単行のカナリア

感じて想する

12.失われた「ですわ」口調

 昨日、たまたまVtuberグループにじさんじの新人デビュー配信を観ていた。壱百満天原サロメという名のVtuberお嬢様キャラクターのようで、ぎこちなさを残しつつ「ですわ」口調で喋っていた。彼女は、「人生に配られたカードで戦うしかない」という言葉を、「望んでいないのに勝手に配られた」的諦観を踏まえたうえで口にしていて好感を抱いた。

 

 「ですわ」口調といえば、ウマ娘メジロマックイーンか、関西のおっさんが近年定番らしいが、俺にとって「ですわ」キャラクターといえば『月に寄りそう乙女の作法』のユルシュールだ。 

 ユルシュールはオッホッホッホーと笑い、ですわ口調の金髪ツインテお嬢様、かつ気高いときていて、「ですわ」口調キャラクターのステレオタイプそのもの。「ですわ」口調の権化のような存在である。 

 左から二番目が、ユルシュール。 

 

 「ですわ」口調はある種の役割語だろう。役割語wikipediaによれば「主にフィクションにおいてステレオタイプに依存した仮想的な表現をする際に用いられる」と説明されている。

 しかしユルシュールはゲーム内の攻略キャラクターであり、ドラマがあり、主人公と性行為に至るほど関係性が深まり、内面を掘り下げられるから、安易なステレオタイプの範疇にはとどまらない。

 作中で、ユルシュールは、突然「ですわ」口調を、脱ぎ捨てる。

 あまりに突然で、俺はとても驚いた。そう感じたのは俺だけではないようで、似たようなことが『インターネット2』という同人誌で書かれていた。

そういえば、ユルシュールという「ですわ」口調のツンデレお嬢様キャラのルートに入ると、おもむろに主人公が「日本人は普通『ですわ』なんて口調は使わないんだよ」とユルシュールをたしなめ、それ以降ユルシュールから「ですわ」口調が失われるといった衝撃的な展開をむかえる。ぼくはそれから物語がまったく頭に入ってこず、失われた「ですわ」口調の行方が気になって気になって気が狂い、いま病院にいる。

美少女ダイアリー/岩倉友也

 公式サイトのキャラクター紹介に、「嘘っぱちを刷りこまれているため、無自覚に妙な表現を用いることがある」とあるし、そもそも登場シーンから口調が不安定だったから、その兆しはあったといえばあったのだ。ただ、あまりに見た目と言動がステレオタイプをなぞっていたから、突然「ですわ」口調が失踪したときには驚いてしまった。

 劇的な感情を表現するために、あるキャラクターが口調を崩すことはそうめずらしくない。むしろ、定番の演出だろう。が、完全に口調が変わる、しかも、特にこれといったドラマを伴わずに「おかしいよ」と指摘されただけで、それ以降永続的に口調が変わったというのが衝撃だったのだ。

 にじさんじVtuberは、魔法使い、悪魔、妖精といった属性(設定)が与えられている。その設定に合わせ、キャラクターを演じることをRP(ロールプレイ)と呼ぶらしいが、生配信を繰りかえすうちに人間味が生じてくる。リアルタイムという制約がある以上、なにかしらの綻びは逃れられない。それこそが魅力だという人もいれば、そうなるのはVtuberの自覚が足りないという人もいる。俺はVtuberに詳しくなく、たまに総合リアルタイムランキングで人を集めている配信を開くらいなので、そこらへんの機微を分かっていない。

 それにしても、口調はキャラクターを表現する際において想像以上に影響しているようで、突然失われるとけっこう驚く。