単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

Syrup16gの曲レビューその13「夢」


 夢 夢叶えてしまった

 

 夢のつづきは幸せなのだろうか。ハッピーエンドのその先にはなにが待っているのか。その先にたどり着いてしまったとき何が見えるのか。Syrup16gの曲レビューその13「夢」


 一体どんな精神状態で作ったのだろうか。そう思ってしまうほどに、自己嫌悪とか後悔とかが立ちこもっているような情感があり、まさに落ち込んで自暴自棄になって叫びたくなる瞬間を捉えたような感じ。さらに、それすら自分で自制してしまって、衝動が去って悲しみだけが残ってしまったようでもある。といったように、これまでの「絶望ゆえの希望」すら感じられないほどに、ひたすら後向きである後悔や悔恨の嘆きが聞こえてくる。その重さはもう衝撃でした。


 これまでの全曲レビューではあまり触れていなかったけど、syrup16gサウンド自体が非常に重いときがある。この「夢」は、ノイズ交じりの切なげなギターサウンドと、淡々としたベースラインと後ノリのドラムによって、重たいグルーブ感が生み出されている。そこに爪弾かれるアコースティックギターは、爽やかさではなくてむしろすさんでいるような効果があって、そして決定的なのはサビであまり盛り上がらないこと。むしろ、後悔といって情念が増していくような感じすらあります。詞の説得力はこういったサウンドに支えられているのは間違いないでしょうね。



 それと、歌。もうこの夢に限っては上手いとか下手とかピッチがどうとかではないんです。歌に感情を乗せるという言葉がありますが、五十嵐隆の場合だと感情が歌になっているのではないかと思う。メッセージ性などの言葉でまとめられるものではなくて、苦しいときに自分の心の奥底に手を突っ込んで抜き取った感情、それが詞になっているから歌でもあり嘆きでもあるような歌になってしまった。そんなことを思いました。





 そんな歌で何を伝えたかっったのだろう。何がこぼれたのだろう。夢を叶えてしまった、と。私は夢を叶えたことはないですが、夢を叶えてそこで空っぽになってしまう気持ちは分かる気がする。夢というスケールな大きなものではなくて、ちょっとした目標や願いがひょんとしたことで叶って、それは嬉しいけれどしばらくしたら空しさに変わる。そして、新たな願望が生じて、それを成し遂げてまた空しくなる。そうやって繰り返して、ふとした時に振り返ると、急に醒めて自己嫌悪に陥ってしまう。でも、願望ならまだその先があるからいいんですよね。それがもし夢だったら、もうその先がないわけで。叶えてしまったのはいいけどこれからどうするんだ。と、これまでの興奮が吹き飛んで胸が詰まる。だから、また夢を持とうとするのだけど、そんなもん幻想だろうともう夢中にはなれなくなってしまう。

 
 
  本気でいらないんだ
  幸せはヤバいんだ


 
 幸せというのは状態だから、不幸があるからこそ成り立つ。だから、いま手にしている幸せもいつか手放すことになる。その不幸を考えるとこれまでよりもっと苦しくなる。いや、幸せを守ればいいんだよって意見もあるけど、臆病な人間はその先を考えて立ち止まってしまう。夢を叶えて、幸せを手にして、でもそれはそのうち終わる。



 この歌のどこが悲しいかというと、そんな風に考えてしまう心情そのものだと思いました。臆病な人間にとっては幸せすら怖い。初めから手にしなければよかった、と失くす前にもう後悔してしまうような繊細な心を持っていることが悲しい。痛いくらい分かるっていいたけど実際はどうなんだろう。これだけの感情を抱えているかは分かりません。私にとってどういう曲かは未だに定まりませんね。凄い曲だってのは確かにあって。分かるよという気持ちもあるけど、これは五十嵐隆の歌だから簡単に分かってはいけない気もして。とりあえずはこんな感じです。トラウマ的に好きですね。