単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

syrup16g tour 「Les Misé blue」大阪公演 @Zepp Namba 2022.12.3

 syrup16gのライブに行ってきました。五年振りの新作アルバム「Les Misé blue」リリースツアーで大阪公演は三年振りとなるらしい。会場はZepp Namba

 新作『Les Misé blue』は凝ったアレンジや細やかな音作りのアルバムに仕上がっている。だからこそライブで3ピースで演奏したとき、曲の骨格が剥きだしになると一体どのような演奏になるのだろうと期待していた。 

 すばらしかった。再結成後のSyrup16gの関西で行われるライブはすべて行っててすばらしくないことがなかったけど。魔法のライブ! 音楽で救済されそう!

 で、前半のアルバムの曲は五十嵐隆のボーカルに聞き惚れた。というかやけに響くのだ。歌詞としても音響的にも感情的にも。後半のお馴染みのアンセムや珍しい曲などがあり、3ピースロックバンドとしてのSyrup16gに酔いしれた。

 今回のライブは「五十嵐隆のボーカルすっごくいいな」と場面が多かった。ロングトーンすごいなとか、表情豊かな声だなとか、なんかずっと声が届いていた。そんくらいよかったのだ。また、アルバムにはこんなに声を張りあげて歌うような曲が多かったのかと気づきもあった。特に大サビで声を張りあげるような箇所では、反響させるようなエフェクトも相まって、すばらしい歌声が会場に鳴り響いてた。

 『Les Misé blue』はいろんな良さが詰まっているアルバムだが、そこに五十嵐隆の歌声が寄与している部分は思ったより大きそう。これまでブログで「Syrup16gは~」って語り口でいろいろな良さを語ってきたが(主に詞とサウンド)、「Syrup16gにはすばらしいボーカルがいる」ってあまり書いたことなかった気がする。今度からはSyrup16gにはユーモアと優しさと悪ふざけと言葉遊びの歌詞を歌うすばらしいボーカルがいるとうるさいくらいに書いていきたい。

 大阪公演で印象深かった二つのハプニングがあった。なんか「らしく」て温かい気持ちになったエピソード。

 一つは曲を飛ばしたシーン。MCのタイミングではなさそうなときに「がっちゃんや、がっちゃんや、曲を飛ばしてないか」「やっぱり」「進むか、戻るか」みたいなやり取りがあり、その後にキタダマキさんにも「リハビリだからね」と言われていて微笑ましかった。で、次の曲は『モンタージュ』だったのだが、イントロで動揺していたのかは分からないが(なにせ演奏、歌声は冴えつづけていたから)トチってやり直し。ここ、武道館ライブの「負け犬だけに」っぽい!あの名シーンの「負け犬だけに」っぽいぞ!と嬉しくなってしまった。いやだって「成長できない大人は惨めだ」とか歌ってるのにライブは毎回わりと完璧ってくらいに仕上げてきているし……。

 もう一つは『Drawn the light』で五十嵐隆がテンションが高ぶったのかこけるようにマイクスタンドにぶつかって機材トラブルが起こったシーン。心配そうなムードになった観客に「自分でも記憶がない」「忘れて」とぼそっと語っていた。しかもその曲の歌詞が「死にたくない」だったから、まあなんというか迫力があった。あれも本当のリアルだと思う。

 

 細かい感想。本編。

 入場SEを経て、ライブは『I Will Come (before new dawn)』から始まる。三年の時を経てsyrup16gが大阪に来た。最高のアルバムを引き連れてやってきた。地響きのようなリズム隊のアタック音と、フィードバックギターノイズの時点でたまらない。のに、最後の「走れ」のロングトーンのシャウトで一曲目からワーっとなった。ワーっとしかいいようがない期待が満たされ超えられたときの興奮状態に。

 『明かりを灯せ』 は最後のサビで歌詞に合わせた照明が印象的だった。それにしてもライブで演奏されてもサビの半音上げているのか下げているのか、盛り上がっているのかただ進んでいるのかよく分からないコード進行で戸惑うのは変わりない。不思議。不思議だったなー。

 『診断書』、ライブでは歌詞を明瞭に聞きとれるわけもないので、いよいよもって「診断書」なのか「死んだっしょ」なのか分からなくなってよかった。言葉遊びって、歌詞と答え合わせをしなければ意味は決定されずには広がりつづけていく。意外と陽性のメロディーや細かく動き回っているベースの軽快さもあって、明暗/軽重がよく分からなくなっていくのもまたいいのだ。

 『In My Hurts Again』は「ライブで聞いて評価がうなぎのぼり」枠No.1。途中で参加してくるベースライン、メロディーの強度、染み渡るコーラスワークと煎餅パートの迫力。Cメロの不気味なトーン。それらが渾然一体となっていきなり理解った。煎餅は隠し味だった。マリアージュだったのだ何かしらの。

 『In The Air, In The Error』のような、静と動のコントラストが効いたバンドアンサンブルは予想通りにライブ向け。穏やかな曲が多い流れもあってかっこいいのなんのって。普段ならば「会場の熱狂も~」とか書くところだが、今回のライブは観客がガイドラインを守っているからそうは書けない。でも、まあ感情はそうなっている。「最小単位の君が変われば最大のセンショーナル」あたりとか爆発してた。情念と衝動とかが。

 『Don't Think Twice (It's not over)』、ベースのスラップ音のとこ妙な良さがある。「家族の写真が思えばほとんどなかった」のあとにバキバキってなっているのに良さがある。でもこの曲、高らかに歌い上げる様がなにより良かった。

 『深緑の Morning glow』はアルバムで一番曲な好きだし、Cメロをギターで弾いてからイントロに入って、舞台のスクリーンの幕が開けて、照明によって会場が深緑になって、俺の大好きなCメロでたくさんの四角形がスクリーンに映し出されて、で、全部で感極まった。ほんともう聞けてよかったし、歌われてよかった。

 『Everything With You』、手を左右に振っていてもおかしくないムードの曲なのに、やっぱり「首吊り台の下」だった。ハッキリとそう歌われていた。すばらしい歌声で歌われていたのでノリノリで聞くのだ。

 アルバムで人気曲の『うつして』はなんかもう輝いていた。ライブで、多くの人が集まった会場で降り注ぐようなスポットライトのなかで、マスクを付けて声は日常会話におさめてうつさないようにガイドラインを遵守している中で、『うつして』だから。その場、その時で歌われてしまうとどうしようもなくなる曲があり、『うつして』はまさ にその曲だった。

 

 細かい感想。アンコール。

 ここで『Dinosaur』。いい!3ピースバンド!syrup16g!メロディーの尻尾部分のテレレン~ってギターの鳴りとか、サビ入り前のベースのハーモニクス音とか、細部の音を追っていく楽しさと、その全体の音に浸れる楽しさがあった。

 で、ここから新作以外の曲。

 『Stop brain』のベースラインは再結成以後の曲で(以前はベタに『正常』が好き)もっとも好きだから、ライブで弾かれるともうひたすらベースに耳を傾けることになる。こんなにライブ向きだったのかという驚き、やはり最高のベースラインだという喜び。

 ハプニングがあった『Drawn th light』、ミドルテンポな曲群から躁的なアップビートのサウンドがくると当然のように盛りあがる。毎回「死にたくない」で声をちぎれそうに張り上げるとこにグッとくるし、今回は転倒しかけてドキっともした。

 で、その直後に『明日を落としても』ってのがまたいい。武道館ライブで弾き語りが印象深い曲だが、この曲はギターがいいのだ。すばらしい歌詞、そしてすばらしいギターフレーズが飛びだしてくる。ギターソロは少し覚束なかったような気もするが、そうでもなかった気もするし、やっぱり最高だったのでは。

 二度目のアンコール一曲目はまさかの『前頭葉』。世の中には「口からCD音源」という称賛の言葉があるようでして、ライブではこの曲の「ウッ」や「シーーーッ」が完全再現されていて嬉しかった。声にならない声。息づかいで会場を盛りあげる。駆けぬけるオルタナティブロック感満載のサウンドにコーラス載せてラストでは「前!頭!葉!」のシャウトなの面白いし、前頭葉って脳の機能的部位を示す名詞を叫んでいるだけなのに半端なくかっこいいの面白いし、もう最高。

 『天才』『神のカルマ』あたりは再結成後のライブでは定番曲。何度もライブで聞いているが何度聞いてもロックバンドとしてかっけえな!といつも思う。今日も思った。それにしても、会場内のテンションが最高潮に達しつつあるとき、照明に照らされて五十嵐隆が着ている「煎餅」というTシャツの文字がシュールさだった。

 ここらへんで「俺、いま煎餅ってTシャツを着ている人(キタダマキは着てなかったが)たちの演奏で、熱くなったり泣きそうになったりしているんだ」と急に思ったのだった。

 そして『リアル』。「あなたがSyrup16gという3ピースバンドのライブで人に一番聞いてほしい曲は何ですか?」と問われたら『リアル』と即答できる。同歌詞、同メロディーを反復し、バンドアンサンブルはフリーキーに構造を変化させ、「妄想 もっと so real」までノンストップで駆けぬける。そこそこ長い曲なのに一瞬で終わってしまう。毎回すごい。今回もやばかった。中畑大樹がイントロで妙なアレンジというかハイハットを刻んでいたのと、「本当のリアル」とシャウトしていたこと以外はいつもとほぼ同じ。で毎回ぶっ飛ぶ。syrup16gがライブで歌っている、それだけで真実味を帯び、真に迫ってくる。前にも書いたが「本当のリアルはここにある」って歌詞は、言葉が強すぎてどのような状況で口にしても浮いてしまうような気がするけど、syrup16gの3ピースの音の塊のなかで歌われたときだけは本物になる。

  
 三度目のアルコールで、ラストの曲はアルバムの表題曲でもある『Les Misé blue』。まず中畑大樹がステージに戻ってエイトビートを叩く。キタダマキがゆっくりとベースを持つ。五十嵐隆が走ってギターを弾きだす。そして、最後もまたエイトビートで終わる。この曲ばっかりはシンプルにひたすらにいい曲だとかんじた。

 

 Syrup16gっていたんだ……。いました。アルバムが出てよかった。いままで俺が書いているライブの感想といえば「3ピースバンドとしての魅力」についてが多かったが、今回のライブはさらに、あらためて五十嵐隆のボーカリストの魅力が伝わってきた。前回もそうだった。

 それにしても『リアル』はヤバい。俺はSyrup16gのライブで『リアル』を聞くたびにライブに来てよかった……と感極まっている。贅沢はいわないが一年に一度くらいで『リアル』を突きつけられたい。「本当のリアルはここにある」のだ。今日はZepp Nambaにあった。

 よかった!