単行のカナリア

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Syrup16gの曲レビュー「天才」


 Syrup16gの曲レビュー「天才」

 Syrup16gの曲、思い入れがありすぎて聞いていると冷静でいられくなって、過去の思い出と密接に絡みすぎて言葉で切り離せない曲があるんだけど、「天才」もまさにそれ。かつて「炭鉱のカナリア」というブログタイトルで、このとき勝手にテーマソングにしていたのが「天才」だった。天才の「ヤバい空気察知する能力オンリーで生き延びた」の歌詞がまさに自分の生き方そのもので符号の一致っぷりに驚いた。よく考えてみると私に「天才だった頃」は特になかったからただの思い違いだった。

 それにしたってギターかっこよすぎる。硬質なオルタナティブロックサウンド、とだけなら他のバンドでもそうで、さらにキメを多用しダイナミックに展開しクソかっこいいギターソロ(かっこよすぎて本人がライブで弾けないこともある)もある、と含めてそう特殊でもなさそうだけど、特殊かつ異常。勇気があれば邦楽ロックシーンにおいてと言いたいが、ないから私にとって。緊張感、神経質な音とかすかな苛立ち。あとやるせなさと耳をつんざく音像。暴力性と孤独。Syrup16gニューウェーヴに影響を受けて~って語られることがあって、私はcoup d’Etatのなかでも天才のバンドサウンドが好きでそういうのないかなーって聞き漁ったことあったんだけど見つからなかった。というか、天才を聞けばいいのだ。そこにあるから。天才、あまりにもかっこよすぎる。

 レビューするときはコードとかよく分からないから、大体歌詞に注目してしまうんだけど天才はもうバンドサウンドの魅力を強調したい。している。歌詞もいい。さらに音もめちゃくちゃいい。多用されるキメ、いわば「バンドのすべてが一音に集約される」瞬間の心地よさ、イントロでギター単音に切り込むように入ってくる圧巻のドラミング、で遠くで聞こえるカウント音。最初から最後まで一瞬たりとも硬度をうしなわない。ジャジャジャーンのギターストロークのあとの1カウントの瞬間。聞けば聞くほど新たに魅力を見つけてしまう。絶叫まで含めてかっこいい。皿に乗った宇宙人がやってきて「カッコいいギターサウンドを教えないとお前たちを滅ぼす」ってなったときは、私はSyrup16gの「天才」を聞かせるつもり。宇宙人もチェインソー振ってノリノリになること違いない。

 で、間奏に入るわけ。ギターによるコール&レスポンスみたいなセルフ残響音のあと、もうそこから最高のギターソロが来るのを知っているから、「来る……来る……」と待機状態、でダダッダダッのあとに満を持してギュイーンって色気と殺気を搭載したギターソロが鳴り響く。それでフィードバックノイズを残して一旦クールダウンしてからまた加速して、小休止のち、キメとオイのシャウトへ、そこからまたギターソロ。終始、息つく暇がない。終わった後に「やべえ……」とつぶやいてまたリピートする。

 「幽体離脱」が引き算の美学だったら「天才」は過剰の美学。ギターがうるさいし、ドラムもうるさい。ベースは控えめで、だからこそギリギリのバランスが成り立っている。つまりはかっこいい。イントロのタム回し、サビでスネアとハイハットの連打を切り替えて前に倒れんばかりの尖ったグルーブ感を生みだす。高音域を強調されているか爆音で聞くと耳がキンキンするんだけどそれがまったく不快じゃない。心地よいとはいわないしむしろ聞いていて体力消耗するけれど、それはもうバンドサウンドに快楽神経を発火させられて脳が断続的に呼応してしまうから。冴えまくってる音。

 しかもアルバムで通して聞くときは、SE感ある「virgin suicide」の次にあるから「天才」を聞いていると脳がライブハウス化する。4分44秒のオンステージ。はたしてキメはちゃんと揃うのか、ギターソロをちゃんと弾くことができるのか、なんて心配はいらずいつ聞いてもキメのタイミングは完璧でギターソロは一音だってズレることはない。完璧な調和、失念と暴力を形にする音像。正直なところ、「天才」だけはサウンドの破壊力の前に詞がぼやけてしまう、というかこのサウンドに載せればオヤジギャグを並べ立ても名曲になるだろってさすがにそれはないけどそんな感じ。

 それくらいにかっこいいんだよ。レビューを書きながらずっと天才を聞いていたけどクタクタになった。聞くほうにも体力と覚悟を要求される。しかし覚悟を決めてその要求を受け入れた先には、最高のバンドサウンドの煌めきが待っている。ありもしなかった天才だった頃に思いを馳せる曲だけれど、こんな曲作れるなんてあんた現役の天才だろうにという野暮な言葉はしまって、天才を十全に聞きつづけたい。