単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

『花束みたいな恋をした』の麦の台詞を引用した記事を舞城王太郎好きとして納得がいかずにそもそも映画でも身につまされなかった一例

『花束みたいな恋をした』の麦は初対面では共通の話題や趣味があって仲良くなれそうで急接近するけど共通の話題を語れば語るほど互いの熱量には歴然とした差があってそれをお互いに察してから話題に上らなくなるが仲良くなったきっかけがそれだからなんか気まずくなるのが増えそうなやつだなあって観てた。

こんな記事があった。

shinsho-plus.shueisha.co.jp

読んで違和感の塊になった。

おれは『花束みたいな恋をした』をそういう物語として受け取っていなかった。だって麦は『ディスコ探偵水曜日』を上巻しか所持していないという設定があるから。坂元裕二が脚本を担当しているからには『ディスコ探偵水曜日』を上巻だけしか持っていないのは決定的なメッセージだろうな分かりづらいけどと読み取ったから。

そこに触れないで論を進めるのはどうなのって舞城王太郎好きとして感じた。

いやいや、そもそも麦は『ディスコ探偵水曜日』を読破していないじゃん。本棚にないじゃん。それに文庫本縛りをしているから『暗闇の中で子供』を所持していないし。その二点だけでなんかおかしいってならない? だって『ディスコ探偵水曜日』の上巻だけしかないんだよ?  『コールド・スナップ』がないのはわかる。おれは超好きだけど。『九十九十九』も『暗闇の中で子供』もないのもまあ。ただ文庫本である『熊の場所』や『ビッチマグネット』がないあたりが、なるほどその熱量か……ってなりそうなのに。『鍵のかかった部屋をいかに解体するか』や『ファウスト』に掲載された短編までくると熱心なファンになって別のメッセージになるが。

麦がそうなったのってもとから優先順位が低かったものが他に優先順位が高いものが出てきたので実行しなくなっただけでそれだけしかなさそう。労働と読書が両立するかどうかはわからないが、少なくとも『花束みたいな恋をした』の麦に関してはその問題ではなさそう。なにせいずれ読書をしなくなりそうだし。そういう設定だし。

厄介なオタクのいちゃもんそう。

でもさあ。麦は『ディスコ探偵水曜日』を読破していないんだよなあ。他の作家はよく知らないので語れないが中途半端に読み漁っているだけじゃん。いやそれ自体は別にいいんだよ。ただ「自他ともに認める読書好きがそうなった」的な語り口は舞城王太郎だけでもそうじゃないし。

なのにサブカルチャー神経衰弱をやって、就職して仕事にやり甲斐を見出した途端に卒業しましたと言われてても優先順位がそうだったんだねってなるだけ。別にあなたには『id:INVADED』も『淵の王』もオススメしないし『バイオーグ・トリニティ』はそもそも誰にもオススメしない。あれ、あんまり面白くないし。他の舞城王太郎原作のマンガはいいけど作者ブランドで読むようなものでもない。『id:INVADED』は例外で舞城王太郎節全開ですばらしかったのでみんな観ましょう。

あと映画本編でも特に読書に傾倒していたような描写ではなかったし、あくまで余暇時間を持て余したモラトリアム時の一過性の趣味だったし(たまたまその趣味が親密になる契機で強調されているだけで)、ただそれだけなのに大々的にその変化を取り上げて大々的に語りだすとおれの内なる舞城王太郎が不満を持つ。あなたの友人たちは「身につまされた」んですね。そうなんですね。なんかあなたとは話が噛み合いませんね。ゴールデンカムイを七巻で止めるのは難しい。一話ならなんらおかしくないけど。合う合わないはあるし。

あとおれがパズドラをやったことがないから見落としていただけでパズドラがおもしろすぎる可能性も大いにある。むしろパズドラは息抜きでやるようなものではなく頭を使ってプレイするゲームだから麦とは仲良くなれないという人も多そう。ってのは前にパズドラの大会やってて見てたらみんな真剣にプレイして一喜一憂していたのを知っているので。

ってことを言うやつはもれなく「めんどうくさい」と一蹴されてごく少数にはすんごい勢いで頷かれたい。

舞城王太郎入門におすすめはホラーなら『淵の王』、バイオレンスミステリーなら『血か煙か食い物か』、青春ドラマなら『ビッチマグネット』、短編の傑作は『ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート』、個人的には『ドリルホール・イン・マイ・ブレイン』、三大奇書的メタミステリなら『ディスコ探偵水曜日』、原作担当作品はアニメの『id:INVADED』とか。