単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

Syrup16g/「HELL-SEE」 全曲レビュー

十三年後に書いたもの。

dnimmind.hatenablog.com

 

十三前に書いたもの。

syrup16gのアルバム「HELLーSEE」の再販を記念して、このアルバムの全曲レビューを書きたいと思います。

HELL−SEE【reissue】


まずは、廃盤になってしまった旧作との違い(192kbpsと356kbpsの区別が付かなかった耳で一万円のヘッドホンを使用しての判断)は、音がクリアになっていてセパレートされており、サウンドの解像度があがっているようです。
ほかには高音域と低音域が若干強調されているような気がします。後は、これまでちょっと小さかった音量も標準になりました。



ではレビューの方に



イエロウ
まずはこのリフ。これは変拍子ですかね。
オープニングナンバーならではのスタート!といった勢いはありますが、投げやりに歌うボーカルと堕落しきった人間の独り言みたいな歌詞でなかなか暗いです。
しかし、音圧がすごい。
勢いといった迫力があるのに一方、このいかにも諦めているような感じもあって、不思議な感覚がある曲です。

恐らくイエロウは家篭、つまり、ひきこもる事とかけているのかと思います。

ギターのコードチェンジする際の、キュッ、っとなる音も生々しくていい効果音になっています。
シロップの曲はギターがコードだけを弾くことが多くいので、代わりにベースはメロディアスなフレーズを弾く事が多いです。


不眠症
二曲目で突然、一気にサウンドも歌詞も深い所まで堕ちていく暗さの曲になります。
奧行きのある浮遊感のあるギターサウンドアコースティックギターも重ねる繊細なサウンドから、一分を越えた辺りで空間を埋める轟音ギターとリズム隊が加わり盛り上がると思ったら、意外とそうでもなく淡々と展開する曲です。

その淡々とした様子は、「もうどうでもいいかな」、といった感じのやるせなさを強く感じさせます。
過去の後悔に苦しむ事は誰にでもありますが、さらに夜にそれを考えてしまい眠れなくなる人も多い筈です。 そういった内容の歌ですが、描かれるの感情は半端じゃないリアルさ。凄い。
もう遅い手遅れだ、と頭で割り切って諦めても感情は言うことはきかなくて、「どうすればいいのって」もう過ぎた事だからどうしようもなくて、布団にくるまっても眠れない。
寝るために羊を数えても、うるさいマイナス思考が睡眠の邪魔する。「うるさぇてめぇ メェー」
そんな夜の子守歌です。


【HELLーsee】
深くリバーブをかけたギターのアルペジオの響きを軸とするスローテンポのダウナーなサウンドは、「健康になりたい」という歌詞に反して、かなり不健康です。
歌い方も何か適当な感じがさらに。

今作のギターの重ね方はシューゲイザーのアプローチに近いですが、そんな意図は五十嵐にはなくて、ただ雑音のように散らかる思考を表現するために、ギターノイズや残響感を取り入れてるだけなのでしょうか。
不眠症→不健康とアルバムの病状は悪化します。
歌詞の一つの解釈として、不眠症で眠れなくて深夜のドラマを見た、というのも有りかもしれません。
しかし、この「どうしようもなさ」は昼に聞いてはいけない。


【末期症状】
この曲は、私がアルバムで一番好きな曲です。
ゆったりした儚げなアルペジオとは対照的な性急なドラムを軸に、徹夜明けの妙なテンションのような展開を繰り返して、どこまでも後ろ向きに突っ切った曲。
前回の流れを引き継いで、不健康→末期症状の流れになります。

歌詞の「抱きまくら 挟んで眠れ」と言った後に続く、素敵な未来があるかどうかに対する自問自答の答えは「ねぇよ」なのです。
本当は分かんないのにむしろ心のどこかで期待しているのに、「ねぇよ」と言い切ってしまう方が楽だから、そう自分に言い聞かせてしまう。
当たり前ならわざわざ口に出さない事だけど、叫んでまで否定したいほどに「素敵な未来」があるかもしれない可能性って怖いんですよね。
何故なら、人によっては今の自分の現状が、その可能性を否定している事になるからでしょうか。

【ローラーメット】
前半の四曲に代わって明るい曲ですね。
歌詞で批判するロックスターはシロップ自身の事でもあるように取れますね。
この曲はベースラインが目立ちます。特に印象的なポイントがある曲ではないのですが、飽きません。
やさぐれていますね。


【I'm劣性】
何とも卑屈なこのタイトルですが、曲の内容は打って変わって、足並みが揃ったバンドアンサンブルは文句なしに格好いいです。
サラウンドになっているギターや泡みたいな効果音のギターなどアレンジ面でもなかなか作り込んでいますね。 主旋律のぽわぽわしたギターみたいに、内容も適当で堕落した人間がいかにも言いそうな戯言で、またしても不健康だなと思います。
私みたいな根暗の人がテンション高い時ってまさにこんな感じになります。
「I'm 劣性」と明るく自虐する辺りがSyrup16gらしいと言いますか。


【(This is not just)Song for me】
直訳すると私のための歌では決してない。
直訳すると「ただ私のためだけの歌ではない」 
メロディーが透きとおるように綺麗で、このアルバムではちょっと浮くぐらい爽やかPOPな感じです。単純にいいなと思える曲です。

 「そんな魔法が 今は何故 手品みたいに 思えるのだろうね」

これは、心から信じていたものが本当はそうではないのかもしれない。と、葛藤のはざまで思いが揺らいでいる心情でしょうか。
タネを知ってしまったらその瞬間から魔法は手品に変わります。事実は何も変わらないのに。
その気持ちの移り変わりがタイトル()に現れているのでしょう。

自分だけのための歌。そんな歌はありえないけど、そう信じていたい。なんて気持ちも含まれていそう。

中学生の時にシロップに出会ったときには、まさに自分のための歌だ!と思っていたあの時の絶対的な感情から、徐々に相対的な視点を持った気になって偉そうにレビューをしたりしている、まさにこの状況に似ている気がします。
「自分」しかし、シロップの曲だけはずっとSong for meなんですよね。


Syrup16gのHELL-SEEのレビューの後半です。
さっそく名曲揃いの後半に行きます。


【月になって】
前曲同様に綺麗なメロディーはこれだけで、もう一つの物語がある曲です。
ひたすら反復されるアルペジオや歌詞では、少しの変化が際立つように、丁寧な言葉と静かなサウンドからなる繊細な曲です。
後半のコード感のあるベースはいいですね。
「ありのまま何もない君を」「届かないね永遠にね」と、とても切ない歌詞です。
正しいのに何もないって、認めたくないけど私は否定できません。

感情を掬い上げて、こんな綺麗な歌にして、不安や葛藤を切なさに昇華させるのはさすがです。 恋する対象を神様や救世主みたいな過大の扱いをするアーティストが多いけど、恋の感情はそれだけじゃないんですよね。
人間の儚さが感じられて切ないです。


【ex.人間】
ブリッジミュートと暗いコーラスが印象に残る、その何とも言えないテンションはまたまた不健康です。
今まで気付かなかっのたですが、裏で鳴っている変なメロディーはやけに怖いです。きてるねぇの所のもかなり不気味です。
絶望しているのか、観念してしまったのか、どっちにしてもずっと浸っていいような感情が込められている曲ではないですね。

暗いとか後ろ向きとかそういうのでなく、この気持ち悪さというか、曲にはびこる空気の悪さは不健康としか言えません。
何か悪いように言っているように見えますが、とても好きです。

【正常】
疑いのない名曲です。
何といってもこのベースの存在感たるや。
ベースの旋律が曲の核になっていて、力強いフレーズやゆっくり流れていくような滑らかなメロディーや終盤の心地よいアルペジオなど、思わずベースに耳を奪われてしまいます。
さらにあえて粒を揃えない事で躍動感に溢れていて、フレットの移動音が聞こえるくらいベースの音量も大きく存在感もあり、切なすぎる曲のメロディーも相まって感動ものです
。 常に雑踏の中で「正常」や「普通」の位置を確認して、そこから少しだけズレることで、個性を演出しようとしている私ですが、そういうつまらない「正常」の意義を潔く否定してくれます。
存在意義を他人に求めても、結局はいらない人だから、正常はもうおしまい。
でもそれは異常という訳でもなくて、ただ、そこには何もないだけなんです。


【もったいない】
裏で鳴っている不協和音のようなコーラスに負けないくらい、主旋律は悲しげな雰囲気を持つ旋律です。胸が苦しくなる。
終盤のアルペジオと叫びからの曲の終わり方がまた絶妙です。
「もったいない?」なんて言われるようも才能もないけど、他人なら同じ能力でももっと上手く生きているんじゃないかって、私はたまに考えます。
こんなに素晴らしい曲を作っている五十嵐もそう考えているなんて不思議です。
共感出来るのに、他人の事なんてちっとも分からない。




【Everseen】
力強いグルーヴ感に合わせて、要約するとつまり「つまんない」と、ひたすら主張するハードなロックナンバーです。 全編においてバキバキのギターサウンドが格好いいですね。
3ピースならではの勢いがあって、この曲があるからこそ次の名曲に繋がるんですよね。
ゲームを6割やったら飽きて全クリをしたことがない私は、この曲の「すぐに飽きてしまう」気持ちはかなり共感出来ますね。
インドアで行動範囲が狭い人は毎日が見たことある景色ばっかなんです。
でもそれ以外の景色なんて想像出来ないから行動もしない。→つまり、創造出来ない。
ダジャレのような歌詞なのにどこか本質をついています。


【シーツ】
アコースティックギターの綺麗な音色とベースの和音弾きの心地よさ、ギミックなしの直球の泣けるメロディーです。 入院中に作られたこの曲は、午後の日差しの温かさのような雰囲気を持っていて、生を感じられない洗濯したてのシーツの匂いがしそうです。
メロディーが良すぎるので、他には言葉が浮かんできません。
五十嵐は天才のメロディーメーカーと呼ばれますが、この曲はまさにその言葉が納得できます、
バーッと広がるサビの開放感はどこかに飛んでいきそう明るさなのに、結局は、切ない日常の風景のメロで終わる展開はずるいですね。


【吐く血】
誰が聞いても、いいね、と言いそうなそんな良さを持ついい曲です。
ロディアスで明るいリフに載せられる歌詞は、決して主人公になれない後ろ向きで空っぽの彼女についてです。 可憐な女の子を見て可愛いと思うのとはまったく別の感情で、よく分からないです。
もやもやする。そのもやもやが恐らく歌になったのでしょう。
忘れていたけどこんなにPOPな曲も書けるんだと思い出して、ついでにギターソロも久しぶりでいいです。


【パレード】
ついに最後の曲です。ラストに相応しいスケールの大きさで、ここまで気持ちをどん底に落としておいて、こんなに爽やかに「さよなら」するのがこのアルバムなのですよ。いいメロディーです。
何だかんだでこのアルバムの流れでこの曲を聞くと、少し気分が明るくなれるんですよね。さんざん暗いとか不健康とか後ろ向きとか言っておきながらですが。
「いつかはそんな日々が」