単行のカナリア

感じて想する

THE BACK HORN名曲レビュー「いつものドアを」


 THE BACK HORN二度目の武道館ライブまでいよいよあともう少し。来たる日に期待しつつ、リヴスコールの中でも個人的にかなりお気に入りの「いつものドアを」をレビューします。

 
 祝祭的な作品「リヴスコール」のなかで、異彩を放っているのが「いつものドアを」。


 「いっそ殺してくれないか。」

 悲しい歌声。「いっそ殺してくれないか」に凝縮されている、不安を叫ぶ山田将司の嘆きは否が応にも心を揺さぶってきます。不安にさい悩まされ恐怖に疲れて果てたときのやりきれなさが伝わってくる。「無いものねだりばかりで全てを失くしてしまった」から、本当にもうどうしようもないというわけで。
 
 やっぱり、この曲は歌がいいんですよね。ラストに向けて感情を爆発させながら、ラストでは感情を抑えて歌い切る流れと、サビでの感情が溢れそうな歌声、「いっそ殺してくれないか」の叫びは本当にグッときます。山田将司の独壇場のような曲。 


 ボーカルに焦点を絞るように、バンドサウンドはサポートに徹して静謐な空間を作り上げて、そこに山田将司の圧巻のボーカルが響きわたるといった感じ。といっても、叙情的なギターソロと、そのあとにギターノイズを混ぜたりするアクセントはあって、控えめながらも聞きごたえがあるサウンドです。



 「いつものドアを開けるのはこれほど怖いことだとは」  


 災難や苦難があった後には、見慣れた光景が一変して恐いものになってしまうことがあります。「いつものドアを開ける」ことさえ怖いという状況は、何かが決定的に変わってしまったことの表れで、それはもう大変につらい。また、その不安の象徴として登場するのが「咳の音」。疲れ果ててしまった人々をイメージさせる言葉で、おそらくは震災時の光景を指しているのでしょう。

 「何度も咳き込む音だけがずっとこの世界の片隅でカラカラと響いた」という歌詞は容易にその光景をイメージできますからね。そして、それらの不安の限界して「いっそ殺してくれないか」と強烈な言葉が出てきます。ここまで踏み込んだのは私は素晴らしいと感じました。

 
 さらに「いつものドアの向こうには穏やかに陽だまりが揺れるだけ」と、いつものドアの向こうにはそんなに怖いものではないんだよ、と歌うわけです。


 「我儘はあなたの分だよ」と優しくささやく一方で、「いっそ殺してくれないか」と切なく叫ぶ。当事者のようでもあり、保護者のようでもあり、どっちつかずの立場を巧みに歌い分けている。不安を嘆いて、不安を慰める。というのが「いつものドアを」の特徴で、背中を押すのではなくて、寄り添ってくれる曲。

 怖いと歌いながら、怖がってもいいけど、怖がることでもないとも歌う。なんというか、とっても優しい曲だと思いました。共感と祝福を同時に込めている印象ですね。そういう意味では、リヴスコールに相応しい一曲なのかもしれません。


 「幸せを捕まえたその拳で傷つけて

 幸せを手放したその手のひらで受け止めて
 
 我儘はあなたの分だよ

 我慢したあなたの分だよ


 この歌詞は素直にいいと感じた表現でした。上手いというより、素敵な表現ですね。
 こういった詩の良さ、サウンドの心地良さも勿論ありますが、強調しているように「いつものドアを」は山田将司の歌声が何よりの魅力になっている気がしますね。すでに一度ライブで聞く機会がありましたが、それはもうがっしりと心を鷲掴みされましたから。


====

歌詞

いつものドアを開けるのが
これほど怖いことだとは
深い海の底みたいな夜が続いて
橙の電灯が遠くなってゆく
 
幸せを捕まえたその拳で傷つけて
幸せを手放したその手のひらで受け止めて
 
我儘はあなたの分だよ
我慢したあなたの分だよ
何度も咳き込む音だけがずっと
この世界の片隅でカラカラと響いた
 
幸せを捕まえたその拳で傷つけて
幸せを手放したその手のひらで受け止めて

失ったその瞬間に愛しくなる そのくり返し
無いものねだりばかりで全てを失くしてまった
 
あなたの咳の音
その咳と咳の間の沈黙に耐え切れず僕は震えてる
この世の外側に無限の外側に落っこちる感じ
いっそ殺してくれないか
 
いつだって冷え切った僕の手を包み込んだ
あなたのその手のひらはやわらかであたたかくて
失ったその瞬間に愛しくなる そのくり返し
無いものねだりばかりで全てを失くしてしまった

いつものドアの向こうには
穏やかに陽だまりが揺れるだけ