単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

詐欺の日。syrup16g Tour 2019 【SCAM : SPAM@大阪BIG CAT 2019.10.25


 syrup16gのライブに行ってきました。参加したのは、syrup16g Tour 2019【SCAM : SPAM】、大阪BIGCAT講演の【SCAM】。不注意によって二日目のチケットは入手失敗したので参加したのはこの日のみ。

 まだセトリを知らない人は知らない方が楽しめるのかもしれないので読まない方がいいかも。ただもし運悪く知ってしまったとしてもあらかじめ幸福な瞬間が訪れるのは約束されているから安心してほしい。

  
 ライブ、予想だにしていなかった選曲と圧巻のパフォーマンスに打ちのめされ笑顔になり、アンコールに出てきた五十嵐隆の嬉しそうなダブルピースを目にしてさらに笑顔になりました。

 syrup16gの曲は、ありていにいえば悲哀や苦痛が綴られている曲が多いものの(この日のセットリストもそういった曲が多かった)、ライブで耳にすると(目にすると)それらの感覚の追認にとどまることはなく、演奏と会場の雰囲気に当てられて「楽しい」と「嬉しい」までが発生します。

 
 思い出深いのが、MCで五十嵐隆が「得難い体験をさせてもらって、さらにお金をいただいて(お金を受けとるポーズ)……詐欺だと」と語ったこと。過去にcoup d'Étatの曲では「歌うたって稼ぐ金をとる シラフになって冷めるあおざめる」、「今さら何を言ったって四の五何を歌って ただのノスタルジー」などの歌詞があり、いってみれば「歌で金を取ることの違和感」を感じされるでMCに通ずるものがあり、今回のツアータイトルに「詐欺」「迷惑」と名づけるところに「らしいなあ」と納得したものでした。

 しかし、序盤から最後まで会場は【熱狂:歓迎】ムードで満たされていたし、アンコールで中畑大樹さんに「嬉しそうだね」と声をかけたように五十嵐隆さんまでダブルピースして楽しそうで、つまりそこでは詐欺は両者の笑顔によって不成立となり、代わりに合意されたひとつの名演があったのでした。というか観客の「もっと支払いたい」の言葉のように、それを詐欺と呼ぶのならば私たちはもっと詐欺られたいのです。
 つまりすばらしいライブでした。


 私が過去に参加したsyrup16gのライブのなかでも、五十嵐隆さんがもっともシャウトしていました。過去に「五十嵐隆が吼える」で書いたようにこのシャウトは心から愛してやまないものだからいっそう感慨深いものになりました。ライブ中、心に湧きあがる数多の感情が蓄積されていき、その極限でシャウトによって導かれて感情が奔流する感覚は、快楽と呼ぶにふさわしいです。

 例えば「リアル」の壮絶なバンドアンサンブルが脳の奥まで届けられて、また飾り気がなく不格好でそれゆえに強靭な言葉を聞かされて、そのとき心に立ちあがる思いを声にするならばそれは「雄たけび」の形になるのでしょう。それは声に出そうとも出さずともいずれにせよ。

 五十嵐隆「うおー」観客「うおー」と、私たちの心の奥底には小さく死んだ目をしているが開き直って叫ぶ16gの狼を飼っていて、会場には狼たちの幸せな咆哮が鳴り響いたのだった。


 で、ここからは曲について。序盤から怒涛のアップナンバーがたてつづけに演奏され、その完成度も見事なもので(歌声の調子もすばらしかった)初っ端から「これ、この熱量がsyrup16gのライブだよ!」と喜びがふつふつと湧いてきました。「人は一人、逃れようもなく」を人いっぱいのライブハウスでノリノリで聞くという不可解さがどうでもよくなるほどの轟音と熱狂。私の人生劇中歌の「ソドシラソ」では歌詞の投げやりな言葉が堂々とした主張のように聞こえるし、また「Honolulu★Rock」は失恋ソングの影すらなくなり旅行気分に浸れる陽気なロックナンバーに様変わりして、かつて死ぬほど聞いた曲でも耳が奪われてステージから視線を外すことはできません。

 こういった感覚の変化、syrup16gのライブの醍醐味のひとつでしょうね。そもそも苦しいだけとか悲しいだけとか一意的でない曲が多く、ライブでは演奏と空間のマジックによって曲の美しさや喜びといった感情が前面化するようです。いままで薄暗い部屋で一人陰気な顔で聞いていた曲が嬉しい楽しいといった感情に塗りつぶされていく様には心地よさがあります。

 「最新ビデオの棚の前で2時間以上も立ちつくして何も借りれない」は苦痛以外の何物でもないけれど、ライブハウスではそれを聞いて楽しくて嬉しくなっても仕方がないでしょう?
 

 「この曲、こんなにカッコよかったのか」部門では「変態」が堂々のエントリー。鋭角的なギターサウンドに惚れ惚れし、メロで静かに熱を帯びつつサビでザっと開花する。曲そのものに羽化の快楽が宿っている曲で、ライブではその羽化っぽりが神々しくまで映えてまさに「すげえ」の一言。もう一つは「scene through」が次点のエントリーで、たえずかき鳴らされているメロウなギターに対し、ドラマチックな色付けしていくベースラインを堪能できました。五十嵐隆さんのハミングの裏でキタダマキさんのベースが鳴っているハーモニーほんとうにいいなあ。と聞き入るばかり。
 
 過去に何回も聞いていたのに「ex.人間」では、リズム隊全体がコーラスを歌っていることに今さら気づきました。原曲は不気味なアレンジのせいで不健康をきわめていますが、ライブではコーラスは美しく圧の強いビートに導かれるようにテンションが上がってしまって、「美味しいお蕎麦屋さん行こう」の約束の温かさに心が要領限界まで満たされました。

 
 最後の曲は「根腐れ」。感極まって目をうるうるさせていたらコンタクトがズレて何も見えない状態のなか、バンドアレンジによって新たな魅力を付与された「根腐れ」では切なさが降り注いでめいいっぱいそれを浴びて、アウトロの鳴り響くギターを聞いていたら「ああもうすばらしいなあ」と感情の柱となって立ち尽くしました。

 
 という感じ。「詐欺」の日でした。 
 帰りの電車に乗って「本当のリアルはここにある」って歌詞は、言葉が強すぎてどのような状況で口にしても浮いてしまうような気がするけど、syrup16gの3ピースの音の塊のなかで歌われたときだけはまったくの本物になるから、つい油断しがちな私たちに本当のリアルをステージでいつまでも提示してほしいなあ、と思った次第。

 あとね思いだしたけど、「テイレベル」のバッキバキのリズム隊、タイトルに反して高レベルすぎてほんとに最高。イントロのベースライン、サビのフィルなど、リズム隊のダイナミズムが言葉を先導していって全編聞き応えがあり、速水君と斎藤君の青春を犠牲のうえにそこには最高の3ピースロックバンドの演奏がありました。

 一夜明けて「詐欺」という言葉に関してふと思ったのが、一生騙してくれるならばそれは詐欺ではなくなるのだから、今こうして一生聞きつづける可能性が出てきた以上、詐欺はきっと成立しないのだろう。まさか10以上前に出合ったときからずっと聞きつづけるとは思ってなかったし、まさかライブを何度も観ることができるとは思ってもなかったし。百歩譲って詐欺だったとしても騙してすばらしいものを観せてもらって私には感謝しかないのであった。