Syrup16g全曲レビュー「My Love's Sold」

 

coup d'Etat

coup d'Etat

 


  Syrup16g全曲レビュー「My Love's Sold」。メジャー1枚目のアルバム「coup d'Etat」の1曲目(再発盤では2曲目)の今作は、いってみれば船出の歌。はたまた入水の儀。インディーズからメジャーに移籍し、躍進の予感が僕らを待っている、さあここからが新たな始まりだ……といえる記念すべきオープニングナンバーになります。 

 で、さっそく「My Love's Sold」を聞いてみると、重々しくざらついたアルペジオが鳴っている。そして歌われている言葉に耳をすませば 就航後、すぐに船は嵐で沈没している。

環境と関係性と感情の海で
沈むよ嵐の船 箱の船

 とまあ、イントロのアルペジオのダウナーなコード感から察すられるように、「My Love's Sold」は記念すべき船出に祝いの花を贈るような雰囲気はまったく、バンドの躍進にともなって環境の変化がもたらしたのが、むしろ自身への葛藤や苦悩を浮き彫りにしてしまうことだった。

 ああ、これがsyrup16gなんだよなと納得し、楽曲内では内心のクーデターは狂騒状態へ突入する。

始まってもないぜ 言い訳好きだねえ
もうだってさ信じてないもん 本当の自分なんてもんをねぇ

 と挙句の果てに、まだスタートラインにすら立っておらず、その手前で言い訳に終始して立ち止まっているかのように歌う。マスタリングによりバンドサウンドの殺傷力はより鋭利により暴力的にブラッシュアップされているおかげで、その臨戦状態の内面がますますもって臨場感をもって表現されています。
 さらに、

 明日なんか適当さ
 安心感なんて敵だろう

 かつて「翌日」や「明日を落としても」で万感の思いをこめて歌っていた明日という概念を、「My Love's Sold」では「明日なんか適当さ」の一言で吐いて捨ててしまっています。

 人混みに染まって諦めないほうが奇跡にもっと近づくような日々が、ここにきて、感情という嵐のどうしようもなさに翻弄され、さらには我慢を切らした内心のクーデターによって混乱の日々と化している。

 というかんじで、「My Love's Sold」はアルバムタイトル「coup d'Etat」の名に恥じない反逆っぷりがうかがえます。そもそもタイトルの「My Love's Sold」の時点で愛を売り払った宣言をしているし。これがメジャーアルバムの記念すべき1曲目なんですよ。メジャーになり流通していくなかで、一曲目に何を聞かせるかで選んだのがこれ。素敵。
 
 歌詞の不穏さに呼応するように、アルペジオの重々しい調べにタイトなリズムが加わり、重心が低いビートを基調としたバンドのダイナミズムが卓越している。「coup d'Etat」全曲に共通するのがギターサウンドの濃密さで、シューゲイザーに接近しているギターサウンドはとにかく心地よい。が、詞は悲哀の色を帯びているから、とても心地よく物悲しい気分に浸ってしまう。

 「My Love's Sold」はイントロの鳴りからすでに虜になりますね。サビ前の感情を叩きつけるがごとくバンド一体での轟音パートが、これまたメロやサビとコントラストを生みだすいいアクセントになっているし、ライブで聞いたときは「はじまったな」と嬉しくなった。

一応臨戦状態です
生きていたいと思ったんです
一応臨戦状態です
好きなようにやるだけです


 臨戦状態という言葉はけっして軽くはなくて、「My Love's Sold」からは「俺たちはこれで生きのびていく」と背水の覚悟が伝わってきます。「あんま聞いてないね」「もうだってさ訳解らないもん」と明け透けな姿勢を崩すことなく、かつ「愛されたいなんてという名の幻想を消去して」「もうだってさ信じていないもん 本当の自分なんてもんをねえ」「安心感なんて敵だろう」とありきたりな通念に屈することはない。

 「My Love's Sold」、「これがsyrup16gなんだよ」と言いたくなるような、歌詞やバンドサウンド含めて彼らの魅力が詰まっています。いわば決意表明の曲なのに「よく分かんねえから好きなようにやるだけ」ってとこ、確かに覚悟を決めてはいるものの決め方が歪んでいるのだって、これがSyrup16gなんだよなーとつくづく感じられる。頼もしいし、信用ができる。

 想像してみてください。

 ラジオで、パーソナリティが「ここで1曲! Syrup16gの記念すべきメジャーデビューアルバムから、そのオープニングナンバーになる「My Love's Sold」をどうぞ!」とした喜々としたテンションで紹介すると、あのアルペジオが鳴り響いて「沈むよ嵐の船 箱の船」と五十嵐隆の歌が聞こえてきたらそんなんもう最高じゃないでしょうか。