単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

THE BACK HORN「暁のファンファーレ」を聞いた

 
 「バトルイマ」でTHE BACK HORNから遠ざかり始めて、つぎの「シンメトリー/コワレモノ」でついにシングルを見送った(8年前にファンなって以来初)おれの感想です。長いから先に結論を書くといいと思っています。 

 今作の「暁のファンファーレ」はシングル曲よりアルバム曲のほうが総じて好きかもしれない。そんくらいアルバムの曲がいい。一曲目からまったくすばらしいロッカバラードの「月光」、COCK ROACHのファンも飛びつきそうな「幻日」がまずある。この二曲だけでもそれなりに買う価値はあると思われる。さらに他の曲も総じてメロディーとギターがよろしい。前作、前々作と比較すれば、メロディーの出来は格段に上がっている。そしてアルバム曲がいいおかげでシングル曲もいいフックになっていてアルバム全体としてまとまっている。と思う。シングル曲で脱落したあなたもこのアルバムでは復活できるかもしれない。
 
 インタビューでも語られていたように、本当にメロディーがよろしい。一曲目の「月光」からもうすでに英詩があってそこの部分のメロディーがすばらしい。スタンヴェアイミィーって発音はともかく、メロディーがいいのだ。俺は「パルス」が大好きなんだけど、あのアルバムは何よりメロディーの質が総じて高かったという評価をしていて、この作品も共通していいメロディーばかりだと思う。サウンドの多様性はメタルやポストロックの様相があった「アサイラム」に劣るが、っていうか今作はJ-POPの範疇に収まるようなサウンドプロダクションになっているが、その分兎に角メロディーが良くなっている。メロディーがよくないって意見も多いけど、おれは好き。

 その理由となるのが、前作はボーカルが格段に幅が広がったと思って、今作で格段にギターが伸びたからじゃないかと思う。ベースよりもギターがやまかしいほうが好きな俺にはたまらない曲が多い。ギターのサウンドプロダクションに注視すれば、歪ませ方一つにも多様なアレンジを施しているのが分かる。ギターの音色の変化だけでなく、アプローチ方法も多様で、小技を利かしてタッピングでピロピロしたりもしている。おれはベースが主体ってのがあんまり好みではなかったから今作のギターが印象的なサウンドは大歓迎だ。菅波栄純のギタリストとしての成長が、今作のすばらしいメロディーの魅力に貢献していると思った。

 
 勿論、リズム隊のグルーブ感が主役の「シェイク」「バトルイマ」「コワレモノ」なんてのもある。「シェイク」なんてのはタイトル通りにリズム隊が掻きまわして、間奏でバカテクスラップを披露してくれている。ベース好きにもたまらないと思うし。んで、ラップでもないし朗読でもない山田歌唱法ミクスチャーが炸裂している。主張が強すぎる山田将司の歌詞(彼がインタビューで医療批判をしてインタビュワーが困ってた)に、このミクスチャーがしっくりくる。「バトルイマ」で萌芽して「エンドレスイマジン」で開花した、山田将司流ミクスチャーのアクの強さはTHE BACK HORNの新しい特徴になってもおかしくない。この路線はわりと好きだったりする。もっと過激に展開してくれればなおいい。マック赤○とか内○聡みたいに精神薬が~とか言いださなければ遠慮なくやっていってほしい。

 マニアックなファンへのサービス曲、「幻日」。これにはやられた。無限マイナスもやっていない、カニバリズム・カーニバルだ。雨乞いが頭に浮かぶハンドクラップと気味悪いコーラスの時点でポイントが高いのだが、それに加えて直線的なギターロックに回帰するサビによってさらに不気味さを増していると思う。メロとサビが印象が乖離しているから不思議な感覚になる。宗教歌か、熱血のギターロックか。コーラスの気味悪さは過去最高レベルだし、振れ幅がおもしろいし、別に「幻日」がアルバムで異質ってわけでもない。そこらへんは懐が深いアルバムに仕上がっているってことだろう。こういうの、まさしくTHE BACK HORNの魅力って気がした。
 

 というように色々と褒めてきたし、素直にいいアルバムだと思うが、歌詞に関してはおれには受け取れるものがまったくなかった。まったく。インタビューでメンバーが絶賛していた「ホログラフ」もいまいちピンとこない。誤解を恐れていえば、家庭を持った人間が作りそうな曲が大半を占めている。性愛や憧憬、鼓舞などのキラキラした物。これまでの「泥だらけでも」生きていこうから、「泥だらけ」が丸ごと落ちた感じ。まあでもそれが悪いってわけじゃないし、背中を押されても崖の淵に立っているおれにはありがたくないだけの話。ただ面白いと感じた歌詞はあって、山田将司作の主義・主張で糊塗されている歌詞は予想外だった。ってもうすでに書いているが。

 おれはいい音を聞かせてくれるロックバンドとしてのTHE BACK HORNに期待して買ったのだから、今作は一曲一曲のメロディーがいいしギターサウンドの純度が跳ねあがっているので、評価は「いい」だ。お金がないのでライブを見送ることになるが、この出来ならライブにも参加したかったし、また聞きたくなるであろう曲がたくさん詰まっている。歌詞は一つの要素に過ぎないのだから、その魅力がなくても(おれには)今作はいいアルバムだと感じた。


 総評は、いいアルバムだと思う。歌詞やメッセージはおれにはよく分からないが、素直にいいと思える曲が多かった。これがすべて。パルスが陽性化したらこんなアルバムになるんじゃないかって感じ。リヴスコールより遥かに好きだ。一曲目が抜群にいい。これがかなり大きい。「リヴスコール」はもうほとんど聞いてないけれど、今作はそれなりに長い付き合いになると予感している。「暁のファンファーレ」のファンファーレ要素を完全無視したおれでもこう褒めているので、ファンファーレが響く人にとってはもっといい感じになるんではないだろうか。素直に応援すればいいんだろうけど、こじらせてしまってるからこんな感じの感想になってしまう。