単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

新たな結末が描かれた小説版  古谷実「ヒミズ」


 どこまで素直に書けるか。  


 純愛青春残酷物語と呼ばれる「ヒミズ」。
 それまでシニカルなお笑いを描いていた古谷実が、一転して、笑いを一切排除して人間の深部に焦点を当てたストーリーを描いた作品。僕にとってその原作のコミック版は人生を左右するほどに深く影響されたのでもはや評価できるものではありません。学生時代に擦り切れるほど読んだ。実家にあることもあってしばらくは遠ざかっていましたが、久しぶりに小説版を読みました。

 
 正直、これはファン以外が読む価値はないと思う。この小説を手掛けたのは新人作家らしくて、まだ未熟といった感じで小説ならではの魅力を感じることはなくて、原作の思い出に浸れたことと新たなる結末を読めた以外の価値はなかった。しかも、新たなる結末と題打っていたが、原作の結末に8ページほどのエピロローグが加えられただけであった。正直、どうにも物足りない。
 

 この小説、茶沢景子の視点で描かれているのは興味深かった。
 彼女はこんな乙女だとは思っていなかった。けど、語られる自白は予想の範疇というか、ヒミズを読み込んでいる人はマンガだけですでに読み取れた行間の内容だと思う。彼女の気持ちを細部まで補完したいならばオススメできるけど、一人称による自分語りと原作通りの展開のストーリから感じたのは、やっぱり主人公は住田祐一であったことで、小説としてはやっぱり物足りないです。彼女はこの物語にはオマケでしかない存在だと思い返されました。個人的にはヒミズそのものを読んだのが久しぶりということもあってかそれなりに楽しめたけど、あまりオススメはできません。

 
 あーでも、コミックのヒミズはオススメします!! この評価は小説に対してであって原作はまったく別です。ネガティブな作品をわざわざ漫画で読みたいって人にはうってつけですね。
 


 ここからは「新たなる結末」のネタバレを。

 
 

  
 あの事件から四年後。漫画家志望の小野田と茶沢景子が久しぶりに出会う。そこで語られたのが、住田祐一の自殺は、やはりニュースとなって大きく取り上げられて、彼女である茶沢景子は住田の子供を妊娠しており、またネットに晒されて注目を浴びることになったこと。そのせいで、彼女の高校生活は過酷なものであったが、親切な教師の助けもあってどうにか卒業することができた。その教師のアドバイスによって彼女は今は助産師となって、子育てと仕事に勤しんでいる。


 友人の夜野は相変わらずプラプラしていて、小野田は夢に少しづづ近づいているようだ。そこで小野田は、住谷と茶沢のことを漫画にしてもいいだろうか、と提案した。そのマンガのタイトルは「ヒミズ」。日見不、そういうひっそりとした人間にスポットライトを当てたいのだという願いがあるようだ。そして、実は住田の自殺は一命を取り留めていて、意識がないけれども今もなお植物人間として生きているようである。小野田に「寂しくない?」と尋ねられた茶沢景子は、「寂しいに決まっている」と答える。でも、いつかこっそりと息を吹き返すことを願って、前を向いて生きている。



 というものです。
 茶沢景子の言葉を借りると、「何、それ」。新たなる結末は言い過ぎたでしょう。でも、住田が生きていたってのはこれまた残酷な展開ですよね。なにせ死なせてもくれない。このどこまでも不条理なストーリーには心に響きました。といった感じで、原作が好きすぎたせいでずいぶんと酷い感想になってしまいました。でも、こうやって素直に書くとスラスラかけますね。