瀬戸口廉也が脚本を手掛けた『キラ☆キラ』というノベルゲームにこのような会話のシーンがありました。
「じゃあ、前島さんはどんな曲が好きですか?」
「俺は、どことなくユーモアがあっておもしろい曲が好きだな」
「ユーモア、ですか?」
「うん。別に笑えるおもしろおかしい曲って意味じゃなくて、激しい一点張りとか、哀しい一点張りとか、それだけじゃなくて、こっそり別の要素も入っているような、遊びのある……そういう感じのやつ。……わからないかな?」
『キラ☆キラ』
私は「どことなくユーモアがあっておもしろい曲」と聞いたとき、まっさきにSyrup16gが思い浮かびました。
ここでは、二つの曲を挙げてみます。
一つ目は「Honolulu★Rock」。
タイトルに★が輝いているし、ジャカジャカと陽気なコードがかき鳴らされているし、サビは「いっぱい旅行してみたけどハワイには行かなかった」というなにやら微笑ましい。一聴すると、タイトル通りのホノルルな曲という印象が浮かびます。「ハワイに行かなかった」の後の「なんで」も、ほんとにただの疑問といったような感じがあります。
が、それ一点張りではありません。「赤の他人がいかに相手を思いやるか/その戦いにおいても僕は敗者だった」や、また「多分心が通じ合うなんて一生無いから」というように、人と人とのコミュニケーションの難しさもまた歌われるのです。
先ほどの「なんで」という問いかけを、このコミュニケーションの難しさの延長線上に置くこと、途端に「疑問が生じるほどに心が通じ合うことは難しい」という叫びのようにすら聞こえてきます。旅行が好きな二人が、その旅行先のすり合わせがうまくいかなかったというような背景すら浮かび上がります。これがいわゆる「こっそり別の要素」が入っているに該当しそうです。
もう一つは、『ex.人間』。
「美味しいお蕎麦屋さん見つけたから今度行こう」というファンの間で有名なフレーズがあります。一度目のサビは「少しなにか入れないと体に障ると彼女は言った」で止まり、不健康さが強調されますが、その次に「少しなにか入れないと体に障ると彼女は言った」のあとに、お蕎麦屋さんの歌詞に繋がります。それまでのシリアスなムードがガラっと変わり、なにやら温かい気持ちになるような展開を迎えて終わります。
サウンドは、ブリッジミュートのギターサウンドや唸るように低く呟かれるコーラスなどで、どちらかといえば倦怠した不健康な気配をずっと漂わせているのにもかかわらず、最後の歌詞の要素によって曲全体の印象すらも変わって聞こえてきます。
こっそりある別の要素が、全体の印象を塗り替えていく。そして、そこにはユーモアもある。
なんというか、わたしが答えるならばSyrup16gの曲を挙げるなと感じました。『テイレベル』や『メリモ』など、他にもいろいろな曲が該当しそうです。
ちなみに『キラ☆キラ』のシナリオライターの瀬戸口廉也は過去に運営していたテキストサイトで『正常』の歌詞を引用していたことがありました。
そもそも「どことなくユーモアがあっておもしろい曲」というのは数多くありそうです。ただ「一点張りではない」というのが、わたしのSyrup16gのイメージに合致します。
その「一点張りではない」ゆえに、Syrup16gについて語ることがわたしにとって困難の理由になっていて、語りたい気持ちが膨れあがっているのにどうしても言葉にできずにもどかしく、その捉えきれなさえゆえに何度も聞いては何度も言葉にしようと試みてしまうのかもしれません。