 猫猫猫猫犬犬犬犬猫猫猫猫犬犬犬犬。どっちを選べど獣のように生きていくだけ。

 初っ端のアベルカイン。ざっといえば、犬と猫を選んで迷ってしまう優柔不断の人間を弾劾している楽曲です。なんで犬と猫を選んだか。それが特撮、大槻ケンヂのセンスなのです。といいつつ、私もなぜ犬とか猫かは分かりません。この真面目のようでふざけているようで核心をついているかよく分からない歌詞は、特撮の一つの魅力だと思います。
 サビでは「猫猫猫猫犬犬犬犬猫猫猫猫犬犬犬犬」のこれがシャウトまじりの勢いで歌われていて、サウンドは疾走感のあるバンドサウンドになっています。後半のピアノ間奏からサビへの流れはなんとなしにカッコいいです。ま演奏力というかバンドの体力はさすがのベテラン勢です。オープニングに相応しい勢いのある楽曲です。
 

2.身代わりマリー

 このアルバムでも好きな曲ですね。テクニカルなイントロから雰囲気がガラッと変わって、「マリー」の身代わりの枷に囚われた人生を、過去の文学者の人生になぞらえて歌っています。サビでは一転してぽっぷなメロディー。なかなか王道に聞ける楽曲ではないでしょうかね。
 しかし、この曲の歌詞もこれと言うのが難しいです。真面目なのか冗談のなのか。僕らの身代わりになっているマリーを慈しもう、という内容です。が、それを抽象的な概念と取るか、実際の人物の比喩と取るか。うーん。分からない。よく分からないのですが心を打たれるような切実さがあるのです。


3.キャラメル

 プログレッシブ。まず、耳に飛び込んでくるのは、ドラムが叩きだしている強烈なビート、そしてギターのデスなバッキングが炸裂。歌詞は暗号。2分にも満たずに終わります。ゆるーくセッションをしているような、そんな風に楽しんで演奏しているようです。キャラメルが溶けてしまう熱量。箸休めのような遊び曲ですね。


4.文豪ボースカ


 レゲエ。あのレゲエです。いきなり「ぬぐるみに小説を書かせる」とかどうとかの一人語りから始まり、イントロではハードロックを奏でていますが。中盤からはどう聞いてもレゲエのリズムになります。ダブではないです。レゲエです。なにこれ。遊びすぎでしょう―、と思っていたら、重厚なギターサウンドがさいど闖入してきて、プログレッシブと形容せざるえないほどの趣旨の楽曲になっています。面白いですね。遊び心がつまってる。

 歌詞もレゲエです。ヌイグルミのボースカに小説を書かせて、当の自分はハワイに遊びに行く。でも、ボースカの才能に嫉妬して、我慢ならなくなったオーケンがボースカを殺しにいって捕まる、という破天荒な詞世界。終盤では、小説論について語っていますがいまいち分からないです。ともかく楽しみましょう。


5.ピアノ・ デス・ピアノ


 キラーチューン。アルバムの中盤に位置しており、アルバムの核になっている楽曲です。ピアノを含めた楽器隊がきれっきれに演奏しています。「ピアノ・デス・ピアノ」というタイトルだけあってピアノは突出して暴れまくっていますね。
 しかし、サビでは空気ががらっと一転して、オーケンではなくNARASAKIの繊細な美声が響いてきます。ふわわー、というかんじの浮遊感です。たとえるならば、マッチョに天使の羽が生えたような。あんなに暑苦しかったメロを一瞬でふわふわにしてくれるサビ。このギャップがおもしろいですね。先ほどのレゲエとハードロックも面白いですが、こっちは面白さだけにとどまらずに爽快感もあるような。


6.美少年で探偵でS



 これまたプログレッシブです。なんというかなんていうか。この楽曲で言いたいこととやりたいことがよく分からないです(笑) ひたすらふざけ倒している印象です。しかし、前々から語っていますが、ふざけているようで真面目でもありますから油断はならないのです。でも、これはさすがに遊んでいるはず。
 ピアノのフリーキーな音色が曲全体を引き締めるように先導しています。ギターが抑えられてその分だけピアノが目立っていますね。間奏ではサックスやフルートまで登場します。このパートだけやたらと渋い。17世紀の西洋の路地裏のような雰囲気です。

7.13階の女


 えー戸惑いを隠しきれません。これまでの遊んでいる雰囲気がこの楽曲ではまったく消えます。自殺をくいとめられてしまう女性がテーマの楽曲です。なぜこのアルバムにこの曲をいれた、と詰問したくなるほど切実な思いがつまっています。このテーマにはそう簡単に語りきれない含意があります。
 ピアノが奏でるメロディーが切ないバラ―ドです。騙されきた彼女が13階から飛び降りようと決意するが、結局は口車に騙されて自殺することすら叶わない。含意があるシリアスなテーマです。しかし、そこまでシリアスな雰囲気というわけではないです。テーマに対しての楽曲の穏やかさからは、深い絶望などではなく、どうしようもできない切なさを感じ取ってしまいます。

 なんでこの楽曲をこのタイミングで入れたのかを考えても答えがでなかった。

8.マリリン・マラソン


 「世界中のクズを集めたマリリン・マラソン。優勝者以外はみんなびりだー」という冒頭の説明文しかり語り。え。さっきのシリアスな雰囲気は完全に消失しました。なんというか、プログレッシブなのは楽曲だけではなくアルバム自体もそのようです。
 しかし、この曲は評価しにくい。サビというサビはなく、終盤ではエッジのきいたピアノをバックに「走れ はっはっ 走れ 走れ はっはっ」とぼそりとつぶやいています。それが1分以上も続いてからフェードアウトして終わります。もー訳が分からないよ。

9.ピアノ・デス・ピアノ 愛のテーマ


 ここにきてインスト曲。演奏力に裏打ちされた彼のサウンドは、やはり歌を抜きにして聞かせてくれます。重々しいギターサウンドパートとピアノを主体とするアンビエント(浮遊感のある)なパートからなっています。絶妙なタイミングで切り替えてきます。
 で、つぎの名曲「テレパシー」につながります。


10.テレパシー


 名曲です。このアルバムの中で最もまともな曲ではないでしょうか。(失礼)特撮の楽曲には遊んでいるものが(に見えてじつは深いかもしれないようで遊んでいる)多いですが、「13階の女」「テレパシー」のような真摯なテーマの楽曲を作らせると、悔しいながら心を震わせるような楽曲を聞かせてくれるのです。
 
 「テレパシーがつながって欲しい」という希望があって。しかし、これは叶えられることはなくて。そうやって諦めかけたときテレパシーがつながる。という一連の流れが表現されています。具体的には「途切れて」という歌詞の二回目のあとで「途切れないわ」と掛け声が聞こえてきます。テレパシーがつながってからは一段と盛り上がりを見せる展開も好きですね。
 
 そもそもメロディーがいいですね。一発で感情を響かせるメロディーです。これまで遊んでいる分だけ心に沁み込んでくる気がします。こういう一辺倒にならないのが特撮のいいところです。

11.SM作家

 きりきりと鳴る不穏なギターバンドサウンドのイントロから始まります。序盤は王道のハードロック。しかし、終盤でオーケンが語り始めます。語りすぎです。その内容は、これまでの楽曲である「身代わりマリー」についての言及を中心していて、あの子たちふざけているわねと私が言っていたアルバム曲の世界観が見事につながってきます。作品と作品をつなげる結節点のような楽曲ですね。

 しかし、繋がっているといっても、カチッと当てはまって歯車が動き出すようなものではないです。なんとなくあー同じ言葉だー、というゆったりとした一致です。まあ王道のバンドサウンドはかっこいいです。とくにギターの刻みがたまらないですね。



12.特撮のテーマ

 
 ラストだから盛り上がっていこうぜ、と2分30秒にも満たない楽曲の中で、「特撮 特撮」ばかり叫んでいるボーカルをはじめとして、楽器隊もとことん暴れています。悪ノリがいきすぎたのか途中では動物のまねをした叫び声すら聞こえてきて。プログレシッブ、という形容詞がひじょうにお似合いです。楽しんでいるのが伝わってきますね。特撮!


13.アベルカイン~かわいいヴァ―ジョン~

 かわいいです。犬犬猫猫がイカイカタコタコなどになっています。やっぱりなんでもよかったんか!


いじょ。


 ところどころで「ふざけている」といった言葉を書きました。もちろん私は褒め言葉として使っています。このアルバムはオーケンをはじめとして特撮のメンバーが楽しくふざけている様子をうかがえました。
 しかし、中にはテレパシーや身代わりマリーや13階の女などの切実な楽曲もあります。特撮はそういうバンドです。真面目なのかふざけているのかよく分からないような。このよー分からない面白さが魅力ですね。もう本当にどっちなんだか。おススメはできません(爆)