単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

絶望の唄  「虫の夢死と無死の虫」 COCK ROACH


 THE BACK HORNの盟友、COCK ROACHのアルバムレビュー。
 今回は、大のお気に入りのアルバム「虫と夢死と無死の虫」

虫の夢死と無死の虫
虫の夢死と無死の虫



 呪術的なボーカルと、ヘヴィなサウンドが特徴的。静かなアルペジオが爪弾かれたり、轟音のギターサウンドであったりするものの、そもそもの音色はシンプルであり、メロディーはあんがい小気味よく聞けます。


 なにかが突出しているというわけでなく、なにもかもが「虫と夢死と無死の虫」という世界を構築するために機能しているようで、その世界は虫を灯にして精神世界をどこまでも潜っていくといったもの。そして、そこに引きずりこもうとする求心力は相当なものです。オープニングの「虫の夢死」とラストの「無死の虫」が同一のサウンドとなっている仕掛けがあり、聴き終えたのに始まっていくような感覚もこれまたグッとくきます。

 
 若くして制作されたということもあり、ボーカルやアンサンブルに荒削りな部分もありますが、アルバムに通底するコンセプトは練り上げられていて強固です。というか、創造されたコンセプトに隙がないからこそ、演奏面での荒さによって生々しさがプラスされて、さらに強度が高まっていくといった感じです。

 

 端的にいえば、嘆くような呻くような一癖あるボーカル、純粋で静謐なメロディーと重厚なギターサウンドがフックとなっています。しかし、やはり全体としての音楽が凄いのがCOCK ROACHのアルバムだとおもっていて、詩、構成、サウンドすべてを含めてのアルバムそのものこそ、といいたくなりますね。


 これほどの重厚なコンセンプトを持っていながら、さくっと聴かせてしまうのもまたすごいかと。
 あくまで私がそうなんですが、すごい密度で移りゆく世界に付いていくことができないから、イメージをそのまま脳に反映させてしまうといった感じです。詞としっかり向き合って噛みしめるといった聞き方ではなくて、ただ曲が頭の中に流れていくのを受け入れるといった聞き方で、それでどこまでも落ちていけるという感覚を味わえるのがたまりません。


 例えば、「触覚」では魂が飛んでいくような浮遊感を感じたり、「蝶が一匹」では蝶の軽やかさとか細しさを感じたり、「赤道歩行」では見もしたことがない国の情緒を感じたり、「鴉葬」では死の臭いを感じたり。シンプルな曲であるのにふつふつとイメージが沸いてきます。これを成し遂げるものを表現力というのか、演出というのはか分かりませんが、いずれせよ曲に濃厚な世界が広がっています。


 小さな虫たちが詩の中に散りばめられて、彼らの死に様、生き様が情緒豊かに広がっていく。死生観が色濃く反映された詞でありながらも、その死生観は特定の色を持たずに、あくまで虫達の物語として淡々と紡がれている。内省的な世界を外側から描写していながら、どこまでも深淵にたどり着こうとして潜っていくというアンバランスさもある。不思議なアルバムです。


 濃厚な作品に対して「短編小説のような」という形容がありますが、この「虫と夢死と無死の虫」を形容するならば永遠に見つづける夢のような作品です。タイトルから想起されるような世界がとんでもない密度で完成されています。どこからこんなイメージを引っ張り出してきたのやら、あまり慣れない感性にいろいろと驚かされます。こういう作品って経験を積んだり技術があれば作れるとかいうもんじゃなくて、ひとえにを創造してやろうという執着の果てに完成される作品なのかな、とおもったりしますね。