単行のカナリア

スプラトゥーン3のサーモンラン全ステージ野良カンスト勢です!

向精神薬が含まれる曲のタイトルを集めて処方箋を書く

 コンセプトに沿って好きな曲を紹介する、いわゆるプレイリスト記事の第4弾。これまでは鳥類、動物、人生の部位とテーマにしてきて、今回は向精神薬

 過去のプレイリストはこちら。

鳥の名前が含まれる曲のタイトルを集めてバードウォッチングをする - 単行のカナリア

動物の名前が含まれる曲のタイトルを集めて動物園を開く - 単行のカナリア

人体の部位が含まれる曲のタイトルを集めて人間を創る - 単行のカナリア

 

 向精神薬とは、中枢神経系に作用し、生物の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称(wikipediaより)であり、酒と煙草、睡眠薬SSRI、ドラッグ、また大量服用したときの風邪薬や咳止め薬などが含まれる。向精神薬でも、おもに医薬品および比較的最近の曲を取りあげたい。ドラッグに関していえば、とくに洋楽まで手を広げると枚挙にいとまがないほどあるので省く。例えば、サイケトランスの1200 Microgramsは幻覚剤のタイトルだけで構成されているアルバムもあるくらいなので。

 

 説明については、以下の本を参考にした。向精神薬についての分かりやすい作用機序と、現場でじっさいにどのように処方されるかが網羅してある本。音楽の効能を薬に例えることがあるが、今回は向精神薬そのものがタイトルに含まれている曲を、薬の説明と添えて紹介していく。

ここまで進んだ 心の病気のクスリ

ここまで進んだ 心の病気のクスリ

 

 

 

未来電波基地 - エチカーム


未来電波基地 - エチカーム

  「エチカーム」は、抗不安薬デパス後発医薬品デパスは、ベンゾジアゼピン薬剤で、脳内の抑制性神経系であるGABA系に影響を与える。デパスは乱用や依存性がクローズアップされて2016年10月3日に薬事法改正によって第三種向精神薬に指定され、個人輸入が違法となった。

 歌詞に「意味のないことを思いつくのにこれ合法!」とあるが、公開された2013年とは状況が異なり、現在では入手方法によっては違法になってしまう。

 

Oneohtrix Point Never - Love In The Time Of Lexapro


Love In The Time Of Lexapro

 「Love In The Time Of Lexapro」のレクサプロは、選択的セロトニン再取り込み阻害作用を持つSSRIの商品名。2011年に発売され、比較的新しいSSRIうつ病パニック障害の治療に使用される。アメリカではSSRIプロザックが「ハッピードラッグ」と呼ばれていた経歴もある一方、SSRIを用いたための高い攻撃性や衝動性が問題視され、とくに自殺の衝動性が高まることがよく知られている。

 抗うつ薬の勘違いにたまに見られるのが、「飲んですぐに効果がある」わけではなく、効果は徐々に示されていく。例えばうつ病に処方されるときは、長期的な服用によって症状を寛解させるもので、短期的な対処のために抗不安薬と組みあわせて処方されることが多い。あとSSRIはたまに平沢進の歌詞にでてくる。

 

Doctor Zygote  - DXM DUB  


DXM DUB - Doctor Zygote - Zoot Records

 DXMとは、鎮咳去痰薬の一つであり、鎮静作用および解離作用を持つモルフィナン系薬物である。日本でDXMが含まれている商品といえばコンタックST、個人輸入できる商品ではメジコンなどがある。

 「DXM DUB」は咳止め薬に含まれる成分をタイトルにした曲。市販薬は向精神薬には分類されていない。がしかし、DXMを大量摂取したとき、ケタミンなどの麻酔薬と似ているトリップ(解離状態)を作りだす。市販薬ODによって向精神効果を引きだす行為は、ブロンやパブロンレスタミン等が知られているが、だいたい8年以上前からコンタックSTが流行りはじめたっぽい。SSRIとの併用でセロトニン症候群を起こすことがありODは非常に危険。

神聖かまってちゃん - マイスリー全部ゆめ

www.youtube.com

 マイスリーは、非ベンゾジアゼピン睡眠薬。超短期作用型。「用法容量通り」と歌詞のような適切な服用は問題はないが、アルコールとの併用で酩酊感を得るような使い方をされることがある。また、超短期作用型の睡眠薬を服用したあとに起きていると、前向性健忘を起こすことがある。起こしたことがある。

 睡眠薬といえば、ポルカドットスティングレイの「ハルシオン」や「リスミー」もある。ハルシオンに濁音が足されたBUMP OF CHICKENの「ハルジオン」は睡眠薬と関係はないらしい。

 

 Billie Eilish  xanny (Lyrics)


Billie Eilish - xanny (Lyrics)

 

  向精神薬が含まれる曲のタイトル、中でもLSDやコカインといったドラッグではなく医薬品のカテゴリーだと、もっともタイトルにされているのがXanaxだろう。

  Xanaxはソラナックスのことであり、ベンゾジアゼピン抗不安薬。中期作用型。アメリカではザナックス(Xanax)の名称でレクリエーション目的で流行っていて、2017年にリル・ピープが鎮痛麻薬のフェンタニル抗不安薬ザナックスの過剰摂取で死を迎えたケースもある。その後ザナックスをテーマにした曲が増えているっぽい。

 「xanny」では、「I don't need a Xanny to feel better」と良い気分になるのにザナックスは必要ないといい、さらには「Don't give me a Xanny, now or ever」と、今も今後も私にザナックスを渡さないでね、と否定している曲。「Xanax」のタイトルで肯定している曲も多いなかで、めずらしいアプローチといえる。

 

 A$AP Rocky - L$D (LOVE x $EX x DREAMS)


A$AP Rocky - L$D (LOVE x $EX x DREAMS)

 ドラッグについては省くつもりだったが、精神活動に何らかの影響を与えられている感が際立っているので紹介。スティーブ・ジョブズは「LSDの摂取は、人生で行ったことの中で最も重要な2-3の出来事のうちのひとつだ。サイケデリックの経験がない人には、まったく理解できないだろういくつかの事柄がある。」と語ったらしい。まったく理解できないだろういくつかの事柄のひとつが、この曲の「じっさいにLSDを摂取するとどうなのか」。

 

flower - 昏迷の味 


昏迷の味 - flower

 曲名には向精神薬は含まれていないが、あきらかに風邪薬を大量服用することで向精神効果を得ている。イラストに、エスエスブロン錠の瓶のような物体が描かれているし、「風邪でもないのにどうしてそんな物を持って幸せそうにしているんだ」と分かりやすい表現もある。

 「何時に始めたっけ?大体十時くらいだっけ?もうそろそろ始まるんだ不思議な世界が」は、市販薬ODの効果のひとつ、服用してから効果が出るまでのタイムラグについても抑えている。「きりがなくて抜け出せそうにないんだ」、「ほんとはこんなことやめたいんだ」と依存状態の葛藤も歌われていて、一般薬依存が10代で増加しているという現状に世相を反映しているといえよう。

 近所の治安があまりよくない地域のドラッグストアでは、「ブロン錠は一人一瓶まで」「未成年には販売しません」「監視カメラあり」と厳重に取り扱われています。まったくの根拠はないが、ドラッグストアでのブロン錠の取り扱いをその地域の治安のバロメーターとおもっているが、まったくの根拠はない。

 

 最後に一曲。

 向精神薬のタイトルを含まないが、向精神薬のコカインについてのみ歌っている曲を張る。Crystal Castlesの「Untrust us」。たたひたすらThe cocaine is not good for you(コカインはあなたにとってよくありません)、とトリップ感のあるエレクトロサウンドのなかで呟いている。


Crystal Castles - Untrust Us

 

 他にもないかと記事を書くためにいろいろと調べてみたが、うつ病や不安障害に対するSSRI抗不安薬睡眠薬が曲名になることは見かけたが、総合失調症に対するSDAやMARTAといった抗精神病薬や、双極性障害に対するデパケンやラモトリギンといった気分安定薬を見かけることなかった(リチウムはある)。

 おそらく、音楽は薬みたいと表現するときに想定されているのは、大きくくくれば「抗不安」効果のことだろう。この表現は、総合失調症や双極性障害などの「脳のバグ」としか形容できない症状を緩和する薬には適用されない。ただ、それは現在の話で、ありとあらゆるものがカタログ化されてカルチャー化していく流れのなかで、そういった曲が出てくるかもしれない。

 そして、俺はまだ服薬をしていない時期に「この音楽は薬みたいです」と書いていたのだが、じっさいに正しい用法・容量を守った服薬(SSRI抗不安薬)の効果を体験してみると大げさな表現をしていたなと感じる一方で、心理状況にとタイミングによっては曲を聞くことは低用量の抗不安薬ぐらいの効果はあるようにも感じられてそこまで大げさでもなかったと思いなおした。

 曲は曲、薬は薬。だから向精神薬が含まれる曲のタイトルを集めて処方箋を書いてはいけない。比喩は比喩。向精神薬が含まれる曲のタイトルが好きで集めているが薬事法は守っている。