おれが飼っている本の虫は冬に目を覚ますようで、本の虫になっている。年末に期間限定で2か月99円のKindle Unlimitedに登録してからというもの、そこで読める気になっていた本やそこでは読めないが急に気になった本を隙間時間に読みつづけている。SNSを一切やらず、生活の負債を先送りしていると一日には結構な隙間が空いていることに気づく。なんか読んでる。しばらくそんな感じ。金がないので虫が選り好みしている餌代を捻出できずに虫は死ぬ。
雑な感想。
矢部嵩『紗央里ちゃんの家』を読んだ。いまいち。
矢部嵩『保健室登校 』を読んだ。よかった。時々リリカルで大体スプラッターのホラー学園短編集。「そうね別に死んでいいじゃんね。履き潰していい靴なんだ! よかった! 私普通に歌って死ぬわ!」の台詞がお気に入り。生を深刻に捉えすぎない。作中ではあらた若い生が履き潰されていく。
矢部嵩『魔女の子供はやってこない』を読んだ。とてもよかった。特に三章は日常的な体験の「痒み」を題材にしたホラー短編の快作では。痒みについての思弁的な語りから一転してオチが低俗でいい。おれは足むずむず症候群で病院に通ってたことがあるので思いだして怖くなった。今作は『タコピーの原罪』と併せて話題になったらしい。
川井俊夫『羽虫』を読んだ。スヰスの人。
穂高弘『世界音痴』を読んだ。phaさんや黄金頭さんがおすすめしていたエッセイ集。評判通りによかった。菓子パンが食べたくなる。
武田綾乃『石黒くんに春は来ない』を読んだ。スクールカーストの繊細さが存分に描かれていてよかった。『響け! ユーフォニアム』の人。黒武田シリーズと言われている作品を読みたいリストに加えた。
黒澤いづみ『人間に向いていない』を読んだ。ニートやフリーターがある日突然虫になる話。子が虫になった親たちから成る当事者団体を話の中心に据えたアイデアはよかった。それ以外はいまひとつ。
西尾潤『愚か者の身分』を読んだ。半グレ。安易というか中途半端というか、クライムノベルではなかったな。この手の話ではリアリティでいえばこの本とか草下シンヤの『半グレ』とかなんだろうが物語としては『闇金ウシジマくん』が頭一つ抜けていい。並ばない。
張江泰之『人殺しの息子と呼ばれて』を読んだ。歴史に残る大量殺人事件加害者の息子の話。興味深かった。「殺すぞ!」という言葉がピンポイントの逆鱗になるという生い立ち。
赤松利市『鯖』を読んだ。一本釣り漁師を舞台に、醜形恐怖症やフォーディズム体制や外国人研修生といったテーマを踏まえつつ、ピカレスクロマンに纏めあげていてよかった。オチもいいし、タイトル回収シーンの叫びは痺れた。
シューペンハウエル『自殺について』を読んだ。デュルケーム以前の自殺論はべつに読まなくてよさそう。
河口和也『クイア・スタディーズ(思考のフロンティア)』を読んだ。学びがあった。
竹村和子『フェミニズム(思考のフロンティア)』を読んだ。前半の歴史的経緯については分かりやすく学びがあったが後半はよく分からなかった。
斎藤彩『母という呪縛 娘という牢獄』を読んだ。「九年の浪人生活と刑務所の環境はそう変わらない」というニュースで気になっていた。壮絶で、あるある。この本に関しては書きたいことが多すぎて雑には書けない。
西村賢太の小説やエッセイをいくつか読んだ。
山本章一の『堕天作戦』を読んだ。完結はしていないが最後が『ベルセルク』の蝕や『チェンソーマン』の地獄を彷彿とさせる美しく恐ろしいシーンで読後感がすばらしかった。
読んだ/読んでないを明確に線引きするのは難しい。
『積読こそが完全な読書術』によれば、「読み落としがある、読んだそばから忘れていく、記憶は変質していく……。読書体験の実質は、律儀に最後までめくるのでも、ざっと流し読みするのでも、結局は不完全なのである」。
その意味での「読んだ」。
虫といえば数日前にCOCK ROACHの『赤き生命欲』がサブスク解禁されていた。廃盤で当時購入したときは五千円くらいだった。こっちは虫というか蟲。