単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

[ライフハック]大きなごみ袋は傷つく、小さなゴミ袋は怖くない

 ごみで満タンになった四十五リットルの大きなごみ袋が視界に入ると、暗澹たる気持ちになります。一つならまだしも、いつものように出勤時にごみ出しを忘れてしまって、部屋に五つくらいごみ袋が重なって自分の背丈ほど山になっていたときは、わたしはこれから先生きのこることができるのかとうんざりします。これ以上は大きなごみ袋山を増やしたくないという思いがわきあがり、ついには床にごみを放置するようになってしまいました。中身が詰まった四十五リットルのごみ袋の存在は、わたしの心に甚大なダメージを与え、ごみをごみ袋に捨てることさえ躊躇わせるようです。

 ある日、間違えて小さなごみ袋を買ってしまいました。容量が小さいですから、すぐにごみでいっぱいになります。案の定、ごみ出しを忘れてしまって、小さなごみ袋が一つ、二つ、三つといつものように増えていきました。しかし、小さなごみ袋がどれだけ増えても所詮は小さなごみ袋でしかなく、たいして威圧感はありません。怖くないのです。なんといいますか、小さなごみ袋がどれだけ重なって山になったところで、所詮はごみの集積物であり、その個体は足の指でポイっと場所を移動できるような矮小な存在にしかすぎない。所詮は、ごみ。そう舐め腐った、あるいは勝ち誇った気分になるだけで、これまでのように心が乱されることがりません。かつては、大きなごみ袋の山が目に入ったときは、自分の不甲斐なさに悲しくなり、巨大なごみ袋の山が増えていくのが怖くなり、もうごみ袋を増やしたくない一心でごみが床に溢れるようになっていたのに。ちょっとしたことを変えただけで、大きく変わる。これはいわゆるライフハックなのでしょう。

 さらに、小さなごみ袋のおかげで、部屋にごみ袋を一つだけ置くという固定概念を捨てることができました。わたしは好きなだけ好きなようにごみ袋を配置していいのです。玄関、キッチンの側、ベッドの横、ベランダ近く、同じところに三つ四つ、わたしの部屋にはそこら中に小さなごみ袋が口を開けて待っていて、もう床にごみを捨てるようなことはなくなりました。そして、部屋の一角がごみ屋敷化していましたが、近くに小さなごみ袋を置いていると暇なときは聳え立ったごみやモノを少しずつ放りこむようになり、そのおかげで部屋がだんだんと片付いてきました。治験の説明会に行ったときに受けとった三千円が入った封筒を見つけ、臨時収入でお酒を買って飲んでいてとても気分もいいです。  

 「整理できない人間は収納を増やすな」とはよく言われることですが、ごみ袋を増やすなとは聞いたことがありません。もしかすると、整理できない人間はごみ袋を増やすべきなのかもしれません。そう考えたとき、小さなごみ袋は、設置しやすく、設置したときに場所を取らず、十個くらい溜まったところで怖くないし傷つかないと、すばらしいアイデアのようにおもえてなりません。それにくわえて、そこら中に中身がいっぱいになった小さなごみ袋を置いておけば目に入る機会が増え、それはごみ出しを成功させる可能性を高めてくれることでしょう。

 わたしはもうずっと、捨て忘れて溜まっていく大きなごみ袋の塊を目にするたびに、傷つき、自己肯定感を損なっていたようにおもいます。抑うつ症状が悪化しているときに視界に入ると、いささか大げさかもしれませんが、それこそ絶望の二文字が頭をよぎってたこともありました。しばらくはそうならないでしょう。

 所詮、ごみ。所詮、中身はごみが入っているだけの、ごみ袋。ごみ袋の聳え立つ山が崩れて圧死する前に気づけてよかった。