単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

THE BACK HORN名曲レビューその28「シリウス」


  THE BACK HORN全曲レビューその28「シリウス」 

 無力感に寄り添ったのが前作の「世界中に花束を」であるならば、無力感から救い出そうとするのが今作の「シリウス」。

 切実なテーマにとことん向き合う覚悟と、厳しい現実から目を離さない意思と、ビルドアップされた演奏群の力強さ。現実、葛藤を経たうえでそれでも踏み出そうと、とにかく熱が滾っている作品です。「世界中の花束を」につづいて決意表明のごとく、彼らにとって決定打となる作品でもあるとおもいますね。

  
 一言でいえば、THE BACK HORNというバンドのたくましさが見事に体現化したような印象。
 この作品は位置づけとしても重要であることにはまちがいなく、そのうえで「シリウス」という頼もしい作品が仕上がったのはファンとしては嬉しいです。それほどに満足がいったできでした。
 

 率直に「つながりを大切にしよう」と普遍的なメッセージが込められています。ラストの「命は一人じゃ生かしきれない」という詩はその最たるもので、葛藤の果ての答えとしてダイレクトに心に沁みる詩です。「生きられない」ではなくて「生かしきれない」と押し付けがましくないのも好きです。

 そして「あるのは生命が灯す光だ」という詩もまたグッときますね。
 光が焼き焦がすといった前向きな希望にも暴力性が潜んでいることは、前作の「世界中に花束を」で強調されていたとおもうのですが、今作ではそれに対して「生身の生命が灯す光」と優しい希望を歌っています。その希望だけは見失うことはなく、傷つけられることもない、そんな確かな思いを感じます。人間という光が、人間にとってもっとも頼りになる光なのだと。


 一方で、「誰もが自らの想いはごまかせない」、「告げたサヨナラは数えればきりがなくて」、「決断を迫られて俺達は変わってく」、「いつも笑ってた人たちの怒鳴る声」と、厳しさを眼前に見据えているのがメッセージの頼もしい部分ですね。その表現の仕方もこれまた見事で。

 それらすべてを飲みこんだうえで、「あるのは生身の生命が灯す光」であって、「命は一人じゃ生かしきれない」といった詩につながります。励まそうとか導こうとかそういうことではなくて、バンドそのものが歩みだそうする力強さに触れることで、こっちも活力をもらえるような曲。
 

 
 で、そんな優しいメッセージを重厚なサウンドでパッケージするのがTHE BACK HORNらしいと。ライブ感のある肉体的なアンサンブルに、キメが多く変則的なフレーズが飛び出すテクニックを織り交ぜつつ、山田将司のキリキリとした歌声がストレートに響いてくる。シンプルにロックバンドとしてのポテンシャルを存分に出し尽くした、集大成のような仕上がりだと感じます。いやーマジでカッコいい。ラストの歌い上げる様には何度聞いても込みあげてくるものがありますね。当然のようにライブでの盛り上がりは半端ないです。

 
 この曲ほどTHE BACK HORNが頼もしいと感じたことはないですね。
 バンドを代表する新たなアンセムと呼んでもいい出来だとおもいます。