単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

1.

マンションの掲示板に、インターフォンの交換工事の案内が張られてあった。どうやら近々に室内工事が行われるらしい。

あ、これはまずいなとおもった。

ワンルームの部屋の下に目を向ければ、ゴミの海。その海にぽつんと収納付きベットが漂流している。上に目を向ければ、大型ラック(建築業界で働いていたとき、十三の店舗改装で廃棄されると聞いて店主に貰った。チャリも貰ったが数週間後に盗まれた)に服やら靴下やらを掛けていて、ちょっとした空中要塞みたい。机のうえは薬のシートと酒の空き瓶と缶で埋められている。

つまり、部屋が汚い。THE BACK HORNの「ハッピーエンドに憧れて」のこんがらってる日々のように聳え立つ部屋はゴミ屋敷状態だ。「墓石フィーバー」のペットボトルが山盛りならば今日は元気に病んでる証拠状態ではない。なぜなら近所のスーパーでペットボトルを常時回収してくれるから。

足の踏み場がないこの部屋での室内工事は困難極まるだろう。さすがにこのままではよくない絶対によくない。工事予定日の前日に休みをもらって、死ぬまで後回しにしようとしていた部屋の掃除をすることにした。

ゴミはゴミ袋に詰め込む。鞄や衣類はクローゼットに押し込む。それでも全然片付かないときた。もう面倒になって、直前になって残りのゴミやらダンボールやらを浴室にしまいこんだ。すると雪崩が起きて、風呂場は地震直後のような惨状になった。面倒このうえない。

 

当日、業者の人がやってきて、開口一番、「室内と浴室で工事をさせてもらいます」と言った。えっと、そんな注意書きなかったですよね。浴室でも工事をするんですか。そうですか。口に出さずに慌てたが、今さらどうしようもない。

「あの、風呂場はゴミしまい込んでて。えっと、どけたほうがいいですよね」
「大丈夫ですよ。脚立を立てれればいいのでお気になさらずに」
「じゃあそのままお願いします。すいません」

お気になさらずにとは。なんて優しい言葉なのだろう。俺はいたたまれなくなり、檸檬堂のうちわりレモンをストレートで飲みつつ、ベッドのうえで貴志祐介の「新世界より」を読んでいたが集中できるわけがない。酔いも相まって、ワンルームってまるで喉から肛門まで一本の管が通っている人間みたいだな、玄関が喉でベランダが肛門で内部なのか外部なのかわからんかんじ似ている、とか思っているうちに無事に工事はおわった。申し訳ないという気持ちを込めて、ありがとうございますと二度言った。

 

俺は前職で零細建築業者で働いていたことがあり、案件がないときは大工の手元に狩りだされていて、そのとき他人の家のドアや押入れの建付やらなんやらを手伝ったことがある。どの家でも、家主は居心地悪そうな顔をしていた。俺もまた、人の家庭のなかで居心地が悪かった。俺は三角関数は得意だったが、1cmを10と表現する狂いが許されない建築業界で働くにはあまりにも数え間違いが多く、一年も経たないうちに辞めた。これが先天的な要因が多いに関わっていると医者からお墨付きをもらうのは後日談になる。

 

人生をリセットする程の覚悟で片付ける、って歌詞は2015年以降の俺に響く。ここ数年で俺の部屋がもっとも片付いていたときは、そろそろ死んだほうがいいなと思い立ち、せっかくならばきれいな部屋で縊死しよう、と身辺整理を行ったときだった。生きているので身辺整理じゃなくて断捨離になって、当時の下書きには「人生をときめかせないと決意したときにのみ片付けの魔法を使うことができる。アメリカではこんまりとオピオイド中毒が流行っている」と書いてあった。その一週間後にはもう床にゴミが生え始めてきたから、俺ってほんと生活に向いてないんだな。ごみやモノが騒がしいが俺は大体いつも不安で忙しいからもうずっとそんな感じ。

 


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