単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

華倫変没後20年追悼原画展へ

華倫変の没後20年追悼原画展に行ってきた。

momomogura.stores.jp

おれは華倫変の熱心なファンとはいえないが異様に好きな短編がいつくかあり、それらの作品は台詞を覚えているくらいに何度も何度も読み返している。

本当は先週に行くつもりだったが、ゼルダの新作で土日が消えたので今日となった。それにしても今日は暑いな。

場所は大阪ミナミ。BGMは戸川純。これ以上ないっていう布陣のなかで開催されていた。この日が酷暑だったのもよかった。なにせ華倫変のキャラクターはだいたいみんな汗もしくは冷や汗(もしくは血か体液)をかいているから雰囲気に合っている。

特に酒とばらの日々の原画に見入っていた。最後のは『忘れる』だけど。おれは華倫変の作品の中でも『酒とばらの日々』が一番好きなのだ。トム・ジョーンズチャールズ・ブコウスキーといった海外アル中文学と張り合える大阪アル中の大傑作。

この短編、「もう私はこわれていた」から始まり、「死ぬまでいかに誤魔化すかしか考えてないんだ」「飲んでないと生きてるだけで苦痛なんだってのに!」で、最後が極めつけにすばらしくて「怖くなったら又昔みたいに"わ──”って言っていいのかな?」「いいよ」「じゃ言うね」と交わされる。

結局、救いようのなさに変わりなく、日々の酔いと酔いの狭間で酒よりは頼れない約束を交わしてひとときの安心を得るだけ。どうしようもなさに一片の解決も与えられていない。酔いはさめずに犯されつづける。が、今夜だけは安心して眠ることができそうで、それがいかに有り難い美しいかが描かれているのが『酒とばらの日々』なのだ。

この『桶の女』も『酒とばらの日々』もそうで華倫変は三日後に死んでしまいそうなキャラクターが手にした小さな小さな喜びや優しさの描写がすばらしい。その後につづくのはハッピーでもバッドでもなくエンド死をもって閉ざされるエンドしかなさそうなので心がグチャグチャになっていく。

 

メッセージノートもいいですよと聞いていたので全部読んだ。三好一郎のネタとか、沖縄からきましたとか、愛されているんだなあと切に伝わるメッセージに感動しつつ、ピエール手塚先生が描いた『バナナとアヒル』に出てくる交換留学生のスティーブのインパクトよ。

そのあとに新世界を散策していた思いだしたが、スティーブがいっていた「今度そういう人タチノ集マル所ヲ教えてアゲルヨ」の集まる所って、新世界のあの劇場のことなのかな。ハヌマーンの『ポストワールド』って新世界について歌った曲で「地下のポルノ劇場は男色家と狂人の巣窟」ってあるし、昔はそのような場だったらしい。

原画展はそんな感じ。「酒とばらの日々」ほんとにすばらしくて、このすばらしい短編の原画展が大阪で開催されたのは06ナンバー民として誇らしさすらある。って感じたのはおれだけでないようで、メッセージノートにも「大阪に住んでいて特に思い入れもないのですが~」ってあった。

 

原画展についてはそんな感じ。

華倫変先生についてはにゃるらさんの記事で知った。

note.com

その記事で「生前はメンタルヘルス板に常駐していたからこそ真に迫る短編です」に惹かれて読みはじめた。

それからいささか突き放されたトーンで描かれる身も蓋もなく救いようがない世界と、だからこそささいなことが光明となるストーリー、そしてそれらが「END」の一文字で区切られることで物語になってしまう読後感の絶妙さにハマったのだった。

彼が生きていたら現代のどこを切り取ってどのような物語にするんだろうか、「高速回線は光うさぎの夢を見るか?」の現代バージョンを読んでみたかったな。とか考えながら帰った。

それにしても暑かった。

 華倫変『張り込み』